墜ちる星
プルルルルルrッ……プルルルルルrッ……プルルルルルrッ……
朝4時半、モーニングコールを頼んだ覚えはない。
まだ寝ぼけた頭をどうにか覚まさせながら宛名を見る。
御殿場「…松江さんだ。」
少し胸がキュッとなったのは、気の所為であってほしい
と思いながら通話ボタンを押した。
松江「…あッ御殿場くん!?!?」
御殿場「はい…」
松江「御殿場くん、落ち着いて聞いてね…?」
御殿場「……はい」
松江「君の両親と生まれの話が…週刊誌に…」
御殿場「…………え?」
御殿場「は……ぇ…?今、なんて、」
外から....声がする?
松江「待って!!外見ないで、カーテン開けないで、」
御殿場「...........いるんですか」
松江「.......あぁ」
「御殿場さ〜ん! 少しだけお話いいですか!」
「事実確認だけさせてくださ〜い!」
「ご両親の件についてコメントを──」
「 “ASTARIAを騙してた” って声が出てますけど〜?」
「その生まれでアイドルやるって、どう思ってたんですか〜?」
外から聞こえる声に息が詰まってしまう。
名前を呼ばれているのに、それが自分のことだと認めたくなかった。
松江「今は YouTubeの方も減ってて...」
松江「御殿場くん、今は数字も外の声も信じなくていいから、」
御殿場「....でもこれが現実じゃないですか」
松江「....御殿場くん、」
御殿場「僕は1を0に戻すのもできちゃうんですね、」
思ってもない言葉が出てきて自分で自分を苦しめてしまっていると理解する。
言葉にした瞬間、想いが溢れてきてしまいそうだった。
松江「..........ごめん、今何もしてやれなくて...」
御殿場「松江さんは悪くないですよ、全部僕の......」
御殿場「僕の............」
御殿場「.......」
御殿場「僕のこれからの未来がいいかどうかを決めるのは、僕だ、僕なんだ」
御殿場「松江さん、僕は待ちます」
御殿場「僕は、自分のこれまでの人生を否定しませんから」
御殿場「僕は、僕だけが決められるんでしょ。ね、松江さん」
松江「.......あぁ、そうだよ」
松江「御殿場くん、随分と成長したね」
御殿場「はい、もうあの頃の何もできなくて弱い自分じゃないです」
御殿場「これからは自分のために、僕のままに生きますから」
松江「ははは、わかったよ。こっちも何とかやってみるから」
松江「数日だけ休んでてね」
御殿場「はい、分かりました」
松江「じゃあ、電話切るね」
松江「.....負けないでね」
御殿場「こっちのセリフですよ」
ツー、ツー、ツー、ツー.....
御殿場「あ〜.....うるさいなぁ」
そう言わないと、今にも泣きそうだったから。
御殿場「どこから情報仕入れてきたんだろう」
御殿場「あの日から1年とちょっとか、中学も卒業したもんか」
御殿場「僕を知る同級生が妬んで情報でも流したんだろうな.....」
自分に対しての雑音を聞き流しながら昔のことを思い出す。
僕は、もう居場所があって仲間もいるんだ。
これからのことを考えているうちに意識も遠くなっていった。
一週間後、
ようやく外は落ち着き、警戒しながらではあるが外に出られるほどになった。
あの5人に僕の話とこれからの話をするために事務所に向かうため、松江さんが迎えにきてくれたところだ。
御殿場「松江さんおはようございます」
松江「........痩せたね」
御殿場「...そうですか?」
松江「ちゃんと食べてる?」
御殿場「......はい」
この一週間で僕に関する記事が大量に出た。事実もあれば虚偽も多い。
「同情商法か、それとも偽りか__御殿場の過去に批判殺到」
「新人アイドル御殿場、過去を巡る報道でSNS騒然」
「「応援してたけど....」御殿場、報道にファン困惑の声」
「アイドル事務所 Color:U チャンネル登録者数急減__報道後に起きた “異変” 」
ほぼ全ての記事を見た。
その度に、僕は息をしている。生きているんだ、ここにいるんだと実感した。
事務所について中に入る。
すでにASTARIAの5人はレッスン室の真ん中庭になって座っていた。
ルカ「....御殿場くん」
ユカ「....!?、お前ッ、あたしらのこと騙してたのか、!?何なんだよあれ、!!」
ユリ「ユカ!!ダメだってあれほど言ったのに....!」
ユカ「だってこいつは....こんな大事なこと教えてくれなかったんじゃねぇか....」
ユリ「それは......そう、だけど....」
ナツ「私たちは御殿場くんについて何も知らない」
ナツ「聞かずに事務所加入を受け入れたのよ、誰かも知らずに」
セナ「口論するよりも今は....本人の声を聞きましょう?」
松江「....セナ、ありがとう」
松江「.....御殿場くんを君たちが “受け入れる”って決めたのは、俺はすごく誇らしいと思ってる」
松江「....確かに、あの報道は嘘じゃない。ね、御殿場くん」
御殿場「はい、そうです」
御殿場「僕の育ちは岐阜県土岐市ですが、生まれは東京です」
御殿場「僕の両親こそ報道にあったように、」
御殿場「数十年前に不倫と多額の横領がバレて挙げ句の果てに倒産した、御殿場重工の社長とその愛人の間に生まれた息子です。」
ユカ「御殿場重工って何なんだ」
セナ「ネットで言われてる “事件” が、どれくらいのことなのか、分からなくて....」
松江「うん。分からなくていい年だったし、分からないまま大人になってる人の方が多い」
松江「これに関しては御殿場くんも詳しくは知らないんじゃないかな」
御殿場「はい....」
松江「だろうね、想像以上に大きな話だったんだよ」
松江「ってことで....俺が話すね」
松江「御殿場重工は当時、“財閥” と呼ばれるレベルの会社だった」
松江「インフラ、建設、軍需に近い技術、海外投資....君たちの生活の “土台” を作ってた側の会社だ」
ナツ「.....そんな大きな」
松江「だからこそ、やったことも大きい」
松江「一言で言えば__“危険を知りながら隠した” んだ」
静かな部屋により沈黙が流れた。
松江「欠陥のある部品を使った。事故が起きる可能性を把握していた」
松江「でも納期と利益を優先して止めなかった」
ユリ「.....事故、って」
松江「あぁ、死者が出ちゃったんだよ」
御殿場「え......」
松江「数字で言えば、“数名”で済まされるかもしれない」
松江「でもその “数名” には、家族がいて、生活があって、帰るはずだった日常があった」
松江「これはただのスキャンダルじゃない」
松江「犯罪だ」
その場にいる全員が息を呑んだ。
松江「社長である御殿場くんの父親は、責任を取る前に、逃げたんだよ」
松江「会社は倒産。補償は十分じゃなかった」
松江「だから許されてないんだよ」
御殿場「.....」
松江「でもね」
松江「御殿場くんは、その現場にいない」
松江「生まれは選べない」
松江「罪は、引き継がれない」
ユカ「.......じゃあ」
ユカ「世間は、その怒りを.....御殿場に向けてるってこと?」
松江「そういうこと」
松江「 “分かりやすい矛先” だからね」
ルイ「.......それ、ずるくない」
松江「ずるいよ」
松江「でも、現実はずっとそうやって動いてる」
松江「だから君たちがそれでも今、御殿場くんと“一緒に立つ” って選ぶなら」
松江「それは、軽い覚悟じゃ済まない」
松江「叩かれるし、疑われるし、“同類だ” って言われることもある」
松江「それでも.....それでもだ」
松江「御殿場くんは、自分の人生を生きる権利がある」
松江「アイドルとして立つかどうかは、“世間” が決めることじゃない」
松江「本人と、一緒に立つ仲間が決めることだ」
御殿場「……確かに、僕の生まれは綺麗じゃないです」
御殿場「親を選べなかったのも、事実です」
御殿場「でも」
御殿場「夢を持つことまで、奪われる理由にはならない....!!」
ピンポーン
御殿場「........ッ」
松江「大丈夫、いってくるね」
ユカ「.....ごめん、少しでも疑ってしまって」
御殿場「いえ、話してなかった僕が悪いです。本当は関係がもっと深くなってから話そうと思ってたのですが...」
ルイ「....少なくとも、ここにいる全員は君の味方でい続けようと思ってる」
御殿場「本当ですか.....!?」
ルイ「創設メンバーとして...ここを手放すわけにはいかないからね」
ユカ「私もここが好きだし、.........みんなが好きだ」
ユリ「ふふ、私もよ」
ナツ「もちろん私も」
セナ「ん〜〜〜〜〜〜〜〜」
ユカ「は?」
セナ「も〜冗談よ♡、私もに決まってるじゃない」
ルイ「これで私らは全員。んで、御殿場くんは?」
御殿場「もちろん、僕もずっとここにいたいです」
御殿場「こんな僕がこうやって夢を持って挑み続けたいと思うようになれたのは、」
御殿場「あの日、あの時、あなた方に出会えたからです」
御殿場「それまで夢を持つことすら叶いませんでした」
御殿場「僕も人生を自由に生きていいんだと、心から思えました」
御殿場「そんな大切な場所を手放す訳がないじゃないですか」
松江「ただいま、いい話してたみたいだね」
ルイ「さっきの誰だったの、?」
松江「いずれ分かるよ」
松江「御殿場くん、世間が困難になってたとしても君を見てくれてる人はいるって確証ができたよ」
松江「みんな、胸張ってこう」
松江「じゃあ、これからどうする?」
御殿場「生配信させてください」
全員「えっ!?!?」
松江「えっ、一体何を」
御殿場「僕の生まれや過去について話します」
御殿場「そして、僕の存在についても。」
御殿場「全部話します、僕の今を自分たちの力で発信するんです」
松江「.......あぁ、分かったよ」
松江「みんなはそれでいい?」
ルイ「何とも無謀な話だと思うけど、それが御殿場くんの覚悟ならついていくだけだよ」
松江「ありがとう」
松江「じゃあ、生配信は一週間後の水曜日。それまでにやることやっちゃおうか」
御殿場「.......はい!!」
僕の人生を、僕のままに生きると決めたのだ。
生まれも、過去も、誰かに決められていいものじゃない。
だったら、僕は自分の言葉で戦う。
たとえまた傷つくとしても、それでも前に進むんだと。
この日、
ここが、僕の本当のスタートラインなんだと気づいた。




