32・真相に辿り着くクマ
「どうする?みんなお前のこと好きだぞ」
何かの悪い冗談かと思えなくも無い一言でも、言った千鳥さん本人含めて誰も否定的な雰囲気を持たない。
にこやかだったり、驚いていたり、照れていたり、睨む様な視線でさえ、そこに冗談を含む冷やかしの音を感じない。
「じょ、冗談ですよね?」…という言葉さえ差し込めない。
大体においてボクはコミュニケーションは元より苦手だ。その場に合わせた気の利いた言葉など咄嗟には出ない。
ここ数日間で上手くやれて始めている……と言う、少しの自信を持てたつもりであったが、そんな小さな自覚など遥かに上回る「《《他人の意志を受けて自身の意志を表明する》》」極めて難しい対応を、しかも、このメンバーの中で、更に全員に向けて……無理。
「ぼ、僕は…」
次に繋がる言葉が出ない。
ただ、普段感じる周囲からのプレッシャー等は無い…
皆んな待ってけれているのだ。だが…
すると、千鳥さんが僕の横に来て肩を抱く。
今日は肌気ていなくとも、その暴力的な胸の圧力は感じて、僕は男なんだなって思う。
「モンチ…【クマとも】はモンチを追い詰める会じゃあ無いんだ。悪いな…だけど、今モンチが噤んだ言葉も話せる仲になりたいとは皆んな思っているんだぜ?」
千鳥さんの甘い匂いは僕の心を掻き乱す。
だが、それ以上に語られる言葉が素敵だと思った。
「お嬢、距離感バグってます…ちび助が固まってますぜ」
この鹿部君が僕に好意を?
「アキラさん…!」その先の言葉が続かない古賀澤さんはどうして僕を…
「不純異性交遊は風気違反だ!」規律と成績と評価の模範である桝村生徒会長は、電車の中で僕に興味があると言った。
図書委員のカウンター越しに僕を観ているみゆきちゃん…花鶴さんはどうして今…いや、ずっと彼女は図書委員会としてこの場所を、引いては僕を見守ってくれていたのだろうか?
気付かず知らないふりはもう出来ない。
「ぼ、僕も、皆さんのことが…す、好きだと思います。ざ、残念ながらラブではないと思いますが…赤い糸の伝説って…と、とても素敵だと、思いました。その縁で…み、皆さんに、クマにしちゃいましたが、ソレで繋がって、【クマとも】に…な、なれたと思えば…なんてす、素敵なのかと…す、すいません…まとまり無くて」
「良いのではないだろうか?国木戸健一君。君の今の正直な気持ちを僕、桝村宗一郎は支持する」
「私、古賀澤はるかも支持します」
「勿論ウチ、千鳥アキラも全面支持するよ。でもウチは宣言するけど、モンチの特別になる為の努力も惜しまないぜぇ」
「他人がどうのでは無く、自分の意志を貫ぬくのは時として必要な勇気だ」
「私、花鶴みゆきは国木戸健一君を全面推しです。コレまでも、これからも!」
なんか既にコレまでに感じたことがない嬉しさが込み上げてくる。
「僕は…今はそもそも…お、お見せできません…が、自分の容姿に…む、向き合うことをさ、避けて来ています…」
みんなの視線を感じる。
少し奥から見つめる「好き」と言ってくれた花鶴さんの顔を見る。
「み、みゆきちゃんは…む、昔の僕を知っている…と思います…が、ぼ、僕は母がヨーロッパ出身…で、ほ、他のひ…人とちが…うのが、目立ちましたが、それを…ち、地域では基本的に…基本的に…う、う…受け入れ…られ…づらい……」
吃音は、感情的な盛り上がりが入ると強く出る。抑えようとするとより酷くなる…落ち着け僕…
「大丈夫だよ健ちゃん…ここに、健ちゃんのこと悪くいう子は居ないよ」
花鶴さんの一言が染みる。
「あり…がとう。と、とにかく、多くの人が好意的には接してくれなかった…んだ。みゆきちゃんだけは、そんな中ちゃんと話をしてくれてたんだけど…」
「ごめんね…健ちゃん…私、ちょっと世間ずれしてて鈍い子だったから、健ちゃんが差別されたり、陰口叩かれているのに気づいてなくて…お父さんのことも何も知らなくて」
「い、いいんだ…みゆきちゃんの存在は…僕の中で小さくないんだ…中には、ぼ、僕の話を聞いてく、れる人も、いたって…お、大きいんだよ」
「僕のお父さんは、漁師だったんだ…で、でも…あの…」少し過呼吸が入る。
「海難事故で…しゃ、借金…が…だ、誰も助けて…くれなくて…」
下を向くな…きっとここに居る人たちは僕の話を聞いてくれる…
ふと背中に手が置かれる。
「モンチ…悪いがその話…筆談でも後でメールでもいいから詳しく教えてくんない?」
「え?」
「大丈夫、何も悪いようにはしないさ…なあ、ヒロキ?」
「お嬢…俺からは何も…言えないですね」
「ふん…」
「プライベートにみだりに首を突っ込むのはよく無いが、何か我々にも力になれる事があるなら聞こうではないか?」
「おい、堅物…そう言うのはいいんだって」会長に対する千鳥さんのツッコミは厳しい。
「私たちは未だ学生で、出来ることには直ぐに限界がきます…ですが、あなたが抱えている問題に耳を傾け、何が有効なのかを相談するくらいは出来ます。でも、不思議ですね…何だかこのメンバーなら何でも出来そうです」
「あ、ありがとう…みなさん。か、家庭の事情は…まぁ、母が頑張って居るので、僕があとはきちんと結果を…出せれば」
「よし、いいじゃない!先ずは【クマとも】勉強会ってヤツをスタートしようぜ、それなら図書室の正しい使い方だしよ…」千鳥さんは明るく意外とまともなことを言う。
「それなら、放課後全員集合は難しいかも知れないので、国木戸君はコレまで通りにここに来るとして、持ち回りで月曜日から金曜日迄担当を決めようではないか…?」
「お嬢の場合はむしろ教わる方なんでは?」
「お、ヒロキ言うね…まぁ、ウチは保健体育でも実践指導しよか?」
「不純異性交遊は許さん!」桝村会長がツッコミ。
「じょ、冗談に決まってるじゃんみんな堅いなぁ…あ、はるか怒ってる?」
そう、僕の家の事情も僕が僕自身にかけた呪いもここでは無かったことにしてくれるのだ。それが嬉しい。




