第四話 ウィンターズ兄妹
エルナから一通りスキルについての説明をされた頃、俺たちはベンチから離れ、報酬の受け取りや買い物等をしていた。
「なぁ、少し買いすぎなんじゃないか?」
フルーツや野菜が沢山入っている紙袋を抱えながら、俺はエルナに対して苦言を漏らしていた。
「今回は怪我の可能性のある討伐任務でしたからね。それなりに多く報酬が支払われたんですよ」
「いや、お金の話もあるんだがな……」
俺が言いたいのは、どちらかというと量……そして重さの話なんだが。
「っていうか、こんだけ買ってどうするんだ?俺とお前で食ったとしても、多分だいぶ余るぞ?」
「当たり前じゃないですか。三人分なんですから」
「三人分?俺ら以外に誰かいるのか?」
エルナの言っていることがわからず、小首をかしげる。
「さっきも言いましたよね?私の兄の分ですよ」
そういえばそうだったな、と考えていると、エルナが再度口を開いた。
「一応もう一度説明しますが、私の兄は数週間前の台風で大怪我をしてしまいまして。今入院しているんです」
「……あの台風だよな」
兄の事情を聞くたび、やはり心が苦しくなる。
何を隠そう、俺は無能神だった頃に大陸の2/3を覆いつくすほどの大きさの台風を――ミスで作り出してしまった。要するに、俺のミスのせいでウィンターズ兄妹に不幸が降りかかったのだ。
「本当、災難でしたよ。両親はずっと前に亡くなって……そこから兄と暮らしていたら台風が……」
「それは――本当に気の毒だったな」
本当のことを言って、エルナに俺を殴ってもらえればどれほど良かっただろうか?だが、真実を知れば、彼女はさらに悲しむだろう。知らぬが仏、というやつだ。
「さぁ、着きましたよ」
こちらに振り返りながら、エルナはそう言った。
エルナの背後には石製の巨大建築がそびえ立っており、十字の絵が描かれた旗が複数掛けられていた。ここにエルナの兄が入院しているのだろう。
「……あ!いけない!私まだ買わないといけないものがあったんでした……」
「じゃあ、俺が買いに行ってやろうか?どうせ俺は暇だし」
紙袋を持ち直しながら、そう提案する。
「いえ、そんな悪いですよ。兄の所で待っててください」
「あぁ……そうか?」
「はい、それじゃあ、またあとで!」
そう言いエルナは走り出した。だんだんと小さくなっていく背中を見つめながら、俺は重大なことに気が付いた。
「あいつの兄ちゃん……どの病室なんだ?」
病院内を見渡しながら、そう呟く。
よく考えてみれば、俺はエルナからどの病室なのかを聞いていないのだ。かといって、職員と思われる人達も忙しそうにしている。話しかけるな的なオーラが出ているような気もするし。
「とりあえず探してみるか……」
はぁ、と深いため息をつきながら歩きだす。探すと言っても、俺はあいつの兄の名前も顔も知らないし、どう探せというのだろうか。
そんなことを考えながら病院内を歩いていると、すぐそばの椅子に座っている男性が目に入った。不思議なことに、その男からはとてつもない既視感を感じられた。
白髪に、白い目――その男は、性別は違えどエルナによく似ていた。
「あ、あの……ウィンターズさんですか?」
聞いては見たが、正直答えは予想ができた。頭や片目、腕や足に包帯が巻かれてるが、それでもエルナに似ていると感じるほどなのだ。おそらく、彼が……
「はい、ライト・ウィンターズですが」
男――ライトが、きょとんとしながら答えた。やはり、彼がエルナの兄だ。にしても、兄弟だとしてもあまりにも似すぎていないか?
「俺、あなたの妹さん……エルナ・ウィンターズの連れの者なんですけど――」
「神楽さん、お待たせしました……!」
入り口の方から、エルナが息を切らしながらこちらへ走ってきた。どうやら全速力で買い物を終わらせたらしい。
「……お兄ちゃん、出迎えなくていいって言ったじゃん!ほら、戻るよ!」
そう言い、エルナがライトのことを立たせようとしたその瞬間、ライトが口を開いた。
「なぁ、エルナ。この男、誰だ?こいつとはどういう関係なんだ?」
そう問いかけているライトの表情は、まるで悪魔や鬼のような形相だった。あまりの恐怖に、思わず俺は身じろぎをしてしまった。
「え?な、なんのこと?外で知り合っただけだけど……」
「本当か?本当にただの知り合いなんだな?……彼氏とかじゃあ、ないんだな??」
あぁ、なんとなく理解したぞ。おそらくだが、ライトは度を越えた”シスコン”というやつなのだろう。展開でも何度か噂を聞いたことがあったが、まさかここまでの奴がいるなんて。
「か、かかか彼氏!?そんなわけないじゃん!バカ!」
そう言い、エレナはライトの頭を思い切りひっぱたいた。
「おいおい、大丈夫か?」
「……あぁ、当たり前だろう。愛の鞭というやつさ」
度を越えたやつだとは思っていたが……まさかここまでとは。もはや兄だから許されているだけで、変態として通報されてもあまり驚かないほどだ。
「そ、そうか……でも……お前、頭から血出てるけど」
おそらく、エルナに叩かれたせいで傷口が開いたのだろう。ライトの頭に巻かれている包帯には血が滲んでいた。
「ハハハ、大丈夫だ。エルナがいれば、僕は死なないからな」
ライトが笑顔でそう答える。だが、その笑顔には多少の怒りが込められているような気がした。おそらく、その怒りの矛先は……俺だろう。
俺はライトの精神に少し恐怖を覚えた。
「そんな事よりもエルナ……この猿を家に上げるような事はするなよ?猿は何をしでかすかわからないからな」
さ、猿って……流石に言葉の刃が鋭すぎやしないだろうか?というか、俺はそういうの興味ないし。
「……まぁ、適当な宿見つけてそこに泊まるよ。だからまぁ……なんだ。お兄さんが心配してるようなことにはならないと思うぞ」
「お兄さんと呼ぶな」
そんな会話を俺たちがしていると、エルナが怪訝そうに眉をひそめながら口を開いた。
「でも神楽さん……あなた、お金ないんですよね?私、お金の貸し借りはしたくないですし……どうするんですか?」
その瞬間、時が止まった。
そういえばそうだ。俺には金がない。宿に泊まるなんてことできるわけがない……ひょっとして、まずい?
流れる冷や汗を拭いながら、そんな事を考える。
「次に会った時……覚えておくことだ」
ライトからのその言葉に、俺は恐怖を覚えるのだった。




