2・図書室にて再会するヒロインとボク
放課後、僕はいつものルーティンで図書室に行く。
本が特別好きなわけでは無いが、ネットも使えない僕の有り余る暇な時間を潰すには丁度いい。
特進科クラスがある崎高は図書室はそれなりに充実している。エアコンがあるし、綺麗だし、特進クラスの人達は稀に級友と勉強会など開いているようだが、一般クラスの人間は寄りつかない。
ボッチが一人片隅でボーっとして程々に本を読んで、赤点で落第しないように勉強するには非常に快適な空間と言っていいだろう。
慣れたと言っても、目立ちたく無い僕は控え目に図書室の扉を潜る。
いつも座る窓際の席を目指す。
窓際の席は陽射しが入る為、場合によっては眩しかったりで普通の感覚では積極的には座らない。
だから僕には都合が良いのだ。
席を確保して本を探そうと書棚に向かう。
そこには又してもこの場において違和感しかない【赤い毛糸玉】が転がっていた。
朝の通学路と異なり、何処から紛れ込んだのか分からないが、兎に角そこにあった。
一瞬躊躇ったが、気になって仕方ないのでそこまで歩き、拾おうとして手を伸ばすと書棚の陰から別の手が伸びてきて同時に毛糸玉に触れる格好になった。
「えっ!?」
ビックリして手を引くと、その手の持ち主も同様に「きゃっ!」と言って手を引く。
書棚の角、僕から見て死角の方を見ると、しゃがんでいる古賀澤さんと目が合った。
片膝着いて手を伸ばしている僕と、両膝を揃えてしゃがむ古賀澤さんは互いに死角だったとはいえ、急激な接近距離での邂逅は、心臓が限界突破したのかと言う様な衝撃とその後の収縮、そして激しい動悸を起こし、その鼓動の五月蠅さに思わず手を胸に当てて無理矢理抑え込もうとしたが叶わず、目の前が真っ白になった。
古賀澤さんは、同様に少し驚いた様だったが、勤めて気丈に振る舞い、改めて毛糸玉を拾うと、マジマジとそれを見つめてから僕の顔を見て優しく差し出して来た。
「コレ、あなたの?」
初めて聞く古賀澤さんの声は、優しく透き通ったまさに理想の響きをしていた。
「あ、え…っと……はい」
喉から絞り出した声は、勝手に状況を肯定していた。
思考が停止していたので、何も考えてないのと、動悸の激しさで眩暈がして来ていた状況が、沈黙よりはマシと弾き出した答えだった。
「えっと…あなたは手芸か何かされるの?」
「へぇ?!」会話が続くとは思わなかったので素っ頓狂な声が出てしまった。
「たしか…朝も毛糸玉を見て…」しゃがんだまま小首をかしげて指をほほに着けて悩む仕草も完璧すぎて見惚れてしまう。
「その時も…目が合いましたよね?」
真っすぐに僕の顔を見据える彼女の整った顔は、アニメや漫画やましてや生成AIの可愛さなど吹き飛ばす愛らしさと美しさをたたえていた。
その存在力に圧倒されて見つめてしまい、動けなくなる。魅了されるという言葉の本当の意味を初めて知った。
「あれ?違った?」
古賀澤さんの確認の言葉に、慌てて反応する。
「はい…い、いえ……えっと、違わないです」
「ごめんなさい、急に話しかけちゃって…」
古賀澤さんは、ゆっくりと立ち上がって微笑を浮かべながら立ち去ってしまった。僕の返答があまりに的外れで呆れてしまったのかもしれない…だが、こちらはまだパニックが収まっていない。
だが、こんなところでしゃがみこんだままも居られない。
棚に手を添えながらなんとか立ち上がる。
ふと、先ほど古賀澤さんから渡された赤い毛糸玉を自分が持っていないことに気づく。
あれ?一体何処に…?
僕はここで何をしていたのだろうか?
……毛糸玉を探して本棚の間を歩き回る。
心のどこかで、見つからないのだろうという不思議な確信があった。
「運命の赤い糸」
だが、あの毛糸玉は何処にも誰にも結び付いていなかった。
都市伝説では、ある日小指に結びついた赤い糸が見えるようになり、それを手繰っていくと運命の出会いがある…というような話だったと思う。




