16・図書室再び
図書室に戻ると、図書委員の花鶴さんがあんぐりした顔をしていた。無理もない…僕がお姫様抱っこ出ていって、クマになって再び抱っこのまま戻れば誰でもそうなるだろう。
僕は自分のカバンを確保すると、早々に退散しようとすると、鹿部君が前に立ちはだかる。
「何独り帰ろうとしてんだよ~モンチは当然この後ウチラとツルンでアフターするんだろ?」
千鳥さんが腕を絡めてくる。
「いいえ、私の迎えにハイヤーが来るので、誰かさんのせいで怪我の悪化をした国木戸君は送って差し上げます」古賀澤さんも一歩も引かない。
「待ちたまえ、不純異性交遊は風紀的にも認められない。国木戸君は僕と帰るのが良かろう」
「あ、何で生徒会長が横から割り込んでんだよ?大体、ウチが最初にモンチゲットしたんだからな。渡さないぞ!!?」
千鳥さんにとって僕はポケモンか何かなんだろうか?
「それを言うなら、私の方が彼との絆を深く結んでいる証拠があります!」古賀澤さんが出したのは、朝渡したクマのキーホルダーだった。
「あ、それ…モンチもカバンに付けてるヤツじゃん!」
千鳥さんは目敏く見ていた。「何だよおそろかよ!?」
お前たち既にそんな仲だったのか?!とショックを受けている様だが…そこに桝村会長が「うむ、私も友情の証として持っているぞ!」と割り込む。
そのお陰で一発逆転の古賀澤さんのワイルドカードが無効になったのだから迷惑なのだが、僕は何と無くホッとしていた。
「お嬢…じゃ無かった、キラ⭐︎、帰りましょう。今日のところは分が悪いですぜ」
「んなっ!…このキーホルダーはアレか?モンチが作ったんか?」
千鳥さんは切り替えが早い。とっさに振られて僕は困惑したけれど素直に答える。
「は…はい…あ、あの…毛糸玉があったので…」
すると、千鳥さんは僕の頭を指さして「じゃあ、それでウチのも作ってくれよ…」
「え?」さっき着けられたカチューシャを外すと、確かに耳に見立ててつけられた毛玉と思っていたものは赤い毛糸玉だった。
ん??
「えっと…この毛糸玉…は?」
「ん?あーねーっ…古賀澤さんが悪ノリして用意してくれた」
なんかちゃっかり仲良しで僕をおもちゃにしている気が…じゃなくて、《《古賀澤さんがが用意した》》?
古賀澤さんが毛糸玉を提供したということは…
その時鈍い僕でもいろいろ理解できた気がする……僕の運命を翻弄した『赤い毛糸玉』…つまり、これまで偶然を装って古賀澤さんが僕に仕掛けてきていた?!
僕は思わず古賀澤さんの顔を見た。
古賀澤さんの美しく澄ました顔が少しだけ赤くなる。
僕が桝村生徒会長くらい、積極性をもって物事の解決に動ければ、今僕が確信した内容を問い詰めることが出来たと思う。
だけど、残念ながら僕はそこはヘタレだった。
顔が赤くなった古賀澤さんがとても可愛くて、僕まで赤くなってしまい、何も話せなくなってしまった。
でも、何だろう…何でこんなことになっているのだろうか?僕は不思議な気持ちになった。古賀澤さんはそんな仕掛けまでして僕の気を引く必要はあったのだろうか…?
「どした?モンチ…さっきからフリーズしてっけど…お願い聞いてくれないの?」千鳥さんが声をかけてきて、僕の妄想推理の時間は終わった。
「あ、いえ、作ること自体は…その、全然…ですが…ホントに必要ですか?」
「え?何それ?依怙贔屓?」
「そそ、そうでは無いですが…え、えっと、良いですよ…明日までに用意できると思います」
「それは、俺も貰えるのか?」頭上から声を掛けられて少しびっくりする。
鹿部君まで?!
「はは…頑張ります」
これまでずっと…少なくとも高一の間は、誰とも接点を持たずに密やかに地味に平穏に過ごしてきた。この図書室もあまり人がいない状態で落ち着いていることが出来ていた。
それが、赤い毛糸玉の出現と同時に全てが変わった気がする。
勿論今となっては、毛糸玉は古賀澤さんの仕込みと言うのは何と無く理解している。
しかし実際こうしてこの僕の環境の変化は一体何事なのか…と。
先程保健室前で黒木先生は「問題児集合」と言う様な言い方をした。
桝村生徒会長は「崎高の赤い糸伝説」と言った。
ずっと独りで誰にも関わらず、関わる事を恐れて過ごして来た。
ほんの一つの転機で人が周りに集まり出すのは不思議だが、その事を少しだけ楽しもうと思える様になって来ていた。僕は受け入れることを拒否しているつもりだったけど、受け入れられることを拒否していたのだ。
だから、受け入れてもらえることを知ってしまった今、僕は変われたのかもしれない。
「さて、諸君、決着がついたのかよく分からないが帰宅の時間だ」桝村生徒会長が仕切る。
「誰と一緒にではない。皆下校時間だ!ここから出るぞ」と図書室から追い出す。
そのまま校門から出ると、古賀澤さんは迎えが来ていて車で帰った。
千鳥さんと鹿部君、桝村会長と僕は駅から乗換駅迄一緒に帰ることに。
乗換駅で千鳥さん達は逆方向で別れ、結局桝村会長と同じ方面の電車に乗ることに。
「せっかくの機会なので正直に聞こうと思う」ホームで電車を待つ間に桝村会長が意を決したような面持ちで話しかけてきた。




