表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫竜神記  作者: DGK
21/40

常山

ようやく書くことが出来ました

常山の村


その郊外で二人の男女が向かい合っていた。


女は蒼い髪に赤い瞳の美少女で

手には長い槍に見立てた長い棒を握っていた。


それに対する男は黒い髪に黒い瞳をした

どこにでもいそうで、でも何処か目立つ

そんな雰囲気の背の高い少年で

手には剣に見立てたどこにでもありそうな棒を握っていた。



「・・・ふっ!」

棒を握る手に力を込めて少女が動いた。


一瞬で少年との距離を詰め、手に持つ棒を真っ直ぐに突いた。


ピュッ、という風切り音と共に棒の先がぶれる



少年は、二ヤリっと笑うと体を傾けた。


その体のすぐ近くを棒が通り過ぎる


ちょうど少年の体があった場所だ



「はぁ!」

少女の攻撃は止まらない


常人には、ぶれて見える程の速さの突きを

相手に休む間も与えないほど素早く連続して繰り出す。



しかし、当たらない



少年は顔に笑みを浮かべたまま

必要最小限の動きでその突きを避け切っていた。


そうなることは分かっていたのか

それとも単純にムキになっただけなのか

少女は突きの速度を徐々に上げて行った。


終いには常人では見ることが出来ないような速度で突いていた。



それでも、当たらない



汗が地面を濡らし

激しく呼吸を乱しながら突きを繰り出し続けても

少年には一撃も当たらなかった。


「ッ!」

少女が大きく後ろに飛び、少年と距離を取った。


それを追撃することなく少年は、その場にたたずんでいた。


汗まみれになった少女と違い

少年は、ほとんど汗を掻いておらず呼吸も乱れていなかった。


余程余裕があるのか少年は息を調えてる少女を攻撃しなかった。


それ以前に構えすらとっておらず棒の先を地面に向けていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、・・・・ハァアアア!!!!」

少女は全身の力を使い少年に向かって真っ直ぐに駆ける。


それは、さながら少女が一本の矢となったようであった。


少年は、そこから動かない


顔には相変わらず笑みを浮かべ右手で棒を軽く握っている。


少女が突きを放つ


今の彼女が出せる全力の一撃


棒の先が少年の胸に触れる



当たった



少女が確信に似た感情を抱き

棒が少しずつ少年の胸に入り込んでいき。



少年が少女の視界から消えた



「・・・え?」

少女が驚きの声を上げた。


体を前のめりにしながら止まると少年を探そうとした。


だが、それは無意味であることを自分の首に当てられた棒によって悟った。


「俺の勝ちだな、星。」


黒髪の少年、終は妹分である少女、星の背後に立ち

その首にピタリと棒を付けながら言った。


「・・・私の負けです」

星は少し悔しそうな顔をするとそう言った。


それを聞いて終は首に付けた棒を離すと

振り返って少し睨むように自分を見た彼女に向けてニカリと笑った。





「いやぁ、星。

お前最初のころと比べると結構強くなったじゃねぇか。」

棒を肩に担ぎ、村の中へと歩を進めながら

自分の隣を歩く星に終は言葉を掛けた。


腰には竜を模した剣を差し

顔に何時もの笑みを浮かべて

悠々とした足取りで歩いている。


「いえ、まだまだ・・・

強いと言えるほどのものではありませぬ。」

それに星は暗い顔で答える。


右手に先ほどの棒を持ち

疲労で重くなった足を前に進めていた。


「何言ってんだ。

動くことも出来ねぇで一瞬で勝負が着いた頃と、

手加減した俺にかすり傷一つ付けられないでいることを含めても

まだまともに勝負出来てる今と比べたら明らかに強くなってるじゃねぇか。」

終は笑いながらそう言った。


彼の言っていることは聞く人によっては

明らかに馬鹿にしているとしか言えないものなので

普通ならばこれ以上ないくらい怒るのが当然なのだが


「・・・・兄上、そのように言われましては

皮肉を言っているようにしか聞こえませぬぞ。」

星はジト目で反論しただけだった。


本気で馬鹿にしているのならば怒っていたが

馬鹿にしているというよりは少しからかってきているような素振りだったので

それほど怒りを感じなかった。


それ以前に既に彼女は十年近く彼の妹分をしているのだ

多少馬鹿にされたとしても、ある程度は我慢できる


「皮肉言ってるつもりだったんだが

もうちっとはっきり言ったほうがよか―――ダァ?!!」


その我慢も冗談とはいえ

かなりウザイ顔でそう言われてしまえば出来なくなるようだった。


終が言い終える前に星は素早く棒を伸ばし

横合いから彼の頭に打ちつけた。


結構な力で打ちつけたためか

彼の頭が固かったためか棒にひびが入る


「くだらぬことを言わないでくだされ、

殴りますよ?」


「殴ってから言うなよ・・・」


にこりと微笑みながら忠告する星


頭を手で押さえながら、しかし顔には笑みを浮かべている終



その姿は、本当の兄妹のようであった



「星、お前どんだけ力入れてたんだよ?

頭がまだグラグラしやがるぞ。」

村の広場に当たる中央を目指して歩いている最中

終は苦い顔をしながら星に問いかけた。


しばらくすれば治ると思っていた頭痛が

鈍痛となって彼の頭を襲っていたからだ。


受けた当初は、殴られても仕方ないだろうと思って避けなかったが

今は避ければよかったと後悔していた。


「それほど力を入れた覚えはありませぬぞ。

ただ、『偶然』にも当たり所が良かった記憶はございますがな」

偶然の所を強調しながら星は答える。


いかにも嘘ではありませんとでも言いたげに

何食わぬ顔をしていたが微かに口元が緩んでいた。


(ぜってぇ嘘だ。)

それを見て終は若干の怒りを込めながら星を睨んだ。


「どうしたのですか、兄上。

そのように怖い顔をして」

星はニヤリと笑みを浮かべると少しからかうような雰囲気で終に問いかけた。


若干からかなりに怒りの度合いが変化したが

終は、まるで火に水を掛けるようにそれを沈めた。


「・・・・なんでもねぇよ。」

そして、そっけなく星の問いに答えると顔を前に向けた。


星は終のその反応が面白かったのか

手を口に当てると喉を鳴らしながら笑った。


(どうしてこんな可愛げがない奴になっちまったんだか)

終は1年ほど前に兄上と呼びだした星の姿を思い出していた。





「おはようございます、兄上」

それは何の前触れもなく起こったことだった。


何時ものように目を覚まし

何時ものように着替え

何時ものように剣を腰に差し

何時ものように星に会っていた


そして、何時ものように自分を見つけて笑顔になった星が

何時ものように自分に駆け寄り


何時もと全く違う喋り方で自分に声を掛けたのだ。


「・・・・」

あまりに突然の出来事に終の脳は完全にその働きを止めていた。


それもそうだ


つい昨日まで『終兄』と呼んでいた妹分が

次の日には『兄上』と呼んできたのだ


ここまで急に変わってしまえば

頭でもぶつけたのだろうか?、とでも思うだろう


「どうしたんだ、星?

頭でもぶつけたのか?」

実際、終は口に出して言っていた。


大きい衝撃を受けた時に

思ったことをそのまま口に出してしまうのは彼の癖である。


「どこにもぶつけてなどおりませぬが、

何故そのような事を聞かれるので?」

星は首を傾げながら、しかし口元には確かな笑みを浮かべて聞き返していた。


それを見て終は星が態と何時もと違う口調で話して

自分をからかっているのではないかと予想した。


「・・慣れねぇ喋り方はしないが吉だぜ、星。」

終は落ち着きを取り戻すと顔に笑みを浮かべながらそう言った。


自分の予想に確信を持っていたからだ。


「はて、何のことでありましょうか?」

星は首を反対側に傾むけると

やはり顔に隠し切れていない笑みを浮かべて聞き返した。


「惚けたって無駄だ。

もうお前の魂胆は読めてるんだよ。」

それに終は動じずに変わらない態度で言い放った。


それを聞いて星は、しばらく黙っていたが


「あーあ、ばれちゃった」

終が完全に何時もの調子に戻った所を見て

少し残念そうにしながらも笑顔を浮かべた。


「あんな下手な演技で騙される俺だと思ったのか?

やるんだったらもうちっと上手くやれ。」

星が何時も通りに戻ってほっとしながらも

騙されていたことに恥を覚えてそれを隠すように少し馬鹿にするように言った。


態と怒らせて自分に流れを持って来させようとした行為


しかし、そこは妹分


今更この程度の誤魔化しに引っ掛かる訳もなかった。


「そんなこと言っちゃって、本当は騙されていたくせに」


「ぬぐ?!」

突然の冷静な反撃に終は言葉も出なかった。


まさか星が『怒らず』に反論してくるとは予想もしていなかったのだ。


「終兄、って騙される時は本当に騙されるからねぇ」


「ぐぐぐ」

何も言うことが出来ず、ただ唸ることしか出来なかった


流れを持ってくるはずが逆に相手に大きな流れを与える結果になったのだ。


「どうしたのですか、『兄上』。

顔が赤くなっておりますぞ?」

止めと言わんばかりにとても丁寧な口調で兄上と言う。


それに終は


「畜生!!勝手にしやがれ!!!」

大声で怒鳴りながら星に背を向けた。


それに星は心底面白そうに声を上げて笑ったのだった。



それから星は、よくこの口調で話すようになった。


初めは終の反応を楽しむために

偶に話す程度に使っていたが

次第にその喋り方に違和感が無くなり

半年経つ頃には完全にこの喋り方になっていた。



(昔のアホなところがある星には、もう戻らねぇのかなぁ)


バキィ


「~~~~~?!?!」

何かが折れる音と同時に終の後頭部を衝撃が襲った。


一瞬視界が暗くなるが

すぐに激痛が襲ってきたため意識を失わなかった。


「・・せい・・・おまえ・・なんでなぐった。」

終は頭を両手で押さえながら何とか声に出して星に言った。


「いえ、兄上が失礼なことを考えた気がしましてな」

それに片手に完全に折れた棒(3代目)を手に持ちながら星は答えた。


「気がしたってだけで

人を殴る阿呆がどこに「ではもう一撃」俺が悪うござんした。」


スッと棒の折れて尖った部分を

自分の母を彷彿とさせるほどイイ笑顔で向けてくる星に

終は兄貴分としての威厳も何もなく頭を下げて謝罪した。


(畜生めぇ、段々と母上に似てきやがって・・・

どうせ似るなら趙華さんに似ろっての)


「口に出てますぞ」


「マジで!?」


「嘘です」


(畜生がああああああああああ!!!!!!)


歯をギシギシと鳴らしながら憤怒の形相で星を睨みつける。


この会話によって今まで自分が弄る側だったのが

ここ半年で逆転されてしまい弄られる側になってしまったことに

兄貴分だからと押さえていた感情が一気に噴出した。


つまり、堪忍袋の緒が切れたのだ


その怒りは凄まじく

あまりの怒りぶりに背後に修羅が出ている錯覚を覚えさせるほどだった


「ま、まぁ、兄上。落ちついてくだされ。

ただの冗談ではございませんか。」

流石にこれは不味いと思ったのか星は終を諭すことにした。


しかし、怒りが有頂天に達してしまったのか

全く治まる気配を見せなかった。


怒りの形相で

一歩、二歩と星に近づいて行き


「そこまでにしましょう、終君」

間に割り込んできた人物、愛によって進行を阻止された。


愛の介入によって終は、その歩みを止めたが

まだ目に怒りを宿したまま星を睨んでいた。


「星が何か言ったのかもしれないけど、

まずは落ちつきましょう?そんなに怖い顔をされたら話も出来ないわよ?」

顔に柔らかい笑みを浮かべ、幼い子供を諭すように終を宥めた。


「・・・ふぅ、分かりました。」

それを聞いてようやく終は怒りを解いた。


少し大人げなかったと思ったようだ


「それで?一体何があったのかしら?」

終の怒りが収まったところを見て愛は優しく問いただす。


「大したことじゃありませんよ。

俺が星に弄られて勝手に切れた、それだけですよ。」

その問いに終は何てことないようにそう答えた。


「あら・・・・

星、それは本当なのかしら?」

愛は終の答えを聞くと確認するように星を問いただす。


「は・・・いえ、少しやり過ぎたところはありました。」

肯定の言葉を出そうとしたが、言いきる前にそう言いなおした。


愛の目が一切の嘘も許さないと静かに語っていたからだ。


何時もは温厚な彼女だが

こういう時の厳しさは終の母である縁を上回るものがある。


「・・星がそう言っているけれど

どうなのかしら?終君」


「さぁ?俺は別にひどいことをされた、とは感じていませんけど」


「なら、何故あれほどまでに怒っていたのかしら?」

愛は変わらず笑みを浮かべながら質問する。


縁のように確実に恐怖を感じるような壮絶な笑みではないが

どことなく本当の事を言わなければならないような気を起こさせるものだ


「・・・さっきも言いましたけど

弄られて、勝手に切れた、それだけです。

理由も何もありませんよ。」

終は初めに言ったことと変わらない答えを言った。


それを聞くと愛はスッと目を細めた。


笑みと同じく特に威圧感のないものだが

全ての嘘を見抜かれているような視線だった


そしてしばらく終のことを見つめていた愛だったが


「・・・そう」

静かにそう呟くと熟考するように目を閉じた。


「・・・終君は、自分が悪いと思っている

・・・星も、自分が悪いと思っている」

愛は考えが纏まったのか目を開くと二人を交互に見た。


「つまり、二人とも自分が悪いと思っている訳ね?」


愛の確認するような問いに二人とも首を縦に振った。


「なら、二人とも如何するべきかは分かっているわね?」

愛は、そう言うと一歩後ろに下がった。


それを見てから二人は手をもじもじしたり頭を掻いたりしていたが

覚悟を決めたように背を伸ばすと


「「ごめんなさい」」

同時にそう言って頭を下げた。


本当に全くの時差もない文字通り同時にである


「はい、よくできました」

愛はニコリと何時も通りの柔らかい笑顔になった。


それを見て二人は、内心でほっとして緊張を解いた。


愛が怒っていた訳ではなく

ただ喧嘩の仲裁に入っただけであることは二人とも理解していた


喧嘩の仲裁に入られたことは過去に何度かあったため

彼女がこれくらいで怒らないのは既知のことだったのである


しかし、縁とは違う威圧を放ちながら

仲裁する時の彼女は二人にとってとても苦手なものだった


だから、やっと終わった、と言った感じにほっとするのである。


ちなみに愛は全くと言っていいほど怒ることはないが

終は一度だけ愛が怒ったところを見たことがある


見たことがある、とは言っても

本人は、その時のことを全く覚えていないため

一体どのようなことになっていたかは分かっていない。


分かっていないがとてつもなくオソロシイことになっていたことだけは

完全に記憶から消し去ってしまっていることから理解していたのだった。


「二人とも偉いわねぇ。

自分が悪いと思ったら、ちゃんと謝ることが出来るなんて」

愛は、まるで良いことをした子供を褒めるようにそう言った。


先ほどまでの威圧感は完全に鳴りを潜めており

何時もの優しい彼女に戻っていた。


「は、母上。

そのように幼子を宥めるように言わないで下され。」


「星の言うとおりですよ、趙華さん。

俺も一応成長したんですから、そんな言われ方をされたら恥ずかしいですよ」

それを聞いて二人は恥ずかしそうに若干顔を赤くしながらそう抗議する。


「そう言っている間は二人とも子供です。」

ふふ、っと笑いながら愛は二人にそう答えた。


二人は文句を言おうと思ったが愛の言っている事の方が正しいので


「「ぐぬぬ」」


と悔しそうに呻くしかなかった。


それを見て愛は楽しそうに笑った


「・・・もう少しこうしていたいけれど

実は二人に頼みごとがあるの」


「頼みごと、ですか?」


「一体どのようなことなのです?」

終と星が互いに思った疑問を口に出す。


「難しいことじゃないの、

ちょっと着いてきてくれるかしら?」


愛に言われて二人は考えた。


だが、二人の答えは大方決まっていた。


「・・・分かりました。」


「・・・母上の頼みは断れませぬ。」


二人がそう言うと愛は微笑んでから二人に背を向けて歩きだした。


二人もその背中について行く形で歩きだした。





「趙華さん」


「何かしら、終君」


「目的地ってここですか?」


「そうだけど、何か問題でもあったかしら?」


「いえ、問題も何も


俺の視界には、でかい廃墟しか映っていないんですけど。」


終達は愛の案内によって

村はずれの森の中にある木造の倉庫の前に立っていた。


しかし、その倉庫は所々に穴があき今にも倒壊しそうなほどボロボロであった。


「あら?一応これは村の倉庫なのだけれど?」


「ここまでボロボロだと

とてもじゃないですけどそんな風には見えませんよ。

押せば倒れそうな感じもしますし・・・」


村の所有物に対して散々なことを言っている彼だが

事実、誰かに言われなければ倉庫だと気付けない程の有様なので

彼の言っている事も間違いという訳でもない。


そのためか愛も何も言うことが出来ず苦笑いしていた


「兄上、今はそのようなことを言う為にここに居る訳ではないと思われますが」

こんなことを続けていては話が続かないと判断したのか

星は終に注意するかのようにそう言った。


それに彼は忘れていたとでも言うように

「あぁ、そう言えばそうだったな」と態とらしく言った。


「それで頼み事、というのはどんなことなんですか?」


「さっきも言ったけどそんなに難しいことじゃないのよ。」

終の質問に愛は、そう答えながら倉庫の扉に手をかけた。


ミシミシとどう聞いても壊れているとしか

思えないような音を出しながらゆっくりと扉が開く。


星と終は愛の後ろから倉庫の中を覗いた


「「うわぁ・・・」」

覗いたと同時に二人は顔をしかめた。


地面には苔が壁にはカビやキノコが生えており

じめじめした空気が室内を覆い、外装と同じくらいひどい状態であった。


これを見て二人の考えは一致していた。


本当にこの場所で合っているのか、と


「趙華さん、本当にここであってるんですよね。」

実際に終が口に出して聞くほどであるから文字通り驚くほどひどい状態なのである。


「ええ、あっているわよ。」

それに愛は笑顔で受け答えると前の方を指さした。


終と星は愛の指さす方向へ目を向けた


そこにはボロの倉庫にあるには少し不自然とも言える程度の

まだまだ動かすことが出来そうな少し古い大きな荷車と

所々に解れがある、何か入っている袋があった。


「これを見れば分かると思うけど

二人には荷物を運んで欲しいの。」

愛は別の方向にある明らかに

つい最近切られたであろう木材が積み重ねられて出来た小さな山を指さした。


愛は縁と違い膂力があるわけではない


この量でも彼女には厳しいだろう


確かにこれなら手伝ってほしいのも分かる


しかし終は、ふと疑問を口にした。


「なんで態々俺等に頼むんですか?

大人の人でも運べないほどの量、ってわけでもないですよね?」


終達の膂力は普通の子供と比べて圧倒的に強い。


それこそ大人の男性も負けるほどである。


しかし、そうであっても子供は子供


大体の力仕事は村の大人がやっている


なので普通に考えればこの疑問が出てくるのは当然のことである。


「・・・二人は

村に男性が少ないのを知っているわね。」


愛の問いかけに終と星は頷く


彼の村には自分を含めた子供を除けば

ほとんど男性がいなかった


居たとしても老人や、やせ気味で体の弱そうな体型の人などが多く

屈強そうな体を持った男性はそれこそ数えるほどしかいない。


愛は二人が頷くのを見ると説明を始めた


「ここ常山は、ここから遥か北にある城壁・・・

北方の異民族からの襲撃を防ぐために出来た要塞から近い場所にあるの」


北にある城壁


それを聞いて終は并州に居た時に読み漁っていた本の中に

漢が誕生する前、秦の始皇帝が北に城壁を作らせたという話が書いてあったことを思い出した。


(・・本は嘘を書かないって聞いたけど本当みたいだな。)


「この地は作物を作るのに

あまり向いていないから中央に税を送るのも大変なの。

だからその代わりとして北の要塞の守備のために

人を出すことを義務付けられているのよ。」


終が考えている間にも愛は話をつづけた。


「要塞に送られた人たちは

村に帰ってくることもあるけど

それも本当に時々でほとんど帰ってくることはないわ。」


(大勢の男たちが何日か村に留まって

何処かへ行くことが何度もあったけど、そういうことか)


今までずっと疑問に思い

質問しても教えてくれなかった答えを知って

終は納得すると同時に疑問が一つ解消されたことを少し喜んだ。


「そうなると必然的に若い男性が村から減って

残りの男性が体の弱い人や子供、お年寄りの人だけという形になるのよ。」


(まぁ、そうだよな。

流石にそんな人たちまで駆り出されたら

どんだけ追いつめられているんだよって話になるしな。)


うんうんと頷きながら終は納得していた。


だが、星は何かを悩んでいるように難しい顔をしていた。


「残って居る男性で力が強い人は別の作業で忙しいし

縁も今は手の離せない状況に居て手伝えないから

今、これを運べそうな人があなたたちしかいないのよ


だから「母上」」


愛が二人に頼みを言おうとし

終も了承しようと思っていた、そのとき


突然、星が愛の言葉を中断させた。


「・・・何かしら、星」

愛は若干驚いた表情になったが

すぐさま元の柔らかい笑顔に戻ると星の声に答えた。


「いえ、その・・・

一つ聞きたいことが出来まして」

星は愛から少し目を逸らしつつそう言った。


心なしか何処か表情が暗いように見える。


「聞きたいこと?何かしら?」

星の反応が何処かおかしいことに気が付いたのか

愛の表情が真剣になる。


終も星がどんな質問をするのかと耳を澄ませた。



星は口を開き、質問をしようとした


しかし、そこから質問の言葉が紡がれることはなく


「・・・いえ、今すぐ聞きたいことでもありません。

また、機会があるときに伺うことにいたします。」

と、先送りにするような言葉が出てきただけだった。


「そう・・・

なら今夜にでも聞くことにしましょう。」


愛は真剣な表情を崩すと柔らかい笑みを浮かべた。


「とにかく、私はここにある荷物を村まで運びたいの

でも私は縁や貴方たちと違って力持ちじゃないから

二人にこれを運んでもらいたいのよ。


頼めるかしら?」


気を取り直して、愛は改めて二人にお願いした。


お願い、とは言っても二人がどう答えるかはわかっているため

どちらかというと確認のようなものである。


「そのくらいならお安いご用ですよ、手伝わせてもらいます。」


「母上の頼みであれば、聞かぬわけがありませぬ。」


終は快く了承し

星も先ほどの暗い表情をふり払って笑顔で答えた。


もともとここに来る時点で

了承するつもりであったので当然の返事である。


それに愛は嬉しそうに笑みを浮かべた


「二人ともありがとう

じゃあ、さっそくだけど作業を始めましょう。


まずは―――――




半刻後



(何であんな簡単に了解しちまったんだろう)

終は早くもそんな言葉を思い浮かべていた。


現在彼は、山のように積まれた木材が乗せられた荷車を

腕に血管が浮き出るほど力を込めて引いていた。


しかも見た目通りの重量であるため

その速度は少なくとも早いと言えるほどのものではなかった。


何故、小さな山ができる程度の量の木材が

彼を覆い隠すほどの量になっているのかというと


(まさか、小屋の裏にも木材があるなんてな

こいつは誤算だった。)


実は小屋の中に入っていた木材は

小屋周辺に置く場所がなくなった結果出来たものだったのだ。


小屋は両側を木々で囲まれ奥が見えない状態になっていているが

その奥にはそれなりの空間が広がっていたのだ。


そしてそこには、小屋の中に入っていたのと同じほどの木材の山があり

中にあった木材とともにそれらも荷車に積んだ結果、こうなったのである。


「兄上、動きが遅いですぞ」

そんな終の隣を星が肩にいくつか袋をぶら下げながら歩いて来た。


その袋の中身も縄などの工作の道具が入っており

それなりの重みがあるのだが星は普通に歩いていた。


「うるせぇ、てめぇみたいに軽々と運べるようなもんと違うんだよ。」

終は眉間に皺を寄せてそう言った。


汗は掻いているが呼吸は乱れていないため

こうやって普通に話すことは出来るがやはりキツイものはキツイようである。


「兄上の目は節穴ですか?

これは如何見ても女子が持つ量ではありませぬぞ?」

それに星は若干の汗を掻きながらも涼しい顔で答えた。


当然だが、同年代の女の子にこれを持たせようとすれば

肩に担ぐのは愚か、持ち上げることさえ不可能である。


「お前は女子じゃねぇから大丈夫だろ?」

少し馬鹿にするように終は、そう言った。


「失敬な、星は女子であります。」

それに星は、ムッとしてその場で立ち止まると終に言い返した。


「はっ、冗談は俺に手合わせで勝ってからにしな。」

さらに馬鹿にするように終もその場で立ち止まって言い返す。


そうやって無駄話を続けていたが


「星、終君。」


名前を呼ばれて二人は会話を終了した


そしてギギギと擬音が付きそうな動きで後ろを見た。


「話をするのは別に構わないけれど―――――」

そこには穂先が赤く二股に分かれた槍『龍牙』を手に持った


「チャンと足を動かしましょう?」


笑顔で二人の後ろに立っている愛の姿があった


「「は、はい!!」」

二人は止めていた足を先ほどよりも早く動かして前に進んだ。


別に怒られた訳でも謎の威圧感に当てられた訳でもないが

それでも槍を持った人が後ろでニコニコ笑いながら注意を促してくるのは

恐怖以外の何物でもない。


(いつもは優しくて良い人なんだけど

こういう時になると母上より怖いんだよなぁ)

後ろから自分たちの動く速度に合わせてついてくる愛に

終は足を止めずにちらりと視線を向けた。


それに愛はニコニコと笑みを返した。


もちろん、手には槍を持った状態で


「・・・星」


「何ですか、兄上」


「お前は、そのままでいてくれ。」


「・・・は?」


発言の意味がよくわからず、星は間の抜けた声を出した。


そんな星の反応には興味を示さず

終は言いたいことだけ言うと黙々と前へ進んだ。


否、進もうとしていた


「・・・ん?」

終は遠くに何かが転がっているのを見つけた。


何だろう、と思いその場に立ち止まりじっと見ていたが



それが何なのか理解すると荷物を放って勢いよく駆け出した。


星と愛が驚く声が聞こえたが

彼は、それらを無視して駆け続けた。


二人は何故、終が駆け出したのか理解できなかったが

彼が向かった先を見て理解した。



そこには、人が倒れていたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ