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華いちもんめ  作者: Suzk
3/6

名前のない星

事務所に入ってから1年が経った。



僕は松江さんが用意してくれたアパートの一部屋に住むことになった。



一人暮らしは初めてだが、今までそんな暮らしをしていたなと思えば苦ではなく、どちらかといえば最高に幸せだ。



毎朝同じ時間に起きて、同じ道を通り、同じ鏡の前に立つ。



発声、ストレッチ、ダンス、歌。



繰り返すたびに体は少しずつ動くようになったが、

心は追いつかないままで。




「アイドルはね、笑顔が大事だよ」




そう言われるたび、鏡の中の自分を見た。

口角を上げる。目を細める。



___これで、合っているのだろうか。



笑うことに意識を向けたことすらなかったというのに。



僕は確かに、誰かに必要とされるためにここに来た。



それだけは、はっきりしている。



でも、“どうやって必要とされるのか”は、

誰も教えてはくれなかった。




ルイ「ねぇ御殿場くん、朝練お疲れ様」



御殿場「あ、ルイさんおはようございます」



ルイ「御殿場くんさぁ、明日のライブはもちろん来るよね?」



御殿場「もちろんです!!」



ルイ「君にとっては初めてのライブになるのかな?」



御殿場「そうですね、以前はこういうのに触れることは一切なかったので...」



ルイ「...テレビとか雑誌とかは?」



御殿場「テレビは...ほぼ見たことないです、おばあさまが見てるのをチラッと見た程度で...」



御殿場「雑誌もお小遣いもらったことなかったので何かを買ったこともほぼないです」



ルイ「え...それは....ネグレクトってやつ、??」



御殿場「あぁ〜.....そう、ですね、」



御殿場「でもおばあさまとおじいさまに僕を育てる義務はなかったようなものなので....」



ルイ「.......え?」



松江「みんなおはよ〜、明日の連絡するから集まってね〜」




僕の生まれについては松江さん以外には話していない。



これからの未来を一緒に繋いでいくアイドルたちには "重すぎる" から。




松江「はい、ASTERIA(アステリア)として5回目のライブだね」



松江「今回初めて...チケット完売しました〜〜〜!!!!!」



ユカ「え、まじ?」



松江「まじだよみんな〜!!よく頑張ったね〜」



松江「みんなのファン、確実についてきてるよ〜」



松江「この調子で御殿場くんも続いていこうね」



御殿場「はい」



松江「明日やるのは5曲、使う衣装は2着ずつでMC合わせて40分くらい」



松江「アンコールにこないだ合わせた新曲を持ってくる」



ユリ「アンコールなかったらどうするのよ」



松江「チケット完売したアイドルのライブでアンコールがないなんてどんだけその

ライブが酷かったんだか、ってならない??」



松江「みんなの努力が結果になるはず、きっと大丈夫だよ」



松江「それに...その新曲のパフォーマンスをSNSに動画アップしようと思っててね」



ナツ「YouTubeにあげるってこと?」



松江「YouTubeにもあげる、ショート動画も作ってインスタにもあげようかなって」



セナ「いつにも増して積極的ねぇ」



松江「新人のアイドルは発信してなんぼの時代だよ」



松江「いずれ企画とかもできたらな〜ってね」



御殿場「.................」



松江「あ、もしかして御殿場くん」



松江「今の話ついて来れてないね.......???????」



御殿場「あぁ....えっと......YouTube、?インスタ......って」



御殿場「....なんですか..........???、今LINE...?ってのしか知らなくて...」



松江「あぁ..........................」




松江さん以外の5人が目をまん丸にして固まっている。




ユカ「こいつ...どこの時代から来たんだよ.........」



ルイ「..........」



ナツ「令和に知らない子がいるんだねぇ........」



松江「あぁ、御殿場くん、とりあえず後で教えるね、全部を」



御殿場「あ、はい.....」




ルイ「( この子.........なんなんだ........? )」



ルイ「( この子……守られてるのか、壊れてるのか、分かんない........ )」






1時間後....



松江「はい、じゃあ明日の連絡は終わり。分かった?明日は朝5時から順番に迎えに来るからね?」



全員「はい!!」



松江「御殿場くん以外は通しやってて、御殿場くんはちょっと僕の部屋来て」



御殿場「はい」



松江「....あの子たちにはいつか話せる機会が来るだろうからそれまでは言わない...でいいんだよね?」



御殿場「はい、まだそこまで深く関係ができていないので...」



松江「うん.....分かったよ、無理強いはしないさ」



松江「あとさっき言ってたYouTubeとInstagramについてだけど...」



松江「YouTubeっていうのはね、簡単に言えば “自分で作った番組を、世界中に流せる場所” だよ」



御殿場「番組.....?」



松江「うん。テレビ局がいなくても、スポンサーがいなくてもいい。カメラ一台あれば、君の声も、顔も、全部そのまま届けられる」



松江「Instagramはもっと単純で、写真とか短い動画で “今ここにいる自分” を切り取って見せる場所」



御殿場「......見せる、場所」



松江「そう。会いに来れない人にも、君が息をしてるって伝えるための場所だよ」




少し考えるように、間を置く。




松江「でね、今の時代のアイドルにとって、それを使うってどういうことかっていうと......」



松江「 “待ってもらう存在” でいるのをやめる、ってことなんだ」



御殿場「......待ってもらう?」



松江「昔はね、テレビに出るまで、雑誌に載るまで、誰かが見つけてくれるまで待つしかなかった」



松江「でも今は違う。自分から名乗れる。“ここにいる” って、自分で証明できる」



松江「誰かに選ばれる前に、君が君自身を差し出す場所なんだ」



御殿場「......怖くないんですか」



松江「怖いよ。めちゃくちゃ」




小さく笑って続ける。




松江「でもね、0を1にするってそういうことだ。誰も見てない場所に、自ら立ちにいくこと」



松江「ファンがいなくても、反応がなくてもいい。それでも出す。それが “存在を証明する” ってことだ。」



松江「アイドルってさ、最初から輝いてる星じゃない」



松江「誰にも気づかれない夜空で、それでも火種を抱えて立っている存在なんだ」



松江「だからやるんだ。世界に見つかるためじゃなくて、“自分はここにいる” って、自分で言うために」



御殿場「......僕でも、いいんでしょうか」



松江「いいかどうか決めるのは世界じゃない」



松江「君だよ」





そう言って、松江はそれ以上何も足さなかった。

答えを与える気も、背中を押す気もない。ただ、視線だけを御殿場に残して、その場を離れた。



残された部屋は、静かだった。

拍手も歓声もないのに、耳の奥だけがやけにうるさい。




翌日、ライブのMCで発表があった。



「 次回ライブにて、新人男性アイドル・御殿場の初ステージ!!」



名前だけの告知。写真も、肩書きもない。

反応は.....



「え、男子?興味ないな〜」


「.......」


「行く?」

「行かな〜い、だって彼氏とデートあるもん」



と言った声がちらほら.....拍手はない。歓声もない。



それでも、決まった。やるしかなかった。







当日。


楽屋は驚くほど簡素で、

鏡に映る自分は、想像していた“アイドル”よりずっと頼りなかった。



スタッフが言う。



「えっと……客席、今のところゼロですが.....」



御殿場は、頷いた。

予想はしていた。むしろ、想像より静かだった。



松江「どうする?」



御殿場「.....やります」





アイドルになって初めての衣装を見に纏まとう。


黒を基調にしたジャケットは、身体の線をきちんと隠してくれる。

自分の弱さも、迷いも、全部まとめて包み込むように。


縁を走る赤と金のラインだけが、やけに主張していて、

まるで「ここに立て」と指でなぞられているようだった。


シャツは白。

汚れやすくて、誤魔化しの効かない色。


でもその上に黒いリボンを結ぶと、少しだけ呼吸が楽になる。

誰かの真似じゃない "アイドルとしての自分” が、そこでようやく輪郭を持ち始めた。


この服は、完成形を着せる衣装じゃない。


客席に誰もいなくても、名前を呼ばれなくても、


この衣装を着てステージに立った事実だけは、消えない。





ステージに出る、ライトが点く。


誰もいない客席を照らす光は、やけに正直で、逃げ場がない。



それでも、





歌った。




踊った。




このステージに立って歌った瞬間から、



僕はもう、ただの“誰か”じゃなくなった。





御殿場「……誰もいなくても、僕はここにいます」





声は空間に吸われ、返事はない。



それでも、最後まで歌い切った。



ライブが終わったあと、拍手はもちろんなかった。


代わりに、足音が一つ。

松江が、ステージ横に立っていた。



松江「初めてのライブ、お疲れ様」



松江「どうだった?」



御殿場「楽しかったです....ここにお客さんがいたらどれだけ良かっただろうなって...」



松江「....こないだの話の続きをしようか」




息を整えながら頷く。




松江「1を10にするのは簡単だ。10を100にするのも、時間をかければできる」



松江「でもな、0を1にするのは違う。最初から何かを変えたいなら、そこを越えない限り始まらない」




少し間を置いて、松江は客席を見る。




松江「0は、評価されない。比較もされない。そもそも存在してない」



松江「それでも立って、声を出して、“やった”って言える人間だけが、1を持つ」



松江「それができなかった人間は、どれだけ上手くやっても “誰かの代わり” にしかなれない。」



視線が僕に戻る。



松江「でも0から1になれたやつは、もう消えない。」



松江「たとえ誰にも覚えられなくても____そこに、確かに存在してたってことだけは残る」



松江「今の君は、0を終わらせた」



松江「……それだけで、今日は十分だ」



松江「それに....」



松江「今日できたよ」



松江「0を1に」



御殿場「......え?」



松江「こないだYouTubeについて話したね?」



松江「あれって生配信もできる、とは言ってなかったね」



御殿場「え......まさか、」



松江「そのまさかだよ。さっきのライブ、最初から最後までずっと配信してたの。」



ルイ「ねぇ!!コメントついてるよ!!!!!!!」



御殿場「えっ.....!?!?」




ぱる「今日のライブ、胸が苦しくなりました。でも最後まで見てよかったです」


秋「誰もいないのに、なんで逃げなかったんだ?客がいないなら中止もできただろうに……気になった」




ユカ「....ん?この "ぱる" ってやつ....」



ユリ「あぁ、あの子じゃない?」



ナツ「ASTERIA(アステリア)最古参のぱる?」



セナ「あぁ〜あの子!?最初のライブで最前センターにいた子!?」



ルイ「てか、あんたよく頑張ったな〜、よくやった!!」



ルイ「たった1人でステージに立ったなんて上出来だよ!!」



御殿場「ありがとうございます....!!」



松江「さぁ、片付けて打ち上げとでも行こうか」



セナ「今日も奢ってよね??」



松江「ははは、もちろんだよ」











翌日からSNS用のスマホの通知は鳴り止まず、電話も何本か。




松江「....はい、はい.........はい!!えぇありがとうございます、!!ぜひ!!よろしくお願いします!!」



松江「はい.....承知いたしました、失礼いたします.....」



松江「御殿場くん!!雑誌の取材だって!!!!!!」




配信のアーカイブの再生数が伸び、SNSでも拡散され一夜にして




「無観客ライブが一夜で拡散__新人男性アイドル・御殿場、配信アーカイブが異例の再生数に」



と、ニュースになるほどになった。



雑誌やテレビへの出演依頼など、1日で急増。

それに続いて、ASTERIA(アステリア)にも声がかかるようになった。



僕はまだ、この騒ぎの意味を理解していなかった。



名前が呼ばれることも、画面に映ることも、ただ遠くで起きている出来事みたいだった。


でも、あの日。

誰もいない客席で歌った声だけは、確かに自分のものだった。


それを、誰かが見ていた。

それだけで、僕はもう戻れない場所まで進んでいると言うことだけは理解していた。











_________________________________







「無観客ライブが一夜で拡散__新人男性アイドル・御殿場、配信アーカイブが異例の再生数に」






?「御殿場..........?」



?「この顔...........中学の、あいつじゃん」



?「突然消えたから死んだのかと思ってたが........こんなくだらねぇことして生きてんのか」






?「.....気にくわねぇな、笑」



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