帰路
修学旅行帰り...
御殿場「ただいま戻りました、おばあさm....」
御殿場「って....あれ.....」
御殿場「.........売地、まっさらだ。」
家がない。物理的に。
いつもならおばさんが庭でたばこを吸っている時間なのに、おばさんどころか何もなかった。
あぁ、ついに捨てられたのだ。
スマホもお金も何もない。これからどうすれば、と思った時には既に行くところは決まっていた。
ポケットから名刺を取り出し、荷物を置いて少し遠くの公衆電話がある場所まで少し駆け足で向かった。
お金は....そうだ。
あの人からもらった5000円の余りがあるじゃないか。
なんの迷いもなく強い決意を持ったのは初めてだった。
今考えてみれば、私に最低限しかお金をかけないあの人たちが進んで修学旅行へと送り出したのだ。その時は大きな荷物が数日居なくなるのだからさぞ嬉しいことだろうと思った。でもそれは、大きな荷物と永遠に離れられるチャンスだったから。
だとしても1文無しで送り出されてもな...と思う。
初めての電話。説明をよく読んで100円を入れ、名刺に書いてある番号をよく確認しながら打ち込んだ。
最初は、なんて言うんだっけ....あぁ、そうだ。
御殿場「....もしもし?」
松江「はい、Color:U事務所の松江です」
御殿場「松江さん、御殿場です。あの時の」
松江「お...?御殿場くん?思ったより早かったね、てっきり冬休みくらいにかかってくるか来ないかだと思ってたんだけども」
御殿場「家がなくなりました」
松江「..........はい?」
御殿場「実は....」
~
松江「なるほど.....君は.........、大変だったね。」
松江「僕に何して欲しい?今ならなんでも聞いてあげるよ。」
御殿場「松江さん、いや、先生」
御殿場「僕を迎えに来てください。」
松江「いいよ、どこにいるんだい?」
御殿場「岐阜です、岐阜の土岐市」
松江「岐阜か、ここからだったら....早くて3時間半、遅くて4時間半ってとこかな、待ってられる?」
御殿場「はい、何時間でも」
松江「うんうん、分かった。じゃあ、その〜....あっそうだ、柿野温泉って近い?」
御殿場「あぁ....えっと歩いて2時間とかです」
松江「うん、そんくらいなら歩いておいで」
松江「一緒に温泉入ろう、そんで一緒に帰ろう」
御殿場「.....」
御殿場「はい、ありがとうございます」
松江「よし、それじゃあ....またあとでね」
2時間、いやトボトボ歩いてもう日が暮れている。
3時間以上は経った頃、赤くて高そうな車が僕の横に止まった。
今まで無縁だと思っていた高そうな温泉旅館に行って久しぶりの温かいお湯に浸かって、いろんな話をした。
人生で最高に美味しいご飯と景色が綺麗な部屋に初めてに等しい暖かくて優しい布団。
朝になって朝食を食べた後、2人で旅館の庭園へ出た。
御殿場「松江さん、僕は両親がいません」
御殿場「というより、捨てられました」
御殿場「顔を知らない母の親戚のおばあさま、おじいさまに育てられてきました」
御殿場「そこでも満足のいく生活をしたことなんてなかった」
御殿場「昨日家に帰ったらあるはずの家が真っ更で…」
御殿場「僕はついに誰からも必要とされてないんだ、って気づきました」
御殿場「それで松江さんを思い出して連絡しました」
松江「家がなかった…って」
御殿場「おそらく修学旅行で数日家に帰らないところを狙ったんだと思います」
御殿場「ろくに服も食事も与えてくれない方々が」
御殿場「お金のかかる学校行事にすんなりと送り出してくれたのもおかしいと思ったんです」
松江「なんで…そんなひどいことを…」
御殿場「当然ですよ」
御殿場「数十年前、日本中を騒がせた御殿場重工の倒産、あの会社の社長とその愛人との間に生まれた子ですから」
松江「ッ…」
御殿場「両親は僕を置いて夜逃げしたそうです」
御殿場「そして両親の親も引き取らなかった。結局母方の遠い親戚に預かることになって」
御殿場「その度に転校を繰り返して、僕の生まれが広がるのなんて簡単なもんです」
御殿場「僕はもうどこにも行く宛がないです」
御殿場「松江さん、覚悟は出来てます」
御殿場「僕を最高のアイドルにしてください」
松江「…そうか、そうだったんだね」
松江「御殿場くん、今まで頑張ったね」
松江「.......あぁ分かった」
松江「大勢の希望の光になって、君自身が必要とされるような、そんな、世界で一番輝くアイドルにしてあげる」
松江「じゃあ外にいるのも寒いしそろそろ事務所に戻ろうか」
松江「僕は君をColor:Uに歓迎するよ」
御殿場「......ありがとう、ございます.....」
松江「さぁ身支度して、家に帰ろ」
そう言って部屋に戻り、身支度を済ませた後、
旅館を出て松江さんの車に向かった。
今まで育った土地に別れを告げるように立ち止まったが
振り返りはせず、ただ静かに助手席に乗り込んだ。
少しだけ温もりのある空間。
特に想いもないと思っていたが、いざ離れるとなると不安なものだ。
でも、もう後には戻れないし戻らない。
もう迷わない。
僕が僕でいられるために、僕が僕であるために。
僕が、必要とされる未来のために。
初めて、一歩を踏み出した。
そんな決意を胸に抱きながら、少しだけ重い瞼を閉じた。




