30・桝村宗一郎の葛藤
「全員が好き」の衝撃は、アキラの一言であったがそれぞれの核心を突いた一言であったことは間違いない。
事実、僕はその単純な一言に動揺が隠せなかった。
僕は僕にふさわしい相方に古賀澤さんを選び、ともに並び立つことこそ至上と信じて疑わず、その努力を惜しまなかった。
先だって「僕はゲイではない」と宣言したことも含めて、彼の存在は逆に僕の中で言い訳をしなければならないほど大きくなっていたのもまた事実なのだ。
こんなことが、あって良いのだろうか…いや無い……と気安く否定も僕の中で出来ない。
だが、焦るな桝村宗一郎…お前は今冷静さを失っている…いや、今に始まったことではない…古賀澤さんを意識したときから普通ではなかったのではないか?
「全員が好き」
千鳥アキラ…ルールを捻じ曲げる存在と蔑視していたが、他人に合わせて自分を曲げない強さであることがこの短い付き合いの中で見えて来ていた。彼女のその本質を見極める能力の高さは勉学などの評価で現れる類のものではないことが分かる。
その彼女が見抜いたこの『クマとも』の絆が、すべて国木戸健一に対する好意が中心にあることを理解している。
僕は生徒会長を名乗り、学校行事の運営に参加し、組織を動かすための管理の仕方を学んで実践し、問題が出てもそれに対処し人々を導くという素晴らしい主旨に対して結果を残すことを誇りにして活動してきていて、今でもそれに対して間違ったことをしていない自負がある。
だが、それはルール至上主義で、多くの人間を問題なくまとめ上げるためには規則があり、そこに如何にはみ出さないようにはめ込むのか?が基本にある。
だが、個人に対する気持ちや心の動きに対しての配慮は無い。
それを勘案すると組織の行動は成立しない。
そう、この「全員が好き」という気持ちの一致の結びつきという組織の在り方が僕の中に無かった概念なのだ。
男女の関係ではない、同性同士の関係の先に友情以外があるのかは分からない。ゲイを否定したが、概念以上に理解は無い…なぜなら経験がなく考えたことも無いからだ。
もちろん知識としては同性に対する深い思いを持つ同志であるという事は知っている。
ふっ…と笑いがこみ上げる。
何を考えているのだ桝村宗一郎…お前は国木戸健一の愛を独占したいのか?そうではない…だが、友人として向かい入れられるだけの存在として自分の中で大きくなっているのだ。それを認めればそれで良いではないか。
決着。
そう、国木戸健一のことは好きと言えるくらいの関係になりたいと思う事を事実と捉えるが、それは愛ではない。そして彼とはまずは友情という言葉で繋がれる仲間になりたいと思っている…それで十分なのだ。




