第三話 スキル
ワイワイと賑わう道を歩きながら、あたりを見渡す。道のそばには屋台のようなものが沢山あり、その奥に民家が建っている――俺たちの方で言うところの”テンプレ村”という感じだった。
ただ、これは何というか……
「村にしては大きいな……」
民家のそばにある畑を遠目で見ながらそう呟く。
実際、村にしてはとてつもなく大きかった。
俺たちの方で流行った娯楽に”World Maker”という物がある。あくまでもシミュレーターというやつだが……それでもここまで大きな村を作った者はいなかった。
いくら俺が無能だったとしても、この村の規模が異常だというのは、一目でわかった。
「そうですか?これくらいが平均的だと思いますけど。というか、何なんですか?その反応……まるで初めて来たみたいな……」
「あー、えっと…………言ってなかったけど旅人なんだ。だから昨日初めてこの村に来てさ。改めて思ったってだけだよ」
俺は咄嗟に言い訳を考え、そう口にする。一時的ではあるが、これで今はしのげるはずだ。後々指摘されたとしても、多分エルナに対してなら誤魔化せるだろう。
「へぇ、旅人……」
「って言っても、俺に戦闘能力はないんだけどな。金もないし」
後々困らないよう、できる限り細かな設定を付け足していく。ただやはり、戦闘ができないからと言って、何も持っていないというのはおかしな話だ。エルナにそれを指摘されないことを、俺は祈り続けた。
「そんな状態で、よくここまで来れましたね?もしかして、”スキル”が凄かったりするんですか?」
「す、スキル?」
スキルってなんだ?俺は天界にいた時、気象調節部門の仕事で手いっぱいだったから、あまりその辺について知らない。そのため、エルナの言う”スキル”という物が何かわからなかった。
だが、それをエルナに言うわけにもいかない。どうにかして誤魔化さなければいけないだろう。
「えっと……それが、俺もよくわかんなくてな。俺、親がいねぇからさ。色々教えられてないんだよ」
ハハハ、と笑いながら言葉を続ける。だが、その言葉に対してエルナは申し訳なさそうな表情を浮かべながら口を開いた。
「あ……その、すみません……無神経なことを……」
「え?なんのことだよ?」
「……親がいないって……」
神に親らしい親はいない。強いて言えば創造神がいるが、それも親ではない。だから親がいないというのは別に変なことではないだろうと思ったのだが……どうやら俺の――神の常識は人間とはズレているらしい。
「あ、いや別にいいよ。俺はそれを全然気にしてないし。それより、スキルについて教えてくれよ」
しょんぼりとするエルナに申し訳なくなり、親の話からスキルの話に切り替える。
「……スキルっていうのは……いや、どちらかというと見た方が楽でしょうね。ぐっと頭の中で念じながら、手を擦り合わせてみてください。出てくるはずですよ」
「こ、こうか……?」
スキルについて強く考えながら、両手を擦り合わせる。摩擦により段々と手のひらが熱くなる。だが、いきなり熱かった手のひらが冷たくなった。
「冷てぇ……なんだこれ」
「冷たくなりましたか?そしたら、手のひらを見てみてください」
そう言われ、手のひらを恐る恐る覗き込む。
どんな原理かは知らないが、そこには黒い文字が――”共鳴”という文字が浮かび上がっていた。
「私にも見せてくださいよ!って言っても、道のど真ん中じゃ迷惑なので、ベンチにでも座りながら!」
そう言いエルナは近くにあったベンチへ向かって走り、そうして座り込んだ。
「それで……ふむ、共鳴ですか……」
「これ、どういうスキルなんだ?強いのか?弱いのか?」
エルナの横に座りながら、そう尋ねる。
「いいえ?わかりませんよ?共鳴なんてスキル、聞いたことありませんから」
「……え、じゃあダメじゃん」
当たり前だろう、とでも言いたげな顔をしながら話すエルナに対し、俺は少し呆れた声を漏らした。
「うーん、まぁスキルの……特徴みたいなものはありますよ?発動条件とか」
まぁ確かに、発動条件がわかれば能力を発動させ、効果を見ることが出来る。そこから少なからず想像することはできるだろう。
「スキルの発動条件には色々種類がありまして……例えば、私のスキルは”魔法”なんですが、すべての人間の中にある”魔力”を精密に操作し、様々な効果を得るんですよ」
エルナは手のひらに直径5cmほどのエネルギーの塊を出現させながら、話を続けた。
「私のスキルである魔法の発動条件は、一定量の魔力とそれを使って何かをしたいという強い意志です。例えば、暗い夜道を歩いていたとして、周囲を照らしたいとしましょう。ここで、曖昧に”魔法でどうにかしたい”と思っても、魔法は使えません。しっかりと”魔法で辺りを照らしたい”と考えなきゃいけないんです」
「要するに、魔法で”何をしたいのか”を考えないと、魔法は使えないわけか」
「そうですね。これは、意識的発動条件と呼ばれいます。主に魔法や……中々使い手はいませんが、透明化なんかもこれに当てはまります」
透明化……そんなものもあるのか、と俺は考えながらエルナの話を黙って聞き続けた。
「あとは、無意識的発動条件ってものもありまして……魔物や動物の声を聞くことのできる”自然の聴和”、他にも一定範囲内の者にデバフを与える”悪魔の吐息”なんかがそれに当てはまりますね」
「無意識に発動する……ってことは、自身でも制御できないわけか。それは嫌だな」
「そうですね。この辺は大抵ハズレスキルと呼ばれてるほどですからね」
ハズレスキル……か。
俺はエルナの言った言葉を脳内で反復しながら、俺のスキル"共鳴"がハズレではない事を静かに願った。
俺がそんな事をしていると、エルナがスッと立ち上がり、俺にこう告げた。
「それじゃあ、行きましょうか」
「……行くって、どこへ?宿とかか?」
「宿……まぁ確かにそれも大事ではありますが……違いますね。正解は病院です」
人さし指を立てながらそう言うエルナに対し、俺は素っ頓狂な声を出す。
「びょ、病院?どっか悪いのか?」
「違いますよ!私の兄が入院してるんです。言ってしまえばお見舞いというやつです」
「そうなのか……それは気の毒に……」
心の底から思ったことを口にする。
「ちなみに、そのお兄さんはどうして入院してるんだ?やっぱ病気か?」
「あー、いや……」
エルナが頭をポリポリと掻きながら、そう呟き……その後、エルナの口から発せられた言葉は、俺を驚かせるのには十分なものだった。
「数ヶ月前の巨大台風……あれで大怪我を……」
俺はその言葉に、動くことができなかった。




