22・花鶴みゆきの視点2・私の独白
小学校の頃、少しだけ仲良くなった子がいた。
物凄く可愛くて、人形とお話しているような気分。
だけど、クラスのリーダーになりたいグループ女子たちに虐められてしばらく学校を休んでしまってた。
虐められたのが原因かなと思っていたら、その子のお父さんが事故で亡くなったとかで大変だったらしい…女子グループはキモイ男子が居なくなって良かったねと笑っていて、それが許せなかったけど、逆らって注意するほどの勇気も行動力も私には無かった。
そのあとその子は引っ越したとかで学区が変わって転校して行った。
しばらくそのことを忘れていて、高校に進学してから気が付いた。
十年ぶりになるその再会は、ドラマチックと言えるだろうか…
「彼」は最初誰だか気が付かなかった。いつも大きなマスクをしてあまり大きくない背を丸めて歩いていて、でも、フワフワしたライトブラウン髪の毛に昔の記憶が刺激された…
国木戸健一君
同学年で聞き覚えのある名前だった。クニキドという苗字が珍しかったが、当時小学校低学年だったので、あまり意味わからず「健ちゃん」と呼んでいた気がする。名前は普通の男の子の名前だけど、見た目は天然パーマの柔らかい茶色の髪の毛で日の光が当たると金色に輝く薄さだった。
顔が小さくて女の子みたい…そう、それが私の知っていた「彼」だった。
月日も経って小学校の時は男女の差なんて分からない時期もあったけど、高校生にもなれば男の子はひげも映えるし声も変わるし体形だって…
「彼は」確かに年齢相応に大きくなっていたが、想像するままに大きくなっていた。1年の時はクラスが違ったが、「彼」に確信出来たのは私が固執した図書委員になって、彼が放課後に入り浸るようになってからだった。
二年になって同じクラスになり、名前を見て確信した。
でも、本当に小さいときに一緒に少しだけ遊んだ仲なんて、覚えているはずがないと思っていた。「ねえ、小学校の時話したことあるんだよ?」
「ねえ、国木戸君…髪の毛鬱陶しくないの?」
「え?あ、ぼ、僕の事?」
「前がそれだと見えなくならない?」
「ぼ、僕癖っ毛だから…と、床屋とかあまり好きじゃないんだ」
「ねえ、学校帰りの途中駅に私のお母さんが勤めてる美容院があるんだ…カットモデルになってくれればタダで散髪できるよ?」
「い、いや…いいよ…ありがとう」
「そんなこと言わずに…少し気分が変わると良いことあるよ」
私は自身の髪の毛に対する少しのケアもせずに、高校にもなって続けている三つ編みをしながらそう告げる。
何処にその説得力があるのか…でも、昔見た彼の瞳の色が忘れられない。
その輝きがもしかしたら奇跡を起こすかもしれないと思って、彼の為を思って説得を試みた。
「ぼ、僕は…ホントお金なくて…本当に…ホントに只で切ってもらえるの?」
「健ちゃん勿論だよ!」
「け、健ちゃん?!」
「あ、ごめんね…私、国木戸君の昔をちょっと知っているんだ…」
「み、みゆきちゃん?」
私の心の中にスポットライトが当たる。
「覚えててくれたの?!」
「ご、ごめんね…あの頃の話は…」
「ごめんなさい…私、あなたのこと仲良くなれてたのに…なにもして上げられなくて」
「ううん…良いんだ。僕たち子ども同士だったし…今もだけど」
嗚呼、私今、小説や物語で散々触れてきたドラマの世界の住人だわ…私のような人間に主役の座が降りてくるなんて…?!
「母に連絡して、カットモデルの話をしたら、二つ返事でOKだったよ」
その日は新学期初日ということもあり、急遽図書委員はお休みして、国木戸君と一緒に母の勤める美容室に行った。
「新学期前とか三月末は忙しいんだけど、それを過ぎちゃうとやっぱり落ち着くのよ…まあ、ウチも新人入って来ているし…まあ、流石にお客さんはカットモデルだとしても当てられないけどね…」
花鶴カナ…母は、美容師として長年地元でやって来てたけど、父が急に引退してじゃあという感じで少しだけ繁華街に出て働くようになった。
なので、実は当時のことを知っている大人だ。
「随分癖っ毛だけど押さえてストレートパーマでも掛けるかい?」
「い、いえ、印象…か、変わると…母も驚くと思うので」
「じゃあせめて、前髪を少し抑えて目が見やすいようにしようか…視界が広がった方が世の中が良く見えるよ」
「じゃ、じゃあ…少しだけ」
「普段はどうしているんだい?手入れはされている様だけど…」
「じ、自分で少しづつ…」
「苦労人何だね…まあ、おばちゃんが少しだけ手伝ってあげるよ」
母は過去には一切触れることなく、爆発寸前に見えた髪の毛をスッキリ抑え込んで、わずかながらも前髪の下の美しい瞳が見えるようになっていた。
「あ、ありがとうございます…あ、頭が…とても、とても軽くなった気がします」
「大したことして無いからね…娘の友達ってんならいつでもおいで」
そういう母に国木戸君はペコリと頭を下げて店を去って行った。
「みゆき、あんたもその頭…如何にかしたら?」「うーほっといて…」
「女の子なのにね…仕方ないね…」
「あの子は苦労人さね…母親が北欧の人だったかな…気が強い人でね…まあ、地元の人との反りは合わなかったね…私は、彼女の髪の毛を切ってあげたこともあるんだよ…
一人息子だったと思ったけど…お姫様みたいに可愛いね…
言ってあげた通り、明るく世の中を見渡せると良いんだけど」
「ありがとうお母さん」
「あんたが友達をカットモデルで…なんて、珍しいこともあると思ったけどね…あの王子様が背負う業は重いよ…みゆき、あんたが背負うことはお勧めしないね」
「そういうんじゃないんだ…多分…私は…」
次の日学校に行くと「なあ、花鶴っち~」いきなり千鳥さんに声を掛けられた。少しびっくりして反応するとケラケラ笑いながら…
「んなぁ~席を代わって欲しいんだけど?」
彼の視界は開けたけど、同時に周囲にもその存在を響かせていたんだ。




