3・駅のホームにて三度古賀澤さんと邂逅す
僕は無駄と分かっていても、結局図書室の閉室まで書棚の間をうろうろして毛糸玉を探した。
古賀崎さんとまた出会ったらどうしようと想像しながらも、会っててもどうしようもない…という無策のまま時間だけが過ぎていった。
結局図書室内をウロウロソワソワして放課後が終わった。
図書委員の「もう下校時間です」という掛け声で今日は諦める。
下駄箱で靴を履き替え、校門をくぐり、駅まで歩く。
夕日に染まった帰路は物悲しい哀愁を感じる…気がする。
まあ、今日は二度も古賀澤さんに遭遇して、イベント三昧だったと思えば、中々の充実度と言えよう。
駅は最早観音崎高等学校の生徒しか使わないくらいの支線の小さな駅なので、改札を通って反対のホームに行くには踏切を渡らなければならないのだが、上下線どっちが近づいても踏切は降りてしまう。
そう、ボーッと古賀崎さんの事ばかり考えていて、目の前で踏切が閉じてしまい、丁度良い電車を見送る羽目になった。
この上り電車を直前で見送るのは、電車に間に合った学生からは「乗り遅れた間抜けがいる」と見下される。
まぁ、ホントにそう思っているかは知らないけど、僕がその立場だとそう思う。
なので、そう言う他の学生と目が合わない様に下を見る。
すると、遮断機の内側に又しても赤い毛糸玉が転がっていた。
えっ!?と思っていると、僕の隣から遮断機の警告音より小さくとも凛とした声が聞こえた。
「あら、奇遇ですね」
古賀澤さんだった。
驚きと共に「あ、ど、とうも…」と言う心底どうでも良い返答しか口をついて出てこない。
電車が発車し、乗降と反対の扉側に立つ学生からは踏切に佇む二人の学生、いや、古賀澤さんに視線が集まる。僕は路傍の石だ。線路に敷き詰められた石の一つでしかない。
カンカンカン……警告音が留まり、遮断機が上がる。
ほとんどの学生が今の電車で履けてしまったので、駅には僕と古賀澤さんしか居ない。
緊張で動けない僕。
古賀澤はスタスタと先に踏切を渡ると徐ろにしゃがみ、例の毛糸玉を拾う。
「あ、そ…れは」と僕も釣られて動く。
「はい、コレ貴方のでしょ?」
「は、はい…」
既に当然の様に渡されて、僕も否定もできずに受け取る。この毛糸玉は運命を司る赤い糸なんだろうか?
カンカンカン…下り電車が直ぐに来るため、警告音が鳴り響く。
「きゃっ!」
僕の方を見ていた(後ろを見ていた)古賀澤さんが振り向いたそこが丁度線路と車輪が通る溝の所だったらしくバランスを崩す。
僕は劇的な瞬間がスローモーションになると言うアニメか漫画でしか知らない様な現象がある事を初めて知った。
瞬間、何故そんな事をしたのかもわからないまま古賀崎さんを抱き止めて、踏み切りの反対側迄走っていた。勢いつけ過ぎて渡った先の金網に括り付けられている看板に突っ込んだ。
幸い、体を捻って看板に直接ぶつかったのは僕で、古賀澤さんにはぶつけずに済んだ。
倒れた衝撃で一瞬視界が黒く飛んだ。
意識が飛んだ訳ではないが、下り電車が去った後、奥から常駐の駅員が飛んできて「大丈夫ですか?」と聞いて来た時には自分がどう言う状態なのか分からなかった。
その後駅員室で救護を受けて事情説明をしつつ、どうなったのか客観的な視点で説明してもらえた。
監視カメラの映像だと、転びそうな女生徒を男子生徒が支えようとするが、女生徒の足が線路の溝に挟まっていた為引っ掛かり、二人でもつれて転がった…らしい。
視界を奪い、僕を動かなくしていた重しは古賀澤さんだった。混乱して立ちあがろうと足掻く僕は古賀澤さんを邪魔扱いしていたらしい。
我ながら酷い。
古賀澤さんはその際足首を捻ってしまったらしく、僕のタックルが無ければもう少しどうにかなったかも知れないと聞いた時には目の前が真っ暗になった。
駅員が救急車を呼んでくれて、二人とも病院に連れて行かれた。人生初めての救急車。
タンカに乗って居るのは古賀澤さんなのに、彼女の方が僕に「大丈夫?」と聞いて来てくれて、その時初めて鼻血が止まっていないことに気付いた。
救急隊員からティッシュを渡されると真っ赤に染まる。救急病院では鼻の治療だけでなく、MRIも受けた。その日は母が駆け付けてくれて、そのままタクシーで帰った。
古賀澤さんはどうなったのか分からなかった。
勿論赤い毛糸玉もその時は意識から遠のいていた。




