15・花鶴みゆきの視点1・会長の諜報員
文学少女…と聞くと、清楚で自分があって、文学に造詣が深くて落ち着いて知識の深さでどんなことにも動じない凛とした学園にひっそりと咲く花のような少女、そう鈴蘭の様な…
に、憧れて、『文芸部』を観音崎高等学校に入学してから探したが…無かった。
伝統的にお嬢様学校からスタートしていたと聞いていた私は、そのことが信じられず、先生に聞いたり、生徒会にも問い合わせたが『文芸部は無い』と言われてしまった(因みに、『漫画ラノベ研究会』と言う同好会はあるらしい)
だが、特進科まである学校で、勉学の向上を推奨するそのシステムには、図書室の充実というサービスは必定であって、図書委員というポジションがあることに気づけば、早々にそこに在籍することにしました。
私は小説が、文学が好き。思想や幻想や信念、覚悟、運命がそこには記されている…作家の、歴史の紡がれてきた物語が言語を通じて過去に未来に遡り、私をその世界に連れて行ってくれる。
私はどうやら感情移入が激しいタイプで、小説に触れるとその世界に言語に乗って情景が浮かび意識がそこに深く浸透することが出来た。
図書委員は学年で各クラスから2名ずつ代表を選出して、当番制で図書室の管理を行う。私は極力当番を買って出ました。
本屋に行かずとも古今東西の文学に触れられる図書館、図書室は最高の施設だと思う。そこに入り浸ることができるなら最高です。
そんな図書委員で活動をして、文学少女に近づいたわ…と我ながら浸っていると、私の目の前に正に…心から望んだ完璧な文学少女の究極とも言える人物が目の前に現れました。
古賀澤はるかさん
美しい外見、おしとやかで品のある所作、勉学優秀な特進クラスでも突出した才女…才色兼備の完全生命体は私の脳を破壊した。
「事実は小説より奇なり」を人生でその目で確認することになるとは…
比較して、私は背が低く、女性として自慢できる身体的特徴も無く、髪の毛は少しだけ伸ばしているが手入れが面倒でいつもツインテ三つ編みにしています。
さらに、書籍の読み過ぎか目が悪く瓶底眼鏡…地味子、モブ子…私の印象です。
世の中残酷だと思う。そしてそんな高嶺の花と自分の理想を比較して自分を卑下してしまう自分自身が嫌いです。
ある日、何とその古賀澤さんが図書室に来ていました。
図書室でどんな書籍を手に取られるのかしら?…もしかしたら貸し出し手続きに来られる?私お話しできるかしら?!…とドキドキしていました。
ところが、古賀澤さんは本棚の奥にに行ったまま、しばらく姿が見えなかったので何か調べものをされているのかなと思ったが…
余りに長い時間一カ所に留まっている様なので、閲覧コーナーに移動せず立ち読みでもされているのかなと思い、席をお勧めしようと思って様子を見に行くと、確かに郷土の歴史を綴った図版を見ていらっしゃるようでしたが、どうも様子がおかしいです。本棚越しに何かを観察している様な…
声をかけるのも憚れるので、その視線の先を見てみることに…本棚の向こうには閲覧コーナー。
そしてそこには、私のクラスの国木戸君が来て座った。
「えっ!つまり…どういうことかしら?!」
私の書籍と言う文芸に支配された空想を閉じ込めた図書室という世界で、何かリアルな物語が起きる予兆に満ちています!
古賀澤さんの不思議な行動の起点がもしこの図書室の常連国木戸君と言うなら、ちょっとしたスキャダルでは無いかと心がざわめきます!
実際事件は起きました!
古賀澤さんは赤い毛糸玉を使って国木戸君を釣り上げることに成功したのです。運命の赤い糸、互いに触れる驚きと出会い…
流石です!流石崎高の奇跡、容姿端麗才色兼備の古賀澤さんの脚本は完璧です!
ですが、その目撃者として私のようなモブキャラを計算に入れないのはらしくありません。
そして、その甘さは更に狡猾な人物が容易に状況を活用しようと行動するものです。
私気付いてしまいました…そこの行動を監視するものがいる事を。
そう、崎高の双璧、初代完璧超人生徒会長桝村宗一郎その人です。
勿論、会長が図書室前の廊下をウロウロしていたら悪目立ち百パーセントです。
つまり、私が、会長のスパイだったのです!
元々図書委員として月一回の報告は生徒会に必要でした。暇ですることの少ない委員会内で積極的に参加する私は図書委員代表として報告会に参加していました。
「今月の図書室利用人数は十五名、内普通科生徒三名、特進科十二名。貸し出し書籍は七冊。利用の多くは自主勉強、及び図書室内閲覧コーナーでの利用に留まっています」
「うむ、報告ありがとう!利用状況は芳しいとは言えないが、問題が無いとも言えるな。特筆すべき点はあるかね?」私の報告に桝村生徒会長が応じる。
「特筆すべき…は今はありませんが…約一名、常に放課後まで利用する生徒がいます」
「少しだけ気になるな。だが問題行動が無ければ、一旦は静観する方が良かろう。使用制限をする様な場所でもない。もし、何か問題を抱えている様なら、直接介入せず、カウンセラーの黒木先生に伝えて対応頂こう」
次の議題…と進める各種他委員会報告の中、私のスマホが震えた。
生徒会委員会の連絡網で登録のSNSメッセージグループがあるが、桝村会長から直接のダイレクトメッセージであった。
『差し支えなければその生徒の名前を把握しておきたい。表面上わからない問題があるかも知れない』
個人宛のメッセージは基本的に明言は無いが暗黙のルールとしてプライバシーの問題も考慮して委員会等で知り得たとしても使わない。
今回は例外と言うことなのだろう…思ったが、平々凡々の私の人生に光が差したとその時感じたのは間違いないです。
『国木戸健一さんです。私のクラスなので良く存じております…』私は得意満面で知っている情報を全て伝えていました。まぁ、私の知り得る情報などたかが知れていますが。
以来、私は観察者として逐一会長に報告する様になりました。
そしてもう一つ私には秘密が有ります。
そう、もう皆様もお気付きかと思いますが私は、国木戸君の事が好きなのです。
ですから、彼のことは何時も見ています。
何でも知っていますとは言いませんが、彼は私のような地味子からしても安心出来て愛らしい、目立たないし目立つことを拒む姿勢に好感度が高いのです。
そして、今回の一件を通して全て理解しました。
生徒会長はプライドが高く、一年後輩で入学して来た古賀澤さんには恐らくかなりご執心のハズ。自分の驚異に成らんとする彼女は対抗するか、取り込むか…で、彼女の容姿含めて共闘し支え合う伴侶としての姿を望んだはず。
実際、古賀澤さんは一年後期に副会長に就任して内外に完全無敵双璧の呼び声高い二人になりました。
ですが、女性の私から見て古賀澤さんに呼び声さて置きその気がない様子は見れば分かります。
聡い生徒会長もそこは理解していて、古賀澤さんが国木戸君に執心なのも察していたのでしょう。
そして私も国木戸君に悪い虫が付かないのであればと(よもや古賀澤さんとは思いませんでしたが)せっせと情報を伝えていました。
私はただの傍観者でいたくなかっただけなのかも知れません。
赤い毛糸玉から数日の間に様々な事件が起きました。




