表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫竜神記  作者: DGK
13/40

名前

~政庁内・客室~


呂布と終が犬を連れ帰った翌日。


終はいつもよりも速く目を覚ました。


(・・・まだ空が薄暗い)

微かに青くなっている空を室内から見ながら彼は思った。


もう一度寝ようと布団に身を包んだが

どうしてか眠気が来なかったため仕方なく寝台から降りた。


そして近くに置いてあった自分の着替えを手に取ると

寝巻を脱ぎ、それに着替え始めた。


ふと彼は、縁の寝ていた寝台に目を向けた。


「・・そう言えば、あの時もこんな時間帯だったかな。」

終はそう呟くと呂布と仲良くなる切っ掛けになり

縁から出陣の期日を聞いた日の朝のことを思いだした。



~回想~


あの日の前日、

終は縁から(精神的にも肉体的にもキツイ)

オシオキを受けたため、いつもよりも速く眠りに就いていた。


結果、その日はいつもよりも速く起きることになったのだ。


「う~ん・・・あれ?」

終は目を覚ますと辺りを見渡した。


まだ薄暗かったため初めは何処に居るのか分からなかった。

ただ自分が寝台の上で寝ていることだけは理解できた。


「起きたのか。」

すぐ隣から声が聞こえた。


終は恐怖に顔を歪めるとその人物がいるであろう方向に目を向けた。

暗闇の中でも彼の目には、はっきりとその人物の姿が見えていた。


「おはよう、終。」

縁は、笑顔で挨拶をした。


だが、終はそれを見ていきなりガタガタと震えだした。

昨日の記憶が脳裏をよぎったのだ。


縁は最初その行動に疑問を覚えたが

何故震えているのかなんとなく理解すると、はぁっとため息を吐いた。


「大丈夫だよ。

もう怒ってないからさ。」

縁は寝台から降り、終の前に来るとその頭に手を置いた。


終は、ビクリと肩を震わしたが

頭を撫でられていることに気付くと

本当にもう怒っていないのだと理解した。


「だが、あれは自分が悪いと言うことだけは理解しておけ。」

そう言うと縁は終の頭を掴むとギリギリと力を入れた。


(まだ全然怒ってたーーーーーーー!!!)

「分かりました!分かりましたから、手離してください!」

終は涙目になりながら懇願した。


縁の手が彼の頭から離れた。

彼は両手で自分の頭を抱えながら蹲った。


縁はその様をニヤニヤ笑いながら見ていた。


「まったく、母上は俺を苛めてそんなに楽しいですか?」

そんな縁の表情を終は憎々しげに睨みつけた。


「楽しくなければ、する訳がないだろう。」

縁はケラケラと笑いながらそう答えた。


「子供の虐待は良くないと思いま~す。」

終は、それに挙手する形で講義した。


「いけないことほどやりたいと思うものなのだよ。」


「それって唯の詭弁じゃないですか。」

終は縁の言葉にそう返した。


「詭弁もしつこく言い続ければ正論になる。」


「それって洗脳の常套手段ですよ。」

さらっと危ない発言をした縁にさらにそう突っ込んだ。


そうやっている内に、空はだんだんと明るくなっていった。


縁は未だに自分に文句を言っている終の姿を見て

面倒臭がりながらも何処か楽しそうに微笑んだ。

それを見て彼は『もうこの人には何を言っても駄目だ。』と判断するとため息を吐いた。


「まったく、本当にあなたが俺の母上なのか疑いたくなってきましたよ。」

終はふとそんなことを呟いた。

それが聞こえたのか、縁は軽く、だが痛みを感じる程度に彼の頭を小突いた。


「残念だが、それでも私は母親だ。」

縁は悪戯っ子のような笑みを浮かべるとそう言った。


それに終は「ですよね~」と言いながら顔に嬉しそうな笑顔を浮かべた。


空に太陽の光が射した。


「・・・私はそろそろ行く。また後でな。」

そう言うと縁は、腰に刀を差した。

どうやら、終が起きるよりも速く起きていたらしく既に服を着替え終えていた。


そして彼女は終の前で大きく伸びをした。

その時、彼は彼女に何処となく違和感を感じた。

彼女の姿を頭の天辺から足のつま先まで見た。

すると何がおかしいのかすぐに分かった。


「母上。一本足りませんよ。」

終は縁の腰、刀の差してある個所を指さした。

前々日まであった三本の刀が何時の間にか二本に減っていたのだ。


「それなら、お前の剣の傍に置いたぞ。」

縁はその場所を指さして言った。


終は自分の剣が置いてある場所を見た。

確かに、彼女のものである刀が自分の剣の傍に置いてあった。


「・・何で持っていかないんですか?」

終は縁に視線を戻すとそう聞いた。


彼女が自分の刀をここに置いていく理由が見当たらないからである。



「・・・それが、もうお前のものだからだ。」


「・・俺のもの?」

縁の言葉に終は聞き返した。

それに彼女は頷いた。


「・・・あの夜、私はお前に負けた。」


「・・・それとこれと、どういった関係があるんですか?」

終はいきなり縁が自分に負けた話をしたことに

何故、その話が出てくるのか謎に思い問いただした。


「あの時、私の刀の一本を飛ばしたことは覚えているか?」


「え?・・・ああ、確かに飛ばしましたね。」


「それがその刀だ。」

縁は一旦言葉を区切るとあの夜のことを詳しく話し始めた。


「・・・お前は私の掌底を受け気絶した。

そして意識が無いにも関わらず剣を振るった。」


そこまでは彼が聞いた話だった。

彼女はその続きの話をした。


「その後、お前はゆっくりと立ち上がったんだ。

見るまでもなく動ける状態ではないと判断できる状態でな。

私は、お前の一挙一動を見逃すまいと身構えながらお前を見た。

その時、お前の左手に刀が握られていることに気付いたんだ。」


「!」

終はそれを聞くと驚いた表情になった。


「少しの間があってお前は動いた。

・・正直言うと、意識のあった時のお前よりも数段速かったな。

先に左手に持った刀で私を切りつけようとした。

それを何とか受け止めたのは良かったんだが

お前が予想外に速くなったのと突然二刀流に変わったことで

右手に持っていた剣に気がつかなかった。その結果が敗北さ。」

縁はそう言って話を締めくくった。


「・・そう・・ですか・・・」

終はそう呟くと顔を俯かせた。


「・・・終。

その刀に刻まれている文字を見ろ。」


そう言われて彼はその刀を手に取った。


何処に文字が書いてあるのか調べると

刀の柄の部分にはっきりと『仁』の文字が刻まれていた。


「その文字の意味がお前に分かるか?」


「・・分かりません」

終は素直にそう答えた。

『仁』という文字がどう読むかは分かっても

どういう意味を持つかは知らなかったからだ。


「それはじんと言ってな、

お前も知っている通り、私たち親子の姓だ。」

縁はそう前置くと『仁』の意味を言った。


「仁というのは、他人を思いやる心。

一言で言ってしまえば『優しさ』だな。」

縁は至極真面目な顔でそう言った。


だが、終はこの時思ってしまった。

その文字にそんな意味があると言うことは

母上は常に『優しさ』を身につけて行動しているのかと。


「・・・何か母上には似合わない文字ですね。」

彼は言ってから「しまった」という表情をした。



ゴンッ!



だが時は既に遅く、縁のいつもの数倍は威力のある拳骨が彼を襲った。


「・・・他に何か言いたいことは?」


「いえ、ありません、すいませんでした。」

黒い影を身にまといながら質問してきた縁に終は早口でそう答えた。


「・・・まあ、ある意味では事実であるから、反論は出来んがな。」

彼から目を逸らすと少しだけ表情を曇らせながらそう呟いた。


そして続きを話そうとしたが

彼女はその場に立ち止まったまま動こうともせず話そうともしなかった。


「・・・?どうしたんです、母上。」

その様子に終は心配になって問いかけた。


「・・忘れた。」


「はい?」

そう反応した瞬間、彼女の両手が彼の両頬を抓った。


「貴様が私に似合わん文字だとか下らんことを抜かしたおかげで

今から言おうとしたことを忘れてしまったと言うたのだ!!!」


「ふぁふぁふえ!!いひゃい!!いひゃいれふ!!

(母上!!痛い!!痛いです!!)」

縁はグイグイと終の頬を引っ張っていき

彼はそれを涙目になりながら止めるように懇願した。


呆れたような表情になりながらも彼女は手を離した。


「いつも言っているが、貴様は言葉を放つ『時』というのをしっかり見極めろ!」

しくしくと泣きながら頬を擦っている彼に縁はそう叱りつけた。


自分の時期を読まなかった失態によって

何度も自爆した今までの彼のことを思い出し

縁は『もうこいつには何を言っても無駄なのだろうか』という結論を出しつつあった。


「まったく、本当にお前が私の息子なのか疑いたくなってきたぞ。」

縁は、そう言ってから表情を暗くした。


すると終は、悪戯を思いついたような笑みを浮かべた。


「残念ですが、それでも俺は息子です。」


終の言葉に縁は一瞬固まった。


「・・・それは意趣返しのつもりか?」

縁はすぐさま不機嫌そうな顔をした。


「そのつもりでしたが、何か?」

終は変わらずに悪戯っぽく笑った。


そして少し間が空き


「「・・・プッ」」

二人は大声で笑い合った。



「・・・そろそろ行かないと流石にまずいな。」

縁は外を見るとそう呟き、廊下へと早足で向って行った。


「母上、ちょっと待ってください。」

終は『仁』と銘打たれた刀を縁の元に持っていった。


「それはもうお前のものだと先ほど言っただろう。」

少し呆れたように縁は彼を見た。


「ええ、確かに母上は俺にそう言いました。

ですから、この刀をどうするかは俺が決めます。」

終は、そう言うと彼女の腰に刀を差した。


縁は少し驚いた表情で彼を見た。

彼は言葉を続ける。


「その刀は、俺が今より大きくなるまでしばらく母上が預かってください。

まだ、俺が持つには速いですし、母上にはまだその刀が必要だと思いますしね。」


「・・・」

縁は、しばらく終を見ていたが


「・・そうか。

そう言うことなら、しばらく預かっておこう。」

彼にそう言うとその場を去って行った。


(・・・な~んだ)

終は、縁の背中を見るとこう思った。


(結局、『今』の俺に渡すつもりはなかったんじゃないですか。)

そして彼は食堂へと歩を進めた。





終は閉じていた目をゆっくりと開けた。

少しだけ時間が経ったのか、日の光が薄らと空に射していた。


彼は改めて室内を見渡した。


必要なものだけが置かれた部屋。

彼女が戦地に向かってからも特に変化のなかったこの部屋。

その部屋が今、何故だか彼にはとても広く感じた。


「・・・やっぱり、母上がいないと・・・」

寂しいな、と言おうとして彼は口を噤んだ。


(駄目だ!駄目だ!!

こんなことで弱音を吐いちゃ駄目だ!!)

終は首を大きく左右に振った。


(母上は必ず帰って来る!

あの人の強さは、俺が一番よく知っている!)

終は腰に自分の愛剣を差すと廊下に出た。


(・・・少し、体でも動かしてくるか。)

終は、そう考え庭園に向おうとした。


(・・・待てよ。)

少し歩いてから彼は止まった。


(そう言えば、あの犬は今どうなっているんだろうな。)

「・・・ちょっと見てくるか。」

終は方向転換すると怪我をした犬の居る客室へと向った。




その部屋は、終の居る部屋から

比較的近い場所にあるため左程時間を掛けずに部屋付近に到着した。


「さて、何処まで良くなったかな?」

終は扉が開かれた状態になっていた部屋の中に入った。


そして中の光景を見るとその場で立ち止った。


犬は昨日彼が応急処置を施した状態、体中を包帯で巻かれた状態で寝ていた。

それだけなら彼は、「うん、大丈夫そうだな」とでも言って体を動かしに行くつもりだった。

そう、彼がここで止まったのは『それだけ』ではなかったからだ。


その『それだけではないもの』とは・・・


「・・・あれからずっとここに居たってのか?


呂布。」

終は静かにそう呟いた。


彼の視線の先には呂布が床で横になり

犬に抱きつく形で寝息を立てながら寝ていた。

恰好は彼が夕食を食べるときに見た姿と変わっていなかった。


「布も掛けずに寝るって・・・・。」

呟きながらその部屋にあった寝台に近づいた。


「風邪引くとか考えてねぇのかよ。」

そして文句を言いながらその寝台から布を取ると彼女と犬に優しく掛けた。


一瞬、呂布の体が動いたのを見て『起こしてしまったか?』と思ったが

すぐに寝息が聞こえてくるとほっと胸を撫でおろした。


「ったく、俺とそう歳は変わらねぇって言うのに・・・」

終は、近くにあった椅子に座った。


「健康管理とか考えてねぇのかよ、こいつは。

布も掛けずに寝たら普通に考えて寒くて寝れねぇはずだろ。」

呆れ気味にため息を吐いた。


(まあ、犬が心配だったってのは分かるが)

「・・・てめぇが心配されるような状態になったら元も子もねぇだろう。」


そんな彼の呟きが寝ている彼女に届くことはなく、

彼もその呟きを彼女に伝えるつもりはなかった。


それから少し時間が経った。


(・・・そろそろ、体動かしに行くか。)

終は、そう考えると立ち上がった。


そして起きていないかどうかを確認するため自分の足元の呂布に目をやった。

彼女は部屋に来た当初と変わらず、すやすやと気持ち良さそうに眠ってた。


その姿を見て彼は不意に常山に居る、

自分の妹分である星のことを思いだした。


今よりまだ小さかったころ、

彼女は本当にお転婆な女の子であったと終は苦笑いしながら思い出していた。

村に迷惑を掛けた子供で順位付けするなら、間違いなく彼が一番だが

村から颯爽と消えていった回数だけで言うなら彼女が一番だからだ。


初めのうちは消える度に慌てていた村人たちだが、

消える度に終が見つけて連れ帰るという出来事が繰り返されたことによって

彼女が消えてもあまり混乱しなくなった。


それを思い出して『本当にあの頃の星には、ほとほと困らされたな。』と思っていた。


一年ほど前まではこんな出来事が日常茶飯事だったころの星に比べて

今の星は少し落ち着いてきたように感じていた。

とは言っても、彼女が消えることが無くなった訳ではなく

ただ、行ったら戻って来るようになっただけだが。


(あれ?何でこんなこと思い出しているんだっけ?)

そう考えるともう一度足元の呂布を見た。


(・・・ああ、そっか。)

終は屈んで呂布の顔を覗いた。


「この寝顔が、星に似ているんだ。」

ようやくそのことに気付くと彼女の顔を見ながら優しく微笑んだ。


そして彼女に触れようとして


止めた。


「・・・」

終は暗い顔になると屈めていた足を伸ばし部屋の外へと出て行った。




~政庁内・庭園~


剣が風を凪ぐ音が絶え間なく鳴っている。

その音の元である終は、不機嫌な表情で剣を振っていた。


理由は先ほど彼自信がした行動にあった。


(・・・何で、触らなかったんだろうな。)

剣を振りながらそんなことを考えていた。


(・・いや、違うな。

触れなかったんだ。)

終は、剣を振る手を止めることなく思考した。


(・・・ある程度は信じられている。これは理解できている。

まだ手で触れ合うほど信用はされていない。これも理解できている。

・・・理解出来ていなかったらさっきみたいな行動はしていない。)


横に一閃、自分の背中近くまで振り切った剣を大きく振り下ろす。

そして地面に届くか届かないかと言った位置で剣を止める。


「・・・だけど、何かモヤモヤするんだよな~」

剣を右手に持ち、素振りの構えを解くと空を見上げた。

空は既に青く染まり、東側から日が照っていた。


わん!


廊下側から犬の鳴き声が響いてきた。

それに反応して終は空から廊下側へと目を向けた。


そこには呂布と、呂布に抱かれた昨日の犬が居た。


「何だ?もう起きたのか?」

終は剣を鞘に納めると呂布の元に歩いて行った。


「・・・」

だが、呂布は何も言わずにただ彼を見つめた。


終は彼女が何かを伝えたいことを理解したが

何を伝えたいのかさっぱり理解できなかった。


一体彼女は自分に何をしてほしいと言うのか?

そう考えたその時、彼女の口の端が濡れているのを見つけた。


「一緒に食べに行こうってか?」

終がそう聞くと呂布はコクリと頷いた。


「よし!行こうか!」

そして二人は、食堂へと駆けていった。



~政庁内・食堂~


食事


それは終や呂布に限らず、全ての生きとし生ける者たちにとって大事な行動である。

食べる量の違いはあれど生きている限り必ず食事は必要である。


終は以前も説明したとおり、

余程の事がなければ朝昼晩、どの時間帯の食事も取る男である。


何故それをまた説明しているのか?


それは終の食事の手が完全に止まっているからである。

料理はある、箸もある、なのに食事を取ろうとしない。


もし彼の母、縁がこの場に居たのなら

額に手をやり熱が無いかどうかを確認することだろう。


だが、それだけ彼は驚いているのだ。

自分の食事の手が止まるほどに。


「・・・呂布。

食事中に悪いが一つだけ言わせてくれ。」

終は自分より先に食事を開始している呂布に言った。

ちなみに今、重なっている皿の数は五枚である。


「・・・(カクン」

呂布は口に物を詰め込みながら彼の方を向くと首を傾げた。


「その、なんて言うかな。

昨日より近くないか?お前」

少し体を動かせば触れてしまう程の距離に居る呂布に対して彼は苦笑いした。


それもその筈である。

何時もなら机の端に座っているはずの彼女がこんな至近距離にいるのだから。


「って言うか絶対近くなってるよな?

こんな近くに居て嫌じゃないのか?」


ピタッ


終がそう聞くと呂布は食事の手を止めた。

そして彼へと視線を向けた。


「な、何だ?どうした?」

終は突然呂布が自分を見たことに驚いた。


呂布は何も言わずに後ろを指さした。


(?後ろが何だってんだ?)

そう思いながら振り返った。


そこには呂布が料理長に頼んで

作ってもらったものを食べている、包帯まみれの犬がいた。


犬は彼が見ていることに気付いたのか

彼の方を見ると、わん!と鳴いた。


「・・・このこが」

呂布は、ぽつりと呟いた。


「こいつが?」

終は、それを聞き返した。


「・・いっしょに・・・たべたい・・っていった」

呂布は、それだけ言うと食事を再開した。


「・・・お前って喋れるのか?」

終は、犬の方に向き直るとそう問いかけた。


「クゥン?」

犬は彼が何を言っているのか分からないと言った様子で首を傾げた。


「・・・んな訳ないか。」

そう一言呟くと彼も食事を開始した。



それからしばらくして


二人と一匹は庭園に来ていた。


犬は尻尾を振りながら鳴いており

呂布は犬の元気そうな姿を見て笑顔になっていた。


そして


「なあ、何で俺まで一緒にここに居るんだ?」

呂布達とは対照的に終は不機嫌そうな顔で腕を組んでいた。


「・・なんで?」


「いや、こっちの方が『何で?』だよ。」

終は首を傾げながら自分に聞いた呂布に

『何故自分がここに居るのか』と言う意味で聞いたのだと思いそう突っ込んだ。


「・・・(フルフル」


「は?・・・そりゃ『何で?』の意味が違うってことか?」

終は首を横に振った呂布の行動が一瞬理解できなかったが

どの部分で首を横に振ったのかを何となく理解しそれが正しいのか聞いた。


「・・・(コクリ」

呂布はそれに首を縦に振ることで答えた。


それに終はさらに問いただそうとしたが

とりあえず彼女が続きを話すのを待った。


「・・・・・なんで・・ふきげん?」

しばらくしてから呂布はそう聞いた。


彼女がここに彼を連れてきたのは

犬が自分と終の二人と一緒に居たいと意思表示をしたためである。


さらに彼はここ数日間、殆ど自分と行動を共にしていたため

今更になって不機嫌になることが理解できなかったのである。


「・・・今日は久しぶりに『あいつ』に会いたいと思って

朝飯食ったらすぐに城の外に出ようと計画していたのさ。」


「・・?なんで?」

呂布が再びそう聞いた。


彼の雰囲気からして

多分ここに来るときに一緒に動物を連れてきたのだろうと考えていたが

何故城内ではなく城外に居るのかよく分からなかったからだ。


(・・この質問のされ方に慣れるのは苦労しそうだ。)

「・・・まあ、その『あいつ』ってのが馬でな。

色々と性格が俺と似ているせいで厩に長いこと入れていると

壁とか柵とか出る時に邪魔になるやつ全部壊して逃げちゃうんだよ。

それでここの人達に迷惑を掛けないためにも外に出さなきゃいけないのさ。」

そう言った終の表情には、諦めの感情が含まれていた。


「まあ、足は速いし頭も良いし

何より一緒に居て楽しいから良いんだけどね。」

終は自らの相棒の姿を思い出すと笑みを浮かべた。


「・・ごめん」

呂布が少し表情を暗くして謝った。


彼の話からその馬がかなりの曲者だと理解したが

同時に彼にとってとても大切な存在であることを表情を見て理解した。


だからこそ、久しぶりの再会になる筈だった今日を

自分が台無しにしてしまったのだと考え申し訳なく思ったのだ。


「別に謝らなくても良いさ。

取り敢えず呼べばすぐに来てくれる範囲内には居てくれるから

外にさえ出れば何時でも会うことが出来る。

まだ会わなくても大丈夫だよ。俺も、『あいつ』も。」

終は手をひらひらとさせながら「だから気にするな」と言った。


「・・・わかった」

終の説明を聞いて取り敢えず納得すると呂布は元の無表情に戻った。


わんわん!


大きな鳴き声が二人の足元から響いてきた。


二人が視線を足元に移すと

犬がくるくると回っては自分たちに向って吠えていた。


「あー、これは遊んで欲しいって意味で合ってるか?」


「・・・(コクリ」

呂布は頷くと終を指さした。


「・・俺も一緒に?」


「・・・(コクリ」


「・・・・あそこから眺めるだけじゃ駄目か?」

終は池の傍にある東屋を指さした。


「だめ」


「・・・今まで話した中で一番速い返答だったな。」

終は、やれやれと言った様子で両手を上げた。


「分かったよ。・・・一緒に遊ぼうか。」


終がそう言うと

犬は嬉しそうに吠えながら庭園の奥へと駆けて行き呂布もその後を追いかけて行った。

終は、それを見て楽しそうに笑うとその後に続いた。


それから二人と一匹は昼食を挟んで大いに楽しんだ。


途中で犬が林の中で迷子になったり

終が犬を見つけたと思ったら今度は呂布が失踪したり

彼が再び林の中に入り眠っている呂布を発見したり

彼女を起こして元の場所に戻ったら犬が怪我を負っていることを忘れて池に入りそうになったり

・・・主に終が苦労した問題が起こったがそれでも彼はそれも含めて楽しんだ。


今、二人と一匹は遊び疲れて東屋の中で休憩していた。


「・・眠っちまったか。」

終は、呂布に抱かれている犬を見て言った。


犬は彼女に撫でながらぐっすりと眠っていた。


(・・走れるくらい元気ってことは

見た目ほど酷い怪我じゃ無かったってことだな。)

終は先ほどまで一緒に遊んでいた犬の姿を思い出しながらそう考えていた。


(後で何か来るような大怪我じゃ無かったことにまず感謝だね。

だからと言ってまだ薬を塗るのを止めるには速いか・・・

取り敢えず何日か様子を見てから結論を出すことにしよう。)

犬についての考えを纏めると終は呂布を見た。


彼女は犬の頭に手を置き、赤くなった空を見上げていた。


「・・呂布、お前夕日が好きなのか?」

終は、そんなことを聞いてみた。


「・・・すき」

呂布は彼の方を向かずにそう答えた。


「・・・そうか。」

終も呂布と同じように赤くなった空を見上げた。


「・・・母上達、どうしているんだろな。」

終は不意にそんな言葉を出してしまった。


彼女達が出陣してからちょうど七日目。

あれから何の音沙汰も無く日々が過ぎ、

彼女達が今どうしているのかも分からない状況だった。


この言葉は戦場に身を置いているであろう

彼女達のことを心配して出てきた言葉だった。


「・・・だいじょうぶ」

呂布は彼に向ってそう言った。


「・・しん・・つよい・・だれにも・・・まけない」

呂布は、視線を空から下ろすと彼の方を見た。


その目は「お前の母はどうなのだ?」と言外に聞いていた。


「・・・・・俺の母上も、誰にも負けない『強さ』を持っている。負けるはずは無い。」

終は呂布を見るとはっきりとそう言った。


「・・・じゃあ・・しんじる」

呂布は、再び空を見上げた。


「・・かならず・・・かえってくるって・・・・しんじる」


「・・・そう、だよな。」

終も彼女と同じように空を見上げた。


(母上達もこの空を見ているのだろうか?)

ふとそんなことも考えたりした。


だが、そんなことはやはり分からないので考えるだけ無駄だと悟り思考を止めた。


「・・話は変わるが

その犬、怪我が治ったらどうするつもりなんだ。」

終は何となく気になっていたことを聞いてみた。


「・・・かう」

呂布は大して考える素振りも見せずに言った。


「・・・そんなことして丁原さんに怒られないのか?」


「・・だいじょうぶ」

呂布は犬を抱きしめた。


「・・ちゃんと・・せわする」


「いや、世話がどうとかじゃなくて丁原さんが・・・

ああ、もういいや。」

これ以上言っても多分無駄だろうと判断し言葉を切った。


(大丈夫って本人が言ってるんだし大丈夫なんだろ。)

そう結論を出すとまた別の質問をぶつけた。


「じゃあ、その犬は怪我が治ったらお前が飼うとして

名前はなんてつけるんだ?」

終がそう聞くと呂布は何かを考えるような顔をした。


彼女だけに考えさせるのは

少し気分が悪いと思った彼は彼女と同じような顔をして考え始めた。


(赤いからやっぱり赤がつく名前が良いよな。

だからと言って単純にあかって名前にするのは面白くないな。)

終は腕を組むと「う~ん」と唸った。



「・・・セキ」

それからしばらくして呂布がそう呟いた。


「セキ、か。」


「・・どう?」

終が考えているのを見て呂布は聞いた。


「・・・後一文字くらい付け足してみたいな。」

他に何か思い浮かぶ物はないか、終は今日のことを思い出した。


「・・・さっきまで、兎みたいに飛び跳ねていたな。」

そして彼は自分が思いついた名前を言ってみた。


「セキト、て名前でどうだ?」

終がそう言うと呂布は一瞬間を置いてコクリと頷いた。


「んじゃ、この犬の名前は『セキト』だ。」

終は満面の笑顔でそう言った。


すると犬が目を覚ました。

二人はさっそく自分たちが決めた名前で犬を呼んだ。

初めは首を傾げていたが、それが自分の名前だと気付いたのか「わん!」と鳴いた。


嬉しそうに鳴く犬を見ていた二人の顔には笑顔が浮かんでいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ