31・鹿部ヒロキの葛藤
「全員好きだろ」
俺にとって心に刺さる言葉だ。
お嬢の好意に対して応えられず、親父に死ぬほどボコられて尚俺がお嬢の側に居ることが許されるのは、なんて事はない、俺がゲイだったからだ。
国木戸健一は正直どストライクだった。
俺は自分がそうじゃないか?と疑ったのは年少食らった中学の時だった。
同室になったラリって親をボコして入所した色白のハーフと仲良くなった時に、そっちに目覚めた。
体の関係にはならなかったが、互いにそうだと感じるものがあった。
娑婆に出て入ってを繰り返してお嬢の親父に拾われて自分の立ち位置学んで、今がある。
その事に不満はないし、お嬢を守ることに雑念はない。
だが、コイツはヤバいと感じた。
お嬢が自分のモノにしたいと言った時には思わず否定の言葉を吐いてしまいそうになるほどであった。
《《アレは俺が襲う前提の話だった》》
全く困ったお嬢だと思ったが、もっと困ったのは俺自身のこの複雑な想いであった。
だが、ソレは秘めたる思いに留めるべきオレの弱点とも言える部分と言えるだろう。
お嬢はそこ迄分かって言っているのであろうか?
分かっていそうで怖いし、分かってなさそうでもやはり怖い。天真爛漫の怖さを体現した人だ。
国木戸健一をハム助と称したのは、やはり理由がある。
ハムスターが特段好きなわけではないが、小動物系固有のチマチマした動きが普通ならイラつく所作になるところを、ハムスターやげっ歯類系がやると可愛く見える。何故なのだろうか?
考えて結論着いたのは「必死にやっているのに滑稽だから」だった。
国木戸健一にはその気配がある。お嬢も同じようなことを言っていた気がするが…彼の必死さは愛らしく思える。
逆に、桝村宗一郎…お前は嫌いだ…スキの反対は無関心というが、そういう事では多分ない…ヤツは本気じゃないのだ。何事も余裕でこなす。必死や本気という言葉を届かない無力な一般人が足掻いているとしか見ていないのではないかと思うことがある。
ソレがムカつく。
好きになれない。
だが、先日電車の乗り換えで別れた際に、奴とハム助が反対側ホームに降り立ち談笑している姿を見た時、かすかに見せた楽しげな笑顔は少しだけ琴線に触れた。
俺としては、お嬢に害成す輩でなければ、無視を決め込むのだが、国木戸健一の関心を取り合うのであれば相手になるしかあるまい。
そして、古賀澤はるかだ。
お嬢の白黒反転したような存在だ。お嬢にそうなって欲しいとまでは思わないが、規則をきっちり守り切った上で個性を出すその姿勢は俺でも尊敬する。
お嬢に仇成し悲しませるなら相応の恐怖を味合わせて距離を置かせることも考えたが、極端な反対側に居る同種をお嬢が気に入らないわけがなく、結果的には仲が良くなってきていると言えるだろう。
最期に加わった花鶴みゆき…彼女の立ち位置が読めない…だが、少しだけ俺に似た感覚を覚える。
つまり、《《一歩引いた傍観者》》だ。
彼女は何か非常に強固な殻のようなものを被って隙を見せない隔絶の距離感であったが、国木戸健一との接触で突然存在感を増した。
そう、このマスクを被って正体をひた隠す国木戸健一は今や特異点となって周囲の人間の見えない正体見ないなモノを引きずり出していると言えるだろう。
俺は自身に暴力装置としての絶大な自信とお嬢の壁としての立場を守り切る使命以外を排除して来ている。
だがこうしてこの瞬間、思考に囚われて周巡している時点で既に大きな問題だ。




