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華いちもんめ  作者: Suzk
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星空に咲け

「私は、報道の通り、御殿場重工の社長の息子です。」



「私はあの家の人間です。隠してたわけじゃない、でも説明もしてこなかった」



「御殿場重工は、過去に___労働環境の隠蔽、事故の揉み消し、それに関わる不正と、不倫と、“なかったことにされた命” を生みました」



「でも、その時の私は生まれて間もない赤ちゃんでした。」



「4歳になった頃、隠していたことが公になって」



「何も知らないまま、私は両親に捨てられ母方の遠い親戚に預けられました。」



「何が起こったのか全く分からなかった私は」



「友達になりたいと思った子からも、好きになった子からも、何からも遠ざけられて」



「おじいさまやおばあさまからも優しい声をかけられたことはありませんでした」



「その状況から救い上げてくれたのが、Color:U社長の松江さんとASTARIA(アステリア)の皆さんでした」



「その日、私は知らない世界を知りました。」



「アイドルという言葉も存在も、こんな私でも夢を持ったって良いということを。」



「今までの話は “知らなかった” で済ませていい話じゃない」



「それを知らないふりしたまま、私が輝く資格は、私にはないと思っていました」



「でも、ここに入ってからは違う」



「私は、過去を利用して売れたいわけじゃありません」



「でも、過去があるからって何も持っていない人間だとも思っていません」



「生まれや過去は選べない、でも!!」



「これからの未来まで、誰かに決められていいものじゃない!!」



「夢を持つことまで、奪われる理由にはならない!!!!!!」



「だから、今日ここで話します」



「僕は、過去を肯定しない。でも、背負うことからは逃げない」



「僕を全部知った上で、それでも僕の声を聴くかどうかは、あなたが決めてください」




「以上です、ご覧いただきありがとうございました」

















ナツ「正直……全部は分かんない、ニュースで見た言葉も、難しかったし」



ユリ「私たち、その頃ほんとに何も知らなかったね...」



ユリ「だから今さら知って怖くなっちゃったなって、でも御殿場くんはその何倍も....」



ユカ「でも怖いって言えるくらい、ちゃんと考えてるってことでしょ」



ルイ「御殿場くん」



ルイ「今日の動画、今日の君の言葉」



ルイ「一人で言ったことにはしないでね」



御殿場「........ありがとうございます」





セナ「..................マツ〜....?」




松江「はは、バレたか」












ピッ





松江「....は〜い配信終了、っと」



御殿場「え」



ルイ「え嘘、今のまだ入ってたの??????」



ユカ「はあぁぁあぁぁぁぁあぁ...........またこいつやったな....」



松江「まぁまぁ、これコメント見てよ」






「週刊誌本当だったの、嘘だと思ってた」


「これ普通に重い話じゃん」


「今泣いてる」


「これ未成年が背負う話じゃない」


「正直今さら言われてもって感じ」


「会社がクズでも本人関係なくない?」


「知らなかったで済まないのは大人だろ」


「嫌いにはなれない」


「誰が守ってくれたんだよ」


「同情狙いに見えるの自分だけ?」


「ここまで話す覚悟すごい」


「声張るのずるい」


「夢を奪う理由にならない、ほんとそれ」


「過去利用してないって言うけど、結果注目集まってるよね」


「これ泣かせに来てるだろ」


「え、最後のガチの会話?台本じゃなくない?」


「この距離感リアルすぎ」


ASTARIA(アステリア)最高かよ」


「知った上で好きになるわ」


「お疲れさま、ありがとう話してくれて」


「余韻えぐい」


「どうせ裏で大人が書いた文章だろ」


「これ消さないでほしい」


「アーカイブ残して」


「やっぱ本人何も悪くない」


「応援はしないけど叩く気もしない」


「被害者家族の前で同じこと言える?」


「そのコメ残す勇気逆にすごい」


「企業の罪と個人は別」


「この歳でこの言葉選びできるのすごい」


「推しててよかった」


「これからも見ます」







松江「10万人......これだけの人数が君を見てたんだよ」



ルイ・ユカ「えっ!?!?!?!、10万人!?!?!?!?」



松江「今の御殿場くんはきっと10にいったかな」



松江「.....この10万人ってね」



松江「全員が味方ってわけじゃないし、全員が理解者でもない」



松江「それでも__“君の話を最後まで聞いた人数” だよ」



ルイ「……」



ユカ「10万人ってもう逃げらんねぇな」



松江「うん。逃げ場はない」



松江「でも同時に、独りでもない」



御殿場「............」




画面の向こうを思い出すように、御殿場は少しだけ視線を落とした。




さっきまで“数字”だったものが、

一人ひとりの顔を持った「誰か」になって、胸の奥に沈んでいく。




御殿場「........正直、怖いです」



ルイ「だよね」



御殿場「今まで、1とか0とか、そういう話ばかりしてきたのに」



御殿場「10万人って言われた瞬間、急に “人” になって.......」



御殿場「その全員に、何かを渡しちゃった気がして」



ナツ「.....奪われた、じゃなくて?」



御殿場「はい」



御殿場「渡した、です」



御殿場「過去も、弱さも、選ばなかった生まれも」



御殿場「全部」



セナ「.......それ、すごくアイドルっぽいわよ」



御殿場「え?」



セナ「綺麗な部分だけじゃなくて、自分そのものをステージに置くところ」



セナ「簡単そうに見えて、一番難しい」



ルイ「でもさ」



ルイは腕を組んだまま、僕をまっすぐ見た。



ルイ「 “10にいった” って悠さんが言ったの、私は分かる」



ルイ「今日の配信、上手かったからじゃない」



ルイ「逃げなかったから」



ユカ「........あぁ」



ユカ「嫌われる可能性、全部分かってて喋ったもんな」



松江「御殿場くん」




松江は、少しだけ声を柔らかくした。




松江「今日で全部が変わるわけじゃない」



松江「叩く人は叩くし、信じない人は信じない」



松江「でもね」



松江「 “知らなかった” って言わせないところまで、君は連れてきた」



松江「それだけで、今日は十分だよ」



御殿場「......はい」



御殿場は一度、大きく息を吸った。



御殿場「……じゃあ」



御殿場「僕は、ここから人生の先を生きます」



御殿場「今日話した “過去の僕” じゃなくて」



御殿場「これからの “未来の僕” として」



ルイ「それでこそ」



ユリ「やっと同じステージ立った感じするわね」



ナツ「......ようこそ、アイドルの世界へ」



セナ「ふふ、逃げたら許さないからね♡」




御殿場は小さく笑った。

怖さが消えたわけじゃない。

でも、足はちゃんと地面についている。




松江「じゃあ」



松江「次は、ステージで10万人に会いに行こうか」



御殿場「......はい!!!!!」




その言葉に、誰も冗談を返さなかった。

ここから先は、“物語” じゃなくて、“継続” だから。




松江「........さて」




松江がスマホを見て、ほんの一瞬だけ表情を変えた。





松江「タイミング良すぎるな........」



ユカ「なに?」



松江「.....約束してた人が来た」



御殿場「約束.......?」




その瞬間。


ピンポーン



室内の空気が、また一段張りつめる。



ルイ「.......今日、人来るって聞いてた?」



御殿場「いや........」



松江「今日、事務所に入所するって約束してた」



ルイ「え、入所?????」



御殿場「……?」




さっきまで “過去” を語っていた胸の奥が、

今度は “これから” にざわついた。




ユカ「.......今?」



松江「今」



ナツ「......このタイミングで?」



松江「だからこそ、だろうね」




松江は一度、御殿場を見た。




松江「無理なら断ってもいいよ」



松江「今日はいろいろ背負った日だ」



御殿場「......いえ」




御殿場は、ほんの少し考えてから首を振った。




御殿場「会います」



御殿場「今日、自分で “全部知った上で選んでください” って言いましたから」



御殿場「....僕が逃げる理由、ないです」



松江「.....分かった」




松江はドアへ向かう。

その背中を見送りながら、ルイがぽつりと呟いた。




ルイ「……どんな人?」



松江「ん〜強そうだしなんか.....いやでも、いい子だと思うよ」



ユリ「……ふぅん」



セナ「嵐の予感しかしないわね」




ガチャ、とドアが開く音。


少し間があって。



松江「......入っていいよ」




足音その一歩一歩が、

さっきまでの “静かな覚悟” の上に、確かに重なっていく。




?「......失礼します」



低めで、少し緊張を含んだ声。

御殿場は、その声を聞いた瞬間、なぜか背筋が伸びた。



松江「紹介するね」



松江「今日、事務所に入る約束をした」



秋光「秋光 斗真(あきみつ とうま)と申します。よろしくお願いします」



秋光「俺は、御殿場さんの最初のライブの生配信を見て一目惚れしました」



秋光「御殿場さんのように強くなれるなら」



秋光「アイドルとして生きることに後悔などありません」



松江「歌とか踊りの経験は?」



秋光「ないです」



ルイ「じゃあ、好きな曲は?」



秋光「御殿場さんの歌う音楽ならどれも好きです」




ユカ「..........やべぇやつだな」



ルイ「悠さん、大丈夫なの??」



松江「大丈夫だよ、これからがもっと面白くなりそうじゃない?」



松江「それに....」



松江「君の過去を知ってもついて来てくれる人はいるんだってわかったでしょ?」



御殿場「はい....!!」



松江「じゃあこれからはみんなで再起といこうか....!!」



松江「10から100へと言わず、500、1000までも....!!!!」













____________________________





それからの時間は、決して一直線じゃなかった。


御殿場の配信はアーカイブとして残され、

再生数は静かに、しかし確実に伸び続けた。


賞賛も、批判も、疑念も、全部一緒に。


「応援する」「距離を置く」「許せない」


そのどれもが同じ速度で流れていく中で、僕らは一度も立ち止まらなかった。


__立ち止まる余裕なんて、なかったとも言える。




翌年、

御殿場は正式にグループの“顔”として立つことになる。


理由は単純だった、逃げなかったからだ。


ステージで、インタビューで、歌詞の一行で。


彼は一度も「過去」をなかったことにしなかった。

ただ、それに縛られもしなかった。



秋光斗真は、想像以上に不器用だった。


ダンスは人一倍遅れ、歌は最初、音程すら危うかった。


それでも彼は、

一度も「辞めたい」とは言わなかった。


理由を聞かれたとき、彼はいつも同じことを言った。



「俺が折れたら、あの人の覚悟が軽くなる気がするので」



それだけで、十分すぎる理由だった。




二年目、

Color:Uは初の全国ツアーを回った。


小さなライブハウス、地方の文化会館、

客席が埋まらない日も、空気が重い日もあった。


それでも御殿場は、毎回マイクを握った。



「今日は、来てくれてありがとうございます」



たったそれだけの言葉が、

最初よりもずっと重く、確かになっていた。




三年目、

批判の声は減らなかったが、質が変わった。


「知らなかった」ではなく、「知った上でどう見るか」に変わっていった。


それは、御殿場が一番望んでいた変化だった。




そして四年目、


Color:Uは、Color:U 1st Dome Live "Color in Me" として事務所合同ライブを開催。

5万人規模の会場である、東京ドームを押さえた。


決まった日、松江は全員を集めて言った。



「正直、無謀だと思う人もいる」



「でもね」



「ここまで来たのは、数字の魔法じゃない」



「一人ひとりが、逃げなかった結果だ」




御殿場は、その言葉を聞きながら、四年前の朝を思い出していた。


カーテンの向こうの声、名前を呼ばれる恐怖。

“0に戻ってしまう”と思った、あの瞬間。



今、

ライトの向こうには、確かに人がいる。


顔も、声も、想いも持った「誰か」が。


御殿場は、マイクを握り直した。



「__僕は、過去を肯定しません」



四年前と同じ言葉。

でも、声は震えていなかった。



「でも、背負うことからは逃げません」



客席が、静かに息を止める。



「ここに立つ未来を選んだのは、僕です」



「そして__」



彼は、後ろを振り返る。


そこには、


逃げなかった仲間と、ついてきた後輩と、

見捨てなかった大人がいた。



「今も、これからも」



「僕は、僕として生きます」



ドームが、揺れた。


拍手でも、歓声でもない。

“理解しようとした時間”が、音になった瞬間だった。




そして、五年目..........。



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