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恋姫竜神記  作者: DGK
31/40

君を追いかけて

ここまで色々あったようです。


どこまでも続く青い空。地平の果てまで見通せる平原。体に吹き付けられるのは、やや乾いたものを感じさせながらも、決して不快さを感じさせない爽やかな風。終は、初めて肌に感じる風を感じながら、漢の西部、関中にたどりついたことを改めて実感した。


旅を初めて早数年。ちょうど、この国を一周回ろうかというところに彼は来ていた。背は村を出た頃よりも伸び、体つきもしっかりとしたものになっている。


(ここに来るまでにも、色々あったな。)

終はここに至るまでにも、様々な出会いや別れがあった。そのどれもが彼にとっては刺激的で、ときには刺激的すぎることもあったが、そのどれもが彼の成長の糧となった。


「終様。ようやく漢中を抜けましたな。」

終の後ろに、付き従うように歩いてくる女性も、そういった出会いの結果の一つである。年は彼と同じほどだが、纏う雰囲気は研ぎ澄まされており、例えるなら一振りの剣を思わせる立ち振舞いだ。年を聞き出さなければ、彼女が終と然程変わりない年だとは誰も気づかないだろう。それほど彼女は大人びていた。


「…小沙良(ささら)。様付けは止めてくれって何度も言ってるだろ?」

げんなりとした様子で、終は彼女に苦言を呈した。漢中を抜けるまで、何度もやったやり取りだ。


彼女の名は張任。終が益州巴蜀に滞在した際に知り合った人物であり、そこで起きた事件を解決後、彼を主と慕って着いてきたのだ。


「主を敬称で呼ぶのは、臣下として当然のことでございます。例え、あなた様の頼みでも、それは聞けません。」

「あのなぁ、俺はお前を部下にした覚えはねぇって、これも何度も言ってるぞ。ほぼ同い年に敬称で呼ばれるのはツレェともな。」

「それこそ、あなた様の頼みでも聞けません。私は、あなたを仕えるべき主と定めました。どれだけ拒絶されようとも、私はあなたに着いていく所存です。」

「……もう、勝手にしろ。」


終が小沙良と共に行動するようになってこのかた、もう数えるのを止めるほどやったやり取りだ。諦めずに諦めさせようと何度もやったことだ。しかし、その努力が実を結ぶことはなく、終は今度もまた諦めさせるのに失敗するのであった。


「なぁ、小沙良。長安までは、あとどのくらいかわかるか?」

失敗した以上は旅の道連れ。今日もこのまま一緒に行動。そう思った彼は、少しでも気を紛らわそうと、軽い世間話に興じることにするのであった。


「そうですね。このまま何事もなく、今のまま進めば明日には到着します。」

「本当は、涼州経由でゆっくり行きたかったんだがなぁ……」

「話を聞く限りでは、この道を選んで正解でした。」


凉州方面は、現在大規模な反乱が起こっている。このことを聞いたのは、ちょうど漢中にいたころで、その時は大規模なものになるとは誰も思っていなかった。だが、終は持ち前の勘でこれが大きくなることを予想し、直接長安に向かう道へと進路を変更したのだ。


(反乱ねぇ……気持ちは分からなくはねぇな……)


この国は腐っている。この国の中心である洛陽を見て、政争に巻き込まれた一人の友の話を聞いて、終が出した結論である。政治の実権を宦官が握り、その権力をわがものにせんと、我欲にまみれた者たちが日夜策謀を巡らしている。それに巻き込まれる者の意思など、お構いなしに争っている。


反乱を起こされても仕方ない。自分たちが苦しんでいるのが、くだらない権力争いの果てにあるとしれば、誰だってそうなるだろう。それが、彼の考えだった。しかし――――


(だけどなんで今、それも涼州でやるのかなぁ)


ついてないな。終が反乱軍に対して抱いていた感情はそれだけだ。やった理由はともかく、聞いた話ではやってることはそこらの賊と変わらないらしい。ただ近隣の村々を荒らし、金目のものを奪っていっているだけだという。そんなもの、どうせすぐに官軍に鎮圧される。なら、自分がすべきことはない。そう思ったからこその感情だった。



「あそこで一旦休むとするか。」

「はい。」


終たちは、長安に向かう道中にあった町に入ると、若干空いた腹を満たすためにここで小休止を取ることにした。目についた店に入り、注文を済ませ、そして周囲の話に耳を澄ませる。情報は大事。これは旅に出て、終が学んだことの一つだ。


「涼州の方は、大分荒れているらしいな。」

「ああ、何でも官軍の連戦連敗らしいぞ。」

案の定、話題は涼州での反乱の話が大半を占めていた。その中でも終が関心を示したのは、反乱の状況とそれに対する官軍の動きだ。


「天水は落城、安定ももう持ちそうにないらしい。この調子じゃ、当分は荒れるだろうな。」

「大丈夫だ!中央から皇甫嵩様が派遣されているんだ。あの方ならきっと、今回の乱も収めてくれるはず。」

「だがなぁ、今度の相手は羌族とも手を組んでるって話だぞ。いくら皇甫嵩様でも……」


近くに居た行商人らしい男たちの会話を聞けば、このようなことが話し合われていた。他の会話に耳を傾けても、官軍が苦戦しており、反乱軍は勢いづいているという大枠の内容に変化はない。


「…思ってたより、ずっとひどいみたいだな。」

「涼州は、漢の支配下にありながら独立志向の強い豪族が多数います。それに加えて羌の領地とも隣接しているため、小規模な戦が絶えない地ではありました。大規模な反乱に繋がる、下地はあったものかと思います。」


漢の支配下にありながら、完全に支配されていない。それは果たして、漢の国土と言えるのだろうか。


小沙良の話を聞き、そんなことを胸中に抱きながらも、終は周囲の会話に耳を澄ませる。反乱軍の規模、官軍の状況―――――戦乱に巻き込まれた、多くの村の話。


「……」

そこからさらに耳を澄ませば、店の外にいる涼州から逃げてきたものの話も聞こえてくる。


家を失った、家族を失った、故郷を失った


民の怨嗟ともいえる、暗い鬱々とした言葉が、終の耳に突き刺さる。


「……」

終は出された食事を秒で掻き込み、小沙良の分まで勘定を済ませる。その彼の動きに合わせて、彼女もまた、食事を手早く済ませて彼に付き従う。


「行くぞ、小沙良。」

「承知。」


付近の美陽という場所に、官軍が駐屯している。現在、少しでも戦力が欲しい官軍は義勇兵も募集している。その情報を聞いた彼は、道中場所を聞きながら、美陽を目指した。


「ここか。」

美陽には、それほど時間を掛けずに到着した。途中から非常に分かりやすい人の流れがあったので、それに紛れ込む形で到着したのだ。


(すげぇな。)

その陣容と規模は、見事の一言に尽きる。翻る旗も、その下に集まっている人の数も、尋常なものではない。


その陣立も終の目を引いた。相手が涼州の騎馬民族であることを想定して、各所に騎馬の脚を止めるための柵や堀が張り巡らされている。さらに堀の中には杭が撃ち込まれており、その杭も正面から見たらわからないようになっていた。


(腐っても、漢は漢か。)

明確に受けに徹する陣容を見て、終は官軍をそう評した。旅を始めたばかりの彼でも噂に聞いたことがある、最強の呼び声高い西涼の騎馬隊。それと野戦をするなど自殺行為。ならば、この判断を下したのは正解である。


(荊州の時よりは、楽できそうだね。)

「失礼、少しお聞きしたいことがあるのですが。」

陣内に入り込んだ終は、適当に目についた人物に声を掛ける。深い緑色の髪に、漢では中々高価な代物である眼鏡をかけた、知的な雰囲気を纏った少女だ。


「なに?今急いでいるから手短にね。」

不機嫌さを隠そうともせず、鋭い目つきで終を睨みつける。よく見れば、その手に大量の竹巻が乗った盆を持っており、本当に忙しいことが一目でわかった。


「此方で義勇兵を募集していると聞きまして―――」

「ああ、なら彼処の幕舎に行って。そこで指示を出してるから。」

終のその言葉だけですべてを理解した少女は、皆まで聞くことなく場所を顎で指し示すと、すぐに何処かへと去ってしまった。


「随分と忙しないな。」

「それだけ切羽詰まっているということでしょう。」

これだけの陣容を誇りながら、切羽詰まった状況になる相手。西涼の騎兵とは、それほどのものなのか。遠くへと走り去っていく少女が、何かに躓いて盛大に竹巻をばらまく姿を見ながら終はそう考える。


(……荊州の時よりきつくなるな。)

先ほどまで抱いていた感想を撤回し、油断はしないと覚悟を改めると、終は幕舎の中に入っていった。



幕舎に入ってすぐの指示は、特にこれと言ってなかった。正規軍でない、ただの田舎者にそれほど期待はしていないという態度の表れだったのか、来て早々に暇を持て余すことになってしまったのだった。


「よう。」

「……」

そんなこんなで暇を持て余した終は、陣内の手伝いを片手間でしながら、自分と同じく義勇兵として参加した者たちと軽く話をするのだった。今彼が話しかけた相手は、同じ義勇兵でありながら、見事な鎧に身を包んでおり、官軍の将校なのではと思わせてしまう風格がある人物だ。


「随分と物騒な気配漂わせてんな。あんたなにもんだ?」

「……」

終の質問に一切答えることなく、男はその場を去る。向かう先には、男と同じように鎧を着こんだ者たちがおり、男が横を通り過ぎるとそのあとに追従していった。


「なんだよ、感じ悪いなぁ。」

口ではそういいつつも、男の立ち振る舞いを終は内心好ましく思っていた。その理由は、他の義勇兵の面々にあった。


「…危ういですね。」

「だな。どいつもこいつも気が抜けてやがる。」


戦況に対する認識が甘い。終はそれを仕方ないと思いつつも、非常に危惧していた。仕方ないと思ったのは、ただの農民だった人間に、戦況を気にしろという方が無茶だとわかっていたこと。危惧していたのは、この陣容を見て、完全に勝った気でいることだ。


戦場に不測の事態はつきもの。今の状態では、その万が一が起こった際、何もできずに蹂躙されるしかない。それが、終にとっては最大の不安要素だった。


「果たして、これで本当に勝てるのでしょうか……」


たかが義勇兵。されど義勇兵。陣の中に入った時点で、それは戦力の一部だ。その戦力の一部が不安要素の塊であれば、いったい軍内にどんな影響を及ぼすか分かったものではない。それがわかっているからこその、小沙良の弱気な発言である。


「大丈夫だ。」

ハッキリとした口調で、終は断言する。それは、今の状況に対する言葉ではない。自分に付き従う、弱気になった自称臣下に向けたもの。


「危なくなったら、また助けるからよ。」


多くの者が聞けば、それは彼女を安心させるために出した言葉と受け取るだろう。だが、終は知っていた。こういえば、彼女がどうなるかを見越して、態と安心させるように言ったのだ。


「…主を守るべき者が、主に守られては立つ瀬がありません。」

小沙良の目つきが鋭くなる。そこに先ほど弱音を吐いていた少女の姿はなく、確固たる決意を秘めた戦士の姿がそこにあった。終を主と仰いでいるからこそ、彼女にとってこの言葉は、自らを奮起させるに足る叱咤となりえたのだ。


「よし!その意気だ!」

小沙良から暗い空気が霧散したのを感じると、終は嬉しそうに笑顔になる。これなら、彼女はもう大丈夫だ。そう思い、次に気の抜けた他の義勇兵の者達をどう奮起させるか考える。






「…終?」




それは、本来聞くはずのない声だった。





だが、決して聞き間違えることはない声だった。





「恋?」



声の方を見れば彼女がいた。



深紅の髪、深紅の瞳




見間違えるはずのない、親友の姿





「……久しぶり。元気、してたか?」

長い沈黙の後、終の口からそんな言葉が出た。


それを聞いた恋は、彼の胸の内に飛び込んだ。








「あー、恋?そろそろ離して「嫌」……相変わらず、バッサリといくなぁ。」

数年ぶりの再会を果たした後、恋は終の左腕に抱き着いて離れなかった。現在進行形で、それはもうぴったりと張り付いていた。気持ちはわかるが、周囲の視線的にも、個人の感情的にも、腕から感じる柔らかさ的にも、非常に辛いと感じて言葉を発せばこのざまである。


(し、視線が、痛い。)

そう思っても、恋が離れてくれなければどうしようもないので、終は諦めて近くの木材に腰を下ろすのだった。ちなみに、小沙良は恋が抱き着いた時点で何かを察して何処かへ行った。おそらく、趣味の竹細工でも作りに行っているのだろうと、少しでも気を楽にするためにそんな推測を立てるのであった。


「でも、なんでこんなところにいるんだ?てっきり、信さんのところにいるとばかり思ってたぞ。」

しかし、いつまでも現実逃避するわけにもいかないので、率直な疑問を恋に投げかけた。


終が驚いている最大の理由は、恋が信の元を離れることはないと思っていたからだ。彼女に自覚があるかどうかは、終にはわからないが、恋が信に対して本当の親に対するような感情を抱いていることを知っていた。別れてから旅に出るまで頻繁に交わしていた手紙から、それを察することが出来る程度には、彼女は信を思っている。


そのため、信から離れるほどに恋が外に興味を持つことがあるとは思っていなかったのだ。それだけに、どんな心境の変化があったのかを、彼は知りたかった。


「…終が旅に出たから。」

とても短い言葉。だが、その言葉の持つ意味を、終はよく理解した。


「……つまり俺が旅に出たから、自分も同じように旅に出てみたと。」

「…(コク」

正解だ。恋は少し恥ずかしそうに顔を赤らめると、小さく頷いた。


そう単純な話なのだ。終が見たいと思った外の景色を、自分も見たいと思った。たったそれだけのきっかけで、彼女は信から離れ、外に出たのだ。


「いつからなんだ?」

「…半年前」

終が何時から旅に出たのか聞いてみればそう答えが返ってくる。彼が恋に旅に出る旨の便りを送ったのは、彼が村を出た当日だ。恋が終が旅に出たことを知り、自分も旅に出てみたいと思ったことを考えれば、大分期間を空けてからの出立である。


「結構最近なのな。」

「…信が許してくれなかった。」

そこのところを問えば、彼にしかわからないほどに、微かに不満を露わにした。


終はその答えに納得する。本人がどれだけ行きたいと思っても、親が許さなければそれまでだ。強引に行こうにも準備のできていない旅など自殺とほぼ同義である。しかも、信は州刺史。あれでも立派な権力者だ。どれだけ抵抗しても、数の力に押し切られてそのまま連れ戻されるのが関の山である。


(あの人、何となく子離れ出来なさそうな雰囲気あったからなぁ。)

それに引き換え自分の母はと思って、なぜか涙が出そうになる終だった。


「終、大丈夫?」

「大丈夫。大丈夫だ。」

なぜか突然泣きそうな顔になって空を仰いだ終に恋は心配そうに声を掛け、終はそれに大丈夫と答える。どう見ても大丈夫そうな顔をしていないのに大丈夫と答える終に、恋は心配しながらも気にしてあげないことにした。


「それで、ここにいるのはどんな理由があるんだ?」

若干の脱線はあったが、改めて終は恋がこの場にいる理由を聞いた。信の元を離れ、并州より外に出た理由はわかった。だが、官軍の陣内にいる理由はまだわかっていない。


「……」

聞かれた恋の顔が曇る。やはり他人にはわかりづらい表情の変化だが、終にはよくわかった。そして、表情が曇る理由も、かつての彼女になくて、今の彼女にあるものから察していた。


(墨刑、か)


墨刑


五刑の中で最も軽い刑罰であり、罪人の証である墨をその身に彫ることで罪を犯したことをその身で知らしめる罰である。その性質上自らに彫られた罪を隠すことは許されず、今もこうして墨が見えるような服を恋は着ていた。


(……畜生)

何があって罰を受けることになったのか、さすがにそこまでは終にもわからない。だが、自身の親友がこのような姿を晒すことになっている今に、なぜ自分はその時傍に居れなかったのかと、彼の中には強い後悔の念が押し寄せていた。


「言いたくないなら、言わなくていい。けど、どうしようもなくなったら、必ず俺を頼ってくれ。今は、お前のすぐ傍にいるんだからよ。」


起こってしまったことを後悔しても、彼女に与えられた罰が消えるわけではない。ならば、今傍にいるこの時は、彼女を守り抜いて見せる。強い決意を内に秘めつつ、終は安心させるように恋に笑顔を向ける。


「……(コク」

そんな終の思いを感じ取った恋は、少しだけ嬉しそうに、小さく微笑んだ。


「恋さーん!」

遠くから、恋を呼ぶ声が聞こえる。終が声のする方へ顔を向けると、むさくるしい陣内には似つかわしくないお嬢様然とした、小柄な体躯の少女の姿があった。


「呼ばれてるぜ。行ってこいよ。」

「……(コク」

彼女が何者なのかは気になったが、恋が呼ばれているのは事実。なので、行くように促したのだが、彼は忘れていた。


恋は、終の腕を離していない。


「うぇ!?ちょ!恋!?」

結果、終は引きずられるようにして恋の後に続くことになる。流石にこれはまずいと感じた終は、何とか態勢を整えると、必死になって腕を振りほどこうとする。しかし、恋の恐ろしい力で腕をガッチリと掴まれ離せない。しかも、彼女の足も止まっていない。


そうして、必死の抵抗虚しく。少女の前に恋と腕組みした状態で立たされることとなった。


「あの、恋さん?そちらの方は?」

困惑している様子の少女。当然だ。呼んでいた人物がこっちに来たと思ったら何やらオマケを連れてきたのだ。しかも異性を、それも腕をガッチリと組んで


「……月。紹介する。」

その質問に恋は、少しだけ考える素振りを見せると―――――







「恋の旦那様。」


――――――特大の一撃を叩き込んだ










「え、ええええええ!!!!???」


陣内に響き渡る少女の声。それに何事かと周囲の手が止まる。


「恋!!お前何言ってるんだ!!?いや、マジ何言ってるんだ!!!??」

突然の事態に完全に思考が停止していた終は、少女の声で正気に戻ると恋を詰問する。


「…本当のこと?」

「なぜ疑問!!!??いやそもそも俺たち夫婦じゃないだろ!!!!」

至極当然なツッコミである。縁と信の二人がいれば『別に夫婦でいいんじゃないか?』と間違いなく言ってなし崩し的にそうなったかもしれないが、現場にはそんなこと言う人間はいないしそもそも事実として終と恋は夫婦ではない。


「恋、終が好き。終、恋が嫌い?」

捨てられた子犬のような瞳で恋が問いかける。これに下手な正論をぶつければ、間違いなく恋は傷つく。


「いや、好き、だぞ。」

なので、恥ずかしいと思いながらもそういうしかなかった。この好きが異性としてかと聞かれれば、終はわからないとしか答えられないが、友達としてなら間違いなくそうだといえると思っていた。だから、この言葉に嘘はない。


「信、言ってた。『好きな相手が自分を好きなら、それは夫婦だ。』

――――だから、終は恋の旦那様。」


それによって、現状を好転させたかと言われれば、最悪は回避した代わりに混乱を助長させることになったといわざるを得ないが


(信さああああああん!!!!!!)


終は河北の片隅で満面の笑顔を浮かべて親指を立てている信の姿を、北の空を見て幻視するのだった。そして、この事態を引き起こすことになったのが、彼女の説明不足、あるいは余計なお世話のせいであると知った終は、今度会ったら迷わず殴ろうとも決めた。慈悲はない。


「ご、ごめんなさい!今は難しいですけど、この戦が終わったら必ず長安でお祝いしますから!!」

「よし、そこの君、一旦落ち着こうか。そして黙ろうか。」

「終、今日は恋と寝る。」

「恋、今は事態が混乱してるから一旦黙ってくれないか?」


混乱する現場、固まる周囲、完全に収拾がつかなくなっている。


「董卓様!!何事ですか!!」


そんな現場に現れる。いかにもこんな事態に向いてなさそうな白髪の女性


「陣の端まで聞こえたわよ!!一体何があったの!!?」


さらに現れる、先ほど竹巻を盛大にばら撒いていた眼鏡の少女


「なんや面白いことになっとるみたいやな!うちも混ぜてぇな!」


どう見ても火に油注ぐ気満々のさらしを胸に巻いた活発そうな女性


彼女らによって事態は収拾するどころか、さらに混沌の様相を呈すことになり、終の精神的疲労は極致に達し、地味に胃痛を感じることになる。


「…終様。これは一体何事ですか?」

「…親友の奇襲攻撃の結果だ。」


その後、片手に竹細工を持った自称配下のおかげで、何とか事態は収拾するのであった


ガンバだ終君。

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