第七話 共鳴する追放者
私は、息を切らしながら村の戦士に助けを求めていた。
全力で走ったからか、舌が上手く回らない。だが、急がなければ……神楽さんが死んでしまうかもしれない。いや、もしかしたら、もう……?
息を整えながら、馬鹿げた考えを振り払うように頭を振る。
そうして、改めて事の顛末を口にする。できる限り端的に、できる限り詳しく、戦士に説明をする。自分でもわかるほどに支離滅裂な内容だったが、それが逆に功を奏したらしい。戦士は話を聞き始めてすぐ、武器を手に取っていた。
そうして、私が話し終えるのとほぼ同時に、戦士は私が来た方向へと走り出した。流石としか言いようがないだろう。だって、鎧を身にまとっているというのに、私よりも速く走っているのだから。
そうして、村の出口へと着き、外へと出る。
原っぱを駆け、神楽さんとスライムのいる場所へとたどり着く。だが、そこにはスライムはおらず――代わりに、ボロボロの神楽さんが1人、そこに立っていた。
「か、神楽さん?大丈夫……ですか?」
肩で息をしている神楽さんのそばに駆け寄り、そう問いかける。押しつぶされていたはずの両脚は、まるで何もなかったかのようにキレイになっている。よく見ると、衣服はボロボロではあったが傷はどこにも見当たらない。
治癒魔法の類と考えるべきなのだが……私はこの戦闘で一度も使っていないし、神楽さんは治癒魔法を使えない。一体全体、何が起こっているのだろうか。
そんなことを考えていると、神楽さんがドサッという音とともにうつ伏せに倒れた。
「え!?ほ、本当に大丈夫ですか!?」
私が慌てていると、いきなり神楽さんが右腕を動かし……そうして、地面に文字を書き始めた。
「処理……お願い……?」
神楽さんが地面に書いた文字を読み上げる……と同時に、左腕を突き出し――なんと、神楽さんの左手から、先ほどの巨大スライムが出現した。
「な、なにが起こっている!?」
先ほどまで周りを警戒していた戦士が、驚嘆の声を上げた。
だが、流石は戦士。驚きはしたものの、戦士はすぐさま剣を抜き、巨大スライムに切りかかった。それは一瞬のことで、次の瞬間にはスライムは真っ二つになっていた。
あまりの強さに声を出せずにいると、戦士がこちらへと歩いてきて……
「何があったかはわからないが、彼を治療してあげなさい。それにしても……災難だったね。帰りは気をつけなさい」
そう告げ、去っていった。
私は地面に座り込みながら、唖然とするしかなかった。……脳が、意味不明なこの状況を……理解するのを諦めたのだった。
あれから数時間後、俺たちはエルナの自宅で休息を取っていた。理由は本当に簡単なもので、あの時――エルナが助けを呼びに行っていた時、何があったのかを説明するためだ。
今はエルナの治癒魔法でなんともないが、スライムを出した瞬間、治っていた俺の傷は一瞬にして現れた。俺はそれらによって起こった精神的疲労や肉体的疲労により、何があったのかをすぐには話せなかった……と、いうわけだ。
「そろそろ、話してくれてもいいんじゃないですか?もうあれから結構経ちましたし……」
エルナが伸びをしながら、俺の方を見ずにそう言った。
「あぁ、まぁ……とりあえず、驚かずに聞いてくれよ?いや驚かないってのは無理だろうけど……」
「わかりましたから!正直待ちくたびれたんですけど」
エルナが唇を尖らせ、急かすようにそう言った。
俺はふぅと小さく息を吐き、話し始めた。
「どけよ……こんの……デブ……」
弱弱しくそんな言葉を吐きながら、できる限りの力で剣を振る。
俺の体勢や怪我……単純にこの巨大スライムが強いというのもあるだろうが、俺の攻撃が効いているようには見えなかった。
気を抜けば今にも死んでしまうんじゃないか、と思うほどには足の痛みがすさまじい。だが、こうやって痛みを感じ、死への抵抗ができている時点で、俺はまだまだ耐えられるのだろう。ただ、どれだけ耐えることができるかはわからない。今は何よりもエルナが早く戻ってくることを願うばかりだ。
俺がそんな事を考え、必死に抵抗にもならない抵抗をしていると、しびれを切らしたのかスライムが俺の体に思い切り乗しかかった。
鈍い痛みと共に、体からミシミシと嫌な音が聞こえてくる。
気道が押しつぶされているのか息が苦しく、頭が上手く働かない。死というものが眼前に迫っているのが、たやすく理解できた。
「冗談じゃ……ねぇ……ふ……ざっけんな」
だんだんと視界が悪くなっていく。俺は、こんな風に死ぬ運命だったのか?仕事でヘマをして、エルナ達に不幸を振りまいて……最終的にバカでかいスライムに押しつぶされて死ぬ……そんなバカみたいな運命なのか……?
もうほとんど入らない力を振り絞り、スライムを握りしめ……思い切り思考を巡らせる。
猶予はもうない。今、決めるしかないんだ。やり方だってわかりゃしない。そもそもどんな効果なのかもわからない。故に、賭け。
失敗……ようは、想像通りの効果でなければ死ぬ――そういう”運命”だった。
ただ、もしも想像通りの効果ならば、俺はまだまだ生きていける”運命”だった。
神様が神頼みをするってわけだ……いや、元神か?
「ハハ……失敗すりゃ……今度こそ地獄に追放されるわけか……」
そんな言葉を零し、より一層腕に力をこめ……イメージをする。こいつのスキルと共鳴し、融合をするというイメージを。
”何をしたいのか”を考えないと、魔法は使えない”――俺のスキルもそんな感じであることを神に祈り、かすれた声で、
「スキル……発動……」
そう発したその瞬間、うっすらとスライムと俺の体が光り……だんだんと痛みと圧迫感が消えていくのが分かった。
原理はわからないが、俺が共鳴した”融合”というスキルはとてつもなく便利らしく、光が消えたころには俺の怪我は見る影もなくなっていた。
「……!」
ごくりと生唾を飲み、そう言葉を発――せない。俺の口からは言葉が出なかった。出そうとすると、何かが喉に突っかかって出てこない。
俺は勢いよく立ち上がり、体中を触りまくった。俺の体は異常なほどに柔らかく、まるで……スライムのようだった。
「……」
頭を抱え、立ち尽くす。そりゃあそうだ。スライムと融合した俺の体が、普通の人間の体なわけがない。俺の体は言ってしまえばスライム。スライムは声を出すことができない。故に、俺は喋れない……くそったれが。
「……!!」
俺が一人思考を巡らせていると、誰かの足音が聞こえてくるのだった……
「で、それがお前だったわけだ」
「結構あっさりしてますけど、かなりヤバいじゃないですか」
「だから言ったろ、驚くなって」
そう言い、苦笑する。
「それより報酬は?何だかんだで締めはあの兵士だか戦士だかがやっただろ?その分取られるとかないのか?」
「あぁ……まぁ……はい。貰えはしましたが……討伐数の問題とかであまり貰えず……食費に消えました……」
エルナが申し訳なさそうな声色でそう告げた。
「ってことは、俺は……”また”なのか?」
俺の頬に嫌な汗が流れた。エルナの返答を聞かなくても、答えは容易に想像できた。
「……はい。そうなりますね……」
「マジかぁ……」
俺はいつぞやのように頭を抱え、そう呟くのだった。
申し訳ないですが、今回長いしちょっと言葉足らずな部分多いです。
なので一応補足(多分理解しなくても問題なし)↓
・神楽が今回スキルで共鳴したのは、スライムのスキルである融合。
・融合により外傷部分にフタをする感じで治癒、骨折等はスライム特有の自由自在に形を変えられる力で治癒




