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天使と聖女は足元に転がる【赤い毛糸玉】に導かれる  作者: 黒船雷光


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17/43

17・桝村宗一郎の視点2・生徒会長の胸の内

 僕は卑怯であろうか?


 古賀澤さんが国木戸健一から渡された毛糸で編んだクマのキーホルダーを見た時に何か頭の中で弾けた音がした。


 毛糸玉の経緯は、図書委員の花鶴みゆきから報告を受けていた。僕の明るい未来、約束された賞賛される人生。完璧な計画、完璧な彼女。

 古賀澤はるか。


 彼女のハートを射止めたのは、僕より学力が高いわけでも無く、背が高いわけでも無く、スポーツはそこまで得意ではない僕よりもダメで自分に自信がなさそうで周囲に迎合せず独りぼっちを受容する青年、国木戸健一だった。


 その国木戸健一が事もあろうに古賀澤さんとペアアイテムなど、どうして許されようか?!と思った瞬間、我ながら驚くほど筋の通らないイチャモンとも言える絡みを行いそのクマを取り上げていた。


 しかし実際、これまで弱いだけの人間と思っていた彼は怒りも悲しみもせず「それは差し上げます。コレで僕たちは友達ですね」


 完膚なきまでのカウンター。

 正論返しどころか全てを許容すると言う人としてのスケールを感じるほどの返し。

 自分が最も矮小化している瞬間の心のどこかで「マズいやりすぎだぞ桝村宗一郎!」と声をかけているにも関わらず、その感情を止められない愚かな自分。

 全部許すと言う器…いっそ清々しい負けだと思った。


 父も祖父も偉人で僕もそうありたいと願い、頭脳と態度、成績と活動記録、テストと内申書。

 数値に現れない人としての器…


 なるほど面白い。


 国木戸健一君。君を認めよう!


 むしろ一番の興味の対象とも言える。

 彼のことが知りたい。


 放課後、古賀澤さんが松葉杖を着いて図書室に向かうのが見えた。いや、正確には僕が図書室に向かう最中に彼女に出会ったと言うべきか。


「会長は私のプライベートに迄踏み込むおつもりなのですか?」そう古賀澤さんに言われても、普段の僕なら内心はそう思っても、キッパリ否定するところだが、そもそもこの時は論点がズレている。


 僕は花鶴さんから『国木戸君が図書室入りした。但し初めて他人と一緒』と連絡を受けていた。

 変化が起きたのは古賀澤さんの干渉があってからだ。


 国木戸健一は孤高の存在であった。


 古賀澤はるかが興味を持たなければ、僕も興味を持たなかった可能性さえある。だが今は僕の1番の感心ごとになっている。

 思わず本音の一部が出てしまった。

「古賀澤さんの最近の行動には気になる点がある」


 古賀澤さんはその言葉に具体的な反応は見せなかった。何故なら国木戸君に学校一問題児と言われている千鳥アキラと鹿部ヒロキが絡んで居たからだ。


 古賀澤さんの次の行動は早かった。足首の捻挫は実際痛かろう。だがそんな事は些細な事くらいの勢いで千鳥アキラに突っかかっていった。


 後から図書室に踏み込んだ僕は受付に目線を送ると花鶴みゆきが小さく頷く。僕は頷き返し奥に進む。


 古賀澤さんを追って奥に進むと鹿部ヒロキが睨みを効かす。


 千鳥アキラの彼氏と言う噂とボディーガードだと言う噂を聞いていたが、僕の判断は後者だ。

 近寄るなオーラが凄い。僕の祖父や父にもプロのそう言ったガードは付いていたが、ホンモノは殺気のような雰囲気は出さない。

 そう言う意味では彼は彼氏も兼任する程度の友人の可能性も高そうだ。


「この件に生徒会は関係ないですよね?」

 そう言われて、威圧的な暴力装置では無くインテリジェンスも持ち合わせた有能なガードだと分かった。


 興味深い。


 結局古賀澤さんと千鳥アキラの何方が国木戸君との交渉権を持つのかで揉め国木戸君が怪我の再発で保健室に雪崩れ込む事に。


 国木戸健一のクマルックの破壊力は中々で、益々彼への興味は尽きなくなった。

 彼は鹿部ヒロキに抱えられて保健室に去った。


 誰も居なくなった図書室で僕は受付に行く。

 花鶴さんが控えめに待っていた。

「報告をいつも有り難う」

「いいえ、図書委員として必要な情報を提供しているだけです」

「まぁそれでも助かっている。ところで何故に千鳥アキラと鹿部ヒロキは関係してきたのか?」

「分かりません。ただ、今朝私に千鳥さんが席を交換して欲しいと…」

「席の交換?」

「はい、私は国木戸君と千鳥さんと鹿部君はクラスメイトなので…それで、私の席は国木戸君の隣だったのですが、今日になって突然…」


 興味深い。


「千鳥アキラはいつも…その、ああいったファッションなのかね?」

「登校時は誤魔化している様ですが、教室に着くと」

 風紀委員の目を掻い潜って…とは言え、アレは逸脱し過ぎた。


 しかし何故ここ迄国木戸君に人が集まる様になったのか…この僕もココまで彼に翻弄されるとは思わなかったので、寧ろ今まで目立たなかった事を気にすべきなのか…


 出て行った時と同じ格好で国木戸君は帰って来た。

 鹿部ヒロキに抱かれて。

 ついでに言うと更にクマになっていた。吹き出しそうになるのを良く耐えたと自分でもよく思う。


 戻って来たメンバーは特に何か変わったとは見えないが、雰囲気は大きく変わっていた。特に争点の中心になっていた古賀澤さんと千鳥アキラの間の張り詰めた雰囲気が無くなっていた。


 コレも国木戸効果なのであろうか?


 誰が独占して国木戸健一と同伴するのか?議論になり、古賀澤さんの必殺キーホルダーペアアイテム談義に持ち込んだ際に僕も持っているのだからその権利があると主張し、そのまま解散となった。


 その流れで乗り換え駅で国木戸君とホームで話す事になった。策を弄したわけでは無いが、そうなったのには何かの必然があったのかも知れない。


「せっかくの機会なので正直に聞こうと思う」


 僕は国木戸君に直接訪ねる。

「君はここ数日だけで、周囲が激変している状況に気づいているのではないかと思う。

 正直に言おう…僕は君のことが気になっている。そう、君に好意を向けてきているメンバーが急に増えたことに対する君の混乱は理解できる。

 あ、安心したまえ…僕はゲイではない…気にはなっているがそれは好きとかいう感情とはまた別の、君個人に対する純粋な興味だと理解してもらいたい」


「は、はい…よく分かりませんが、会長の言わんとすることは何となく…

 実際僕も…ここ数日の出来事の情報の波に溺れて何だかよくわからなくなっていますし…

 こ、古賀澤さんが赤い毛糸を…ぼ、僕に仕掛けていたのも理解が追い付きませんし、千鳥さんが急に僕に対して興味を持ったのも突然どうしたのか…と」


「うむ。」


 こうして本人と話してみると、ごく普通の青年である事が分かる。正直で真面目で…だが、喋る事は得意では無い。


「あ、あの、僕は…少し、き、吃音があるので…お聞き苦しい事が…」

「国木戸健一君。僕は一度でもその事を指摘した事があるかね?僕は、その事を全く気にしない。君はキチンと言いたい事を言葉にして伝えてくれている。

 逆に僕は恥ずかしい…僕は自分の理想に忠実でありたいと思っている。そして、その理想に叶う人間と付き合っていきたいとも思っている。…そう思っていた。

 たが、君と出会い、その考えが間違っていた事に気づいたのだ」


 電車のホームですべき話でも無いし、何故彼に向かってこんな話をしているのかも、僕は分からなくなっていた。

 だが、話してしまいたいと、そう思った。

 理性より感情が先に出ていたのかも知れない。

「あぁ、コレは主題では無いな。すまない、聞きたかったのは古賀澤さんの事だ。君は彼女の事が好きなのかな?」

 マスクで見づらい彼の表情が変わるのが伝わる。

 その動揺が伝って来る。その仕草が男の僕でさえ愛らしいと思う。


「ぼ、僕は…」


 プアアアンーーー

『下り、久里浜、三崎口方面特急電車が到着ー』


 乗り換えの電車がやって来た。

 彼の言葉は遮られ、乗り込んだ下り列車は騒がしく走り出す。車内は混雑しており、続きを話す雰囲気では無い。

 先に降りる私は「では、また」とだけ伝えて降車する。

 走り去る電車を一瞥すると。此方を見ている国木戸君と目が合った。


 僕は、彼から古賀澤さんの話が聞きたかった訳ではなかった。

「弁が立っても、伝えたい事を言葉にして伝えられなければ意味なんて無いな」


 そう独り言を言ってホームを降りて自宅に戻る。

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