33・鹿部ヒロキの視点・お嬢とオヤジさん
「ねぇパパ、聞いてよ…」アキラの甘える声。
俺から見ると、続く『お願い』は大抵碌でも無いものがその殆ど…と相場は決まって居るので、親父さんは聞くより早く「ダメだ」と否定から入る。
「ちょっと…娘が真面目にお願いしようとしてるのに!」
畳のある和風の居間に、座って新聞を読むアキラの父、千鳥誠治は和装でこの空間だけ昭和に戻った感覚がある。
まあ、昭和の時代はこの鹿部ヒロキも、リアルには知らない世代だが…。
「アキラ、ソコに座りなさい」
「座って居るって」
「違うわ!父の膝に座るのはやめんか!って話だ!」
「も〜パパのいけず…」
「お前のお願いは露骨だからな…誰に似たのか」
「何言ってんの…パパに決まってるじゃん」
「断固違うわ!」
父親の横にちょこんと座るアキラは昔から変わらず、甘え上手だと思う。
実父でなくとも簡単に落ちるだろう。
「ねえ、私の大切な人がぁ~ずっと困っててぇ…」
「《《お前の大切な人》》?」
「親父さん違いますって…お嬢の最近できた友人って意味ですぜ」
思わず助け舟を出してしまう。
「ヒロキ…お前も知っている奴か…」
「う…あ、はい…」
「男か?!」
「そうですが…」
「お前が付いていながらかぁ!!」
吹っ飛ぶ俺…今日に始まった理不尽ではないが…俺じゃなかったら死んでいるんじゃないだろうか…
「パパ…その子、国木戸健一君って言うんだけど…」
「く…国木戸だと?」
「知ってるの?」
「健一…ってのは…奴の息子か?」
「奴っていうのがどなたか知りませんが…母親が北欧の人ってことで」
「………そうか」
アキラの親父さんは、そのまま出て行ってしまった。
「どういうこと?」「さぁ…」
きょとんと取り残されたお嬢に質問されても答えようがない感じでその後姿を見送る。
暫くしてから、親父さんから俺宛てに電話が入る。
「おう、ヒロキ…この件は勝手出来ないからよ…その息子に会わせろや」
「では、放課後お連れすればいいですかい?」
「そうだな…オレはちょっと野暮用でしばらく忙しくなる。アキラに手を出させるんじゃねぇぞ…」
「手を出させるって…どっちがですかい?」
「怒阿呆!どっちもでだ!」
「へい」
学校内での出来事で済まなくなってきた…というのが俺の素直な感想。
まあ、お嬢も無茶はしないと思いますが…果たしてどういう展開になるのか…
「あの……どう言う…」
喫茶店のテーブル越しにハム助が座り、こちら側にはお嬢と親父さんが座って居る。
俺はその横に立って状況を見守って居る。
強面のオッサンとヤンキーギャルが対面に座れば、大概のヤツはビビって縮み上がると言うものだ。
ハム助も例外なくいつも以上に小さくなって居る。
その後ろ、四人がけの席には、桝村宗一郎、古賀澤はるか、花鶴みゆきが座って耳をダンボにしている。
「おじさんの仕事は、依頼がないと動けないんだ…坊主は親父さんの死後苦労して居るみたいだが…おじさん、その辺りのことちょっとばかり整理して、悪い様にはしない…って言う事を出来ると思ってんだ」
「それは一体…」
「ごめんね、モンチ。パパにモンチの問題話したらさ、なんか力になれるかもって。だけど、勝手には動けないから、正式に依頼して欲しいって事なの」
「ハム助、千鳥の親父さんは見た目こんなんだが、実は弁護士なんですぜ。どう見ても真逆の筋モンにしか見えませんグホッ…が…」親父さんが振り向きもせず肘鉄くらわせて来る。
「ビビらせちまって悪いな。実はお前の親父さんは知らない仲じゃないんだよな」
「ち、父のことご存知なんですね!ぼ、僕、父の思い出が偏ってて…それに、あの後…何も、て、手元に残ってないので」
「まぁ、若い頃ヤンチャしてた時にな、お前の親父さん滅茶苦茶強くてな…「国木戸」って聞きゃ大概の奴は逃げるくらいには名を馳せてたってもんだ」
俺も喧嘩じゃちったあ名を知られたモンだが、親父さんにはついぞ勝てなかったもんだと豪快に笑う。
この親父さんに「勝てない」って言わせる人は…人間なのだろうか?俺が小童扱いされる理由が見えて来る。
しかし…この愛らしい小動物ハム助からはその姿が想像できない。
「おじさんはまぁ、こんなナリだからよく勘違いされるんだが、一応カタギでな、どっちかと言うと、足抜けやヒロキみたいな宙ぶらりんな輩を更正させる施設の運営もやってんだわ…まぁ、客がそっち方面ばかりなんでな、ワハハ、朱に交われば赤くなるってな」
「ウチのパパ…お父さんはスゲェんだぜ」お嬢の自慢と言うわけだが…
「お前さんの親父さんは残念だったな。だが、船にも船員にも、当然本人にも保険は掛けていたはずだ…借金を背負い込む様な無様は奴がするとは考えづらい。一度経緯を調べさせてくれないか?ナニ、手数料なんざ取らねえよ」
「す、少し考えさせてください」
「勿論だ、何か決まったらここに連絡してくれ」と千鳥の親父さんは名刺を渡す。
「じゃあな、若人の集まりに厳ついオッサンが混じって悪かったな…ココは奢らせて貰うわ」
「あ、ありがとうございます…あ、あの…」
「礼は娘のアキラに言ってくれるかな」
そう言って親父さんは立ち去った。
「お嬢…」
「ああ、そうだな。…じゃあね、モンチ!」
俺たちも親父さんに続く。
後ろで【クマとも】メンバーが騒いでいるのが聞こえたが、無視して店を後にした。




