表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫竜神記  作者: DGK
11/40

夕日

~政庁内・庭園~


そこには今、多数の動物達がいた。


犬、猫が一つの生き物のように集団になって動き回っている。


その中心に立つ少女は、顔に微笑みを浮かべながら動物達と戯れている。


その動物達と戯れている少女とは呂布のことである。


時刻は現在、昼少し前くらいである。


動物達の中から一匹の猫が彼女の足元にすり寄ってきた。


「・・・なに?」

呂布は膝を屈めると猫に問いかけた。


猫は口に花を咥えていた。


呂布はそれを手に取った。


「・・・ありがとう。」

呂布は猫に微笑むとその頭を撫でた。



「通り難い。」

その光景を影から見ていた終はまず一言そう呟いた。


昨日、縁のオシオキを受けた彼は

今朝になってようやく精神復帰を果たしたのである。


そして本を持ち呂布に会うために庭園に向かったが

この光景を見て悩んでいたのである。


いくら彼と言えども

全てを失った少女の数少ない幸せを邪魔することはかなり抵抗があった。


(昨日はいろいろあって来れなかったから

今日行ってみようと本を用意してきたのに・・・)

手に持っている本に目を向け、再び呂布の方を見る。


彼女は彼に気が付いていないのか

とても楽しそうに動物達と戯れていた。


その笑顔は、空に昇った太陽と

その光を反射した池の光によって、とても輝いて見えた。


「・・・あんな顔も出来るんだな。」

終は、ふっと笑顔になった。


そして今行けば、間違いなくあの笑顔が崩れることを知った。


「・・・負けた方が

いい時もあるんだな。」

終はそう呟くと呂布の姿が自分から見え

呂布からは自分が見えない位置に座った。


そして本を読み始めた。



「・・・て言うかあいつ喋れたんだな。」



それからしばらく時間が経ち・・・


「・・・」

終は、呂布に睨まれていた。


時刻は昼ごろ


ちょうど昼食を食べる時間帯であるが


呂布が彼を睨みつけている場所は

食堂ではなく庭園であった。


(・・・何故こうなった。)

終は、自分を睨んでいる呂布を見てそう思った。


先ほどまで彼女は動物達と戯れていたが

昼になったことに気付き、動物たちを帰らせていた。


そして彼女がこの後食堂へ向かうであろうと彼は考え

彼女とは違う道を辿って食堂へ向かおうとした時。


背後からいきなり石が飛んできたのである。


終は、それを避けると石を投げた人物を見た。


その人物とは、

先ほどまで庭園で動物達と戯れていた、呂布奉先その人だったのである。


そして現在の状況にある。


「・・・」

呂布は、表情一つ変えず終を睨んでいた。


(・・・もしかして、さっきまで見ていたのがばれてたのか?)

終はそれを見て何となくそうなのではと考えた。


(もしかして怒っているのかな~)

彼女が自分に見られること自体を

不快に思って怒っているのではないか、と彼は続けて考えた。


だが、それを目の前の少女に問いかけることは出来なかった。


なぜなら彼女の体から

自分と同じ子供とは思えない程の覇気が滲みでており

彼に有無を言わせない様子であったからである。


そうやってしばらく時間が経った。


「・・・」

呂布は、終に背を向けるとそのままどこかへ去って行った。


いきなり自分を睨みつけていた彼女が

特に何を言うでもなく去っていったことに

終は、ポカンとした表情で立っていた。


「・・・結局、何がしたかったんだよ。」

彼女が立っていた場所を見てそう呟いた。


ぐ~


「・・・飯、行くか。」

そして食堂へと足を運んだ。


~政庁内・食堂~


終は、厨房の前で忙しなく体を揺らしている。


厨房では彼が頼んだ料理を作っている料理人がいる。


「もう少しだぞ、坊主!」

料理人は大声で厨房の前で動いている終にそう言った。


終は、料理がもう少しで出来上がると言われさらに体を大きく揺らし始めた。


「そんなにして待っていては出来るものも出来なくなるのではないか?」

終が体を大きく揺らしている時、後ろから縁が声を掛けて来た。


「じっと出来ないぐらいお腹が減っているんですよ。」

終は、喉を鳴らして笑うと縁の方を向いて腹を擦った。


説明するが

彼は、別に大食漢などそういった類の人間ではない。

朝昼晩の時間帯にきっちりと腹が減るだけなのである。


「・・・まあいい。」

終のあまりにも素直すぎる、

悪く言えば欲望(食欲)に忠実な言葉に

呆れとも諦めとも言える表情を浮かべ、厨房に居た料理人に自分の注文を頼んだ。


「待たせたな、坊主。」

料理人は満面の笑顔で終に料理を手渡した。


「ありがとうございます。」

それに頭を下げてお礼を言った。


「良いってことよ!

なんてったって、これが俺の仕事だからな。」

料理人はそう言うと縁の料理を作るために調理に戻った。


終は料理を手に持ち席を探しに行こうとして

「あっ」と声を出して立ち止った。


縁は何故立ち止ったのかと思い怪訝そうな顔をした。


だが、それも次の彼の言葉によって驚嘆へと変わる。


「母上、俺に何か言いたいことがあるんじゃないですか?」


縁は終が放った言葉に思考が停止した。


「・・・何故、そう思った。」


縁が質問すると終は近くの席に料理を置いた。


「半分は母上の雰囲気からですよ。」

縁の質問に終は振り返らずに答える。


「母上の雰囲気が

何となく并州に行く話をしたときに似ていたからです。」

終は、振り返らずに淡々と話した。


それを聞いてさらに縁は驚嘆する。


彼女と彼が話した時間はそれほど長いものではなかった。

なのに彼はその短時間で自分の考えていたことを見抜いたのだから。


(・・・本当に、こいつは・・・)

縁は、改めて教えられた彼の才に苦笑いした。


「それで?もう半分は何なんだ?」

縁は次の質問を投げかけた。


すると終は振り返って縁を見た。

その顔には何時かの彼女のような悪戯心たっぷりの笑顔を浮かべていた。


「『勘』、ですよ」


予想の遥か斜め上を行った終の答えに対し

縁は滑るという動作を用いた。


まあ、当然である。

初めにまともな答えを話したと思ったら

残りの話を事実も確証もない『勘』で片づけられてしまったのだから。


「いや~、雰囲気もあったんですけど

これは何かあるな~と頭の隅にこう光る感じがしたんですよ。」

終は、自分の頭を指で指しながら言った。

その顔に変わらず笑顔を浮かべて。


(・・・本当に・・こいつは・・・)

縁は、右手に拳を作った。


それを見て終の顔は恐怖に染まった。


「ま、待ってください!

冗談じゃなくて、本当にそうなんですって!」

終は冷や汗をだらだらと流しながら弁明する。


「だったらなお性質が悪いな。」

縁は拳を解かずにゆっくりと終に歩み寄った。


「ああ、前もって言っておくが

私が今からお前にすることはお前の笑顔が憎たらしかったという理由に託けて

ここに来てから溜まった鬱憤を晴らすためにするのであって

別に教育的な意味はないからな。恨んでくれても構わん。」

そしてさらっと自分勝手なことを言った。


「それってつまり八つ当りってことじゃないですか?!!そんなの御免ですよ!!」

そう叫んで終は全力で逃げようと足に力を入れた。


「それと逃げようとするのは構わんが・・・」

だが、彼が逃げるよりも速く縁の左手が彼の襟首を掴んだ。


「私から逃げられると思うなよ。」

終は、後ろを振り返った。


そこには先ほど彼が浮かべていたものと

同じ笑顔を浮かべている縁の顔があった。


「・・・理不尽だ―――――――――!!!!」


「問答無用!!」



ゴンッ!!


縁の拳骨が容赦なく振り下ろされた。


「よし、スッキリした。」

縁は、終を離すとそう言った。


「スッキリした、じゃないですよ~。」

終は涙目になりながらも立ち上がる。


「何か意味のあることのために殴られるならともかく、

ただの八つ当りのために殴られるなんて・・・」

非難の目を縁にぶつけながら愚痴を言った。


「八つ当りされないだけの男になればいい話だよ。」

縁はそう言うと既にできていた料理を取って終に近づいた。


そして左手に料理を持つと右手に終の料理を持って彼に差しだした。

それを終は少し呆れ気味になりながら、しかし笑顔を浮かべながら受け取った。



それから二人は空いている席を見つけると

そこに座り他愛もない話をしながら料理を口にした。


「で、話は大分逸れてしまいましたけど・・・」

食べ終えると同時に終は唐突に言った。


「逸れた?何がだ?」

縁はまるでわからないと言った風にしている。


「母上が俺に話したかったことですよ。

ほら、俺が厨房の前で待っていた時に。」


「ああ、あれか。」

終が説明すると縁はようやく理解した。


「まあ、大した話ではない。

別に聞かなくてもいいだろう。」

縁は、話すのも面倒くさいと言った様に空になった皿を持って厨房に戻しに行った。


「母上がそう言う時は決まって大事なことなんですよね~」

終も空になった皿を持って縁の後に続いた。


「・・・大事な話と言えば大事な話なのだがな。」


「じゃあ、何で話してくれないんです?」

縁がどうしても話すのを渋っている様子を見て終は聞いた。


「いや、どうせすぐにお前の耳に入ると思って

今話す必要はないと考えたのだが。」

縁は、う~ん、と唸りながら皿を厨房に戻した。


「例えそうだとしても

自分の口でそれを伝えるべきだと俺は思いますよ。」

皿を厨房に戻し、食堂から出ると終は縁にそう言った。


「そう言うものか?」

縁は口の端を少し上げてそう問いかける。


「そう言うものですよ。」

終も同じように口の端を上げて答えた。


それに縁は「やれやれ」っと言うと両手を上げた。


「仕方ないな。

分かった、話そう。」

そう言うと立ち止って終と向かい合った。

その顔は真剣そのものだった。


終はその縁の表情を見て態度を改めた。


「・・・一度しか言わないからな、よく聞けよ。」

縁はそう言うと小さく息を吸った。


「今から七日後に信と共に戦地に赴くことになった。

・・・しばらく、お前に会えなくなる。」


「・・そうですか。」

縁の話した内容に彼は静かに理解したことを告げた。


「・・・驚かないんだな。」


「并州に行く前の物々しさと

城下や道中で話し合っていた人々の声を聞いていれば。

母上が何故ここに来たかなんてことは、自ずと分かりますよ。」

終は彼女が何の手伝いをしに并州に向かうのか道中で薄々感づいていた。


それは、彼らが并州に到着する二日前のこと



終は縁と共にある村の店で料理を食べていた。


その時、彼の耳に偶然隣の席に居た二人の男の声が聞こえた。


『おいおい、そりゃ本当の話か?』


『おう、本当も本当よ。

并州に匈奴の連中がそりゃえらい数で攻めてきてるって

ここら一帯じゃもう知れ渡ってる話だぜ。』


『でも、その話が本当なら《漢》が黙っちゃいないだろ?』


『それがもう一年も経ってるってのに軍どころか米一粒送り届けてねぇらしい。』


『何だって!それじゃ、

并州が匈奴のものになっちまうのも時間の問題じゃねぇか!』


『ああ。今はそこの刺史をしている

丁原って言う人の頑張りで如何にか城の周辺には近づけていねぇって話だが。』


『う~ん、この分だと并州に行くのは諦めた方が良いかね。』


そう言って男たちは話し合っていた。


この話を聞いた時、終は彼女がこの戦いの助っ人として

并州の有力者に要請を受けたのだろう、と考えていた。


もっとも、流石にその有力者がまさか件の刺史だったとは

彼自身、微塵も想像していなかったが。


「まあ、行くと言うのでしたら俺から言うことは特にありません。

早速準備に取り掛かった方が良いのではないでしょうか。」


「・・・随分あっさりと言うものだな。」

終がさも当然のように言った言葉に、縁は無表情にそう言い返した。


「無駄に女々しく言っても貴方にとっては鬱陶しいだけでしょうが。」

終は肩を竦めるとふっと含み笑いを浮かべた。


「確かにそうだ。だがな・・・」

縁は無表情のまま視線を下ろした。


「戦場に行くことは即ち死と隣り合わせになることだ。

もしかすると、お前をここに置いたまま帰らぬ身となるかもしれん。」

縁の顔に影が掛って来た。


「・・・これが最後の会話になるかも知れんのだぞ。

それをこんな終わらせ方にして良いのか?」

縁は拳を固く握りしめた。

全身が小刻みに震えている。


「・・・馬鹿かあんたは。」

それを聞いて終は明確な怒気の籠った声で返答した。


「黙って聞いてりゃ、死ぬかもだの、帰れぬかもだの

・・・まるでそれが前提になってるみてぇじゃねぇか。」

そして縁に近づくと彼女の目を自分の持つ全ての気を用いて睨みつけた。


縁は自分より背の低い彼が遥か高みから己を見下している錯覚を覚えた。


「今度、俺の前でもう一度そんなことをほざいてみろ。

マジでぶん殴るぞ。」

終はそう言うと彼女から距離を置いた。

言いたいことを言ったからか怒気は既に収まっていた。


「・・・」

縁は茫然とそこに立ち竦していた。

彼がいきなり激怒したことに動揺したからである。


だが、動揺が収まると

何故彼があれほどまでに怒ったのか朧げながら理解した。


彼は心配しているのだ。

自分が戦場へ向かうことに。


「・・・すまないな、終。」

縁はそれに気付くと彼に謝った。


(本当に、老いと言うのは嫌なものだな。

私としたことが、自分の息子に叱咤激励されるとは・・・)

そして縁は改めて『弱くなった』自分に気付かされた。


(まったく、駄目だな。『今』の私は)

縁は大きく両手を広げると


パァン!!!


思いっきり自分の頬を叩いた。


(よし!!)

思考が切り替わったことを

実感するとゆっくりと頬から手を離した。


「・・・プッ」

終は縁が頬から手を完全に離したのを見ると大きな声で笑い出した。


「・・・何がそんなに面白いのだ?」

縁は眉間に青筋を浮かべながら聞いた。


「自分の顔を見れば分かりますよ、母上。」

目尻に涙を浮かべながら彼は笑っていた。


「?」

縁は自らの刀を鞘から出すとその刃で自分の顔を見た。


そこには

紅い紅葉を頬に二つ付けている間抜けな自分の顔が映っていた。


自らの頬を叩くとき

思った以上に力を入れてしまったようである。


「ッフ」

縁はそれを見ると怒ることも忘れて笑い出した。

釣られて終も声を出して笑った。


「・・・ありがとう、終。」

一頻り笑うと縁は軽く息を吐き、終に礼を言った。


「息子として当然のことをしたまでですよ。」

終は何時もの笑顔になるとそう言った。


「それにしても、

お前があそこまで言うようになるようになるとはな。」


「あそこまで言わなければ、

本当に俺を残して死にそうな気がしましたから。」


「・・・そうか。」


終は彼女が出陣の期日を話し始めたところから

彼女から危うい気配を感じていた。


本当に言葉通りのことをしてしまいそうな、そんな雰囲気。

彼は敏感にそれを察した。


先ほどの完全に礼を失した激励は

彼女のそれを無くそうと彼が考えた結果出た言葉であった。


「とにかく、俺は母上のことを微塵も心配していませんから。

母上も俺のことを気にせず、出陣してください。」

終はそう言うとニヤッと笑った。


何時もの彼女ならこの笑顔を見て拳骨を食らわしているところだが、

縁は何故だか彼の笑顔を見て殴る気が起きなかった。


むしろ、勇気づけられているような気がした。


「ああ、分かっている。

だが、」

縁も彼と同じように笑った。


そう、このまま息子に一方的に言われて終わるのは

彼女の性が、何より彼の母親としての自分が許さなかった。


「それだけの啖呵を切ったのだ。

私に面倒事を持ちこまないと言う絶対的な自信はあるのだろうな?」


縁が放った言葉に終はまるで石化したように固まった。


「・・・善処します。」

だが何時までも固まったままでは彼女の迷惑になると考え

やや自信なさげにそう言った。


それを見ると縁はクックと含んだ笑い声を出しながらその場を去って行った。


「・・・やっぱ、母上には敵わねぇなぁ。」

彼の呟き声だけが、誰もいない廊下に響いた。



それからしばらく時間が経ち

彼は今、城内を練り歩いていた。


縁と別れた後、彼は政庁内をさらに見て回っていた。

そして全ての施設を見終わると、もう一度呂布に会おうと庭園へ向かった。

だが、彼がまた来ると分かっていたのだろうか、そこに彼女はいなかった。


その時、彼は本を持っていなかった。

と言うのも彼女と話がしたいと思ったからである。


ところが行って見れば目的の人物はそこにはいない。

探そうにも彼女が何処へ行ったかなど皆目見当がつかない。

そこで一旦彼女のことは諦めて彼は他に何をしようかと考えた。


結果、彼の母がまだ許してくれる範囲であろう城内を見て回ることにしたのである。


しかし、彼は今猛烈に困っていた。


なぜなら


「・・・ここどこだ?」


迷子になってしまったからである。


時刻は夕暮れ時、

政庁を出てから彼此一刻も彷徨っていた。


空は茜色に染まり、歩く人も彼の周囲にはいなかった。


(ボケっとして歩き回っちまったせいで

帰り道も分からんし・・参ったな、こりゃ。)

終は、そう思いながら自分のすぐ傍にある大きな影に背を預けた。


(・・・ちょっと待て。

俺は今、何に寄りかかっているんだ?)

終は自分の後ろにあるものを見た。


それは并州を囲む形で作られた城壁であった。


「これだ!!」

終は嬉々とした表情でそう叫ぶと

城壁の上へと向かう階段を駆け上った。


(高いところからなら

政庁を見つけることが出来るはず!)

そう考えたのである。


実際彼の考えは間違えてはいなかった。

城壁の上から政庁を見つけることは可能である。


もし彼が階段を昇り切って最初に見た光景が

城の中だったのなら彼はすぐさま政庁へと戻ることができただろう。



そう、中を見ていたのならば。


「!」

終は階段を上り切ると城の外の方を向いた。


先ほどまで城壁の影になっていた場所を歩いていたため、

横から射しこんで来た夕日の光に眩しさ覚え、反射的にその方向を見たのだ。


次第に目が光に慣れた彼は、改めて城の外を見た。



茜色に染まった空


その中心で煌々と光を出す夕日


そして何処までも続く赤の地平線


「・・・」

終はその光景を見て何も言わずに城壁の端へと歩いていた。


そして城壁の端につくとただ黙って夕日を見詰めた。


(・・・何でだろうな。

夕日なら何度も常山で見たって言うのに)

終は不図そう思った。


だが、そのことに気がついても

何故か彼はそこから動くことが出来なかった。


「・・・少しくらいなら、良いよな。」

そう言って城壁の凸に座った。



それからしばらく時間が経った。

夕日はほとんど沈みもはや線となっていた。


「・・流石にもう帰らないと不味いか。」

終は完全に沈みかけた夕陽から意識を外した。


同時に彼は気付いた。


彼のすぐ傍で夕日を見ていた一人の少女に


「呂布・・・」

終は自分の隣に立っている少女の名前を呟いた。


瞬間、彼のすぐ傍で少女が自分から離れた気配がした。


だが、今回は今までとは違う離れ方だった。


「・・・逃げないんだな。」

彼女の方を向き、終は静かにそう言った。


并州に到着した日を合わせた四日間、

呂布は彼に会うたびに彼から逃げていた。


彼が近づいたときに

すぐさま離れるのも逃げるための『手段』でしかなかった。


それが今回は逃げずに距離を置いただけだった。


「・・・・ぇ」


「!・・・」

彼女が微かに口を開いたことに気付き

そのことに驚きながらも黙って彼女を見た。


すると彼女は先ほどよりもはっきりと聞こえる声で言葉を放った。


「どうして・・・」

呂布は俯いたまま、終に向ってそう言った。


「・・どうしての意味に思い当たることが多すぎて

どの『どうして』に答えればいいか言ってくれないと困るんだがな。」

終は、少しだけ意地悪そうに言った。


「・・・」

呂布は若干不機嫌そうな顔をして彼を睨んだ。


彼がどれに答えれば良いか知っているのに態と自分に話そうとしないから



「・・・まあ、大した理由じゃない。」

終は城壁の凸から降りた。


「お前が面白そうだから。

ただ、それだけさ。」


彼のその言葉を聞いて呂布は口を開けて呆けた顔になった。


「付け加えて言うなら、丁原さんに頼まれたからってのもあるけど

・・やっぱ、一番の理由はこれだな。」


「・・ほんとうに・・それだけ?」

呂布は、疑うようにそう聞いた。


その呂布の問いかけに終は、

「本当にそれだけだ。」と言うと城壁の内側に向かって歩き出した。


「・・・おまえ、へん」

呂布は、自分に背を向けた彼に静かにそう言った。


「褒め言葉として取っておくよ。」

終は片手を上げながらそう言った。


そして、自分が城壁に登った本来の目的である政庁の場所探しを行った。


政庁はすぐに見つかった。

彼はその場所を記憶すると階段を降りようとした。


だが、何かを思い出したのか

階段の手前で立ち止ると、呂布の方を向いた。


「・・なに?」

呂布は怪訝そうに首を傾げた。


その様子が自分に会うたびに向けていた

不機嫌そうな顔から変わっていたことに気付き、

彼は思わず頬が緩んでしまうのを感じた。


「・・なぁに、ただ礼を言おうと思っただけさ。」

終は顔に笑みを浮かべた。


「俺と話してくれて、ありがとう。」


「・・・?」

呂布は何故彼がそんなことで礼を言うのか

理解できないと言った風に首を傾げた。


「いや、だってお前一度も俺と話し合ってくれなかったろ?」

首を傾げている呂布に、終は何故礼を言ったのか訳を話した。


「・・おまえ、うっとうしかった」

すると呂布は何故話さなかったかを話した。


(・・・面と向かって言われると傷つくな~)

「じゃあ、今はどうなんだ?」

終は、そう思いながらも彼女が今自分をどう思っているのか聞いた。


「・・・へんなやつ」

呂布は少し考えるとそう言った。


「・・ああ・・そうか。」

鬱陶しいやつと思われるよりマシだと分かっても

二度も変と呼ばれるのは終としてはかなり傷ついたようだ。


(・・嫌われて逃げられるより良いと考えよう。うん、そうしよう。)

とりあえず、終は前向きに考えることにした。


「・・・俺は今から政庁に戻るけど

呂布、お前はどうするんだ?」


「・・もうすこし・・ここにいる」

呂布はそう言うと城壁の外を見た。


夕日は沈み、空も茜色から紫色に変わっていた。


「そうかい。

じゃあ、俺は先に戻ってるよ。」

終は、呂布の背中を見ると階段を下りて行った。


「さぁて、」

暗くなった町の中を走りながら彼は呟いた。


「母上にどう言い訳しようかな?」

顔に滝のような冷や汗をかきながら。





「・・・」

終が去った後、呂布は城壁の上で先ほどの自分の行動を振り返っていた。


呂布がここで彼と出会ったのは全くの偶然だった。

彼女が城壁に登ったのはただ夕日が見たかったからである。


階段を登り、城壁の外から射しこんだ光は

今まで見た夕陽の中で一番綺麗だと彼女が思うほどだった


そして城壁の端へと歩いた。夕日を眺めるために。


その時の彼女は気付いていなかった。

自分のすぐ隣で、夕日を眺めていた存在のことを


夕日が線になった時、唐突に自分の名を呼ばれた彼女は

反射的にその声の主から距離を置いた。


その声の主は、

自分が会ってからずっと鬱陶しいと思っていた相手であった。


呂布は、すぐさま逃げようとした。

だが、実際には逃げずに彼と話していた。


何故、彼女はつい最近まで鬱陶しいと思っていた相手と話したのか。


理由は至極簡単であった。


何故執拗に自分と関わろうとするのか

それが聞きたかったからである。


そしてそれを聞いた上で

はっきりと拒絶の意思を彼に伝えようと考えていたのである。


だが、それを彼に伝えることは結局出来なかった。


なぜなら、彼の答えが

彼女にとってとても分かりやすく、

とても可笑しい答えだったからだ。


『面白そうだから』


実に単純で彼女にとって分かりやすい答えだった。


(・・ほんとうに・・へんなやつ)

呂布の終に対する感情は

『鬱陶しいやつ』から『変なやつ』に変わっていた。


「・・なまえ・・きこう」

呂布は、そう呟くと城壁から城内へ飛び降りた。



~政庁前~


「っで?

あれだけの啖呵を切っておきながら

早々に面倒事を起こすとは、随分な身分だな?」

戻って早々に終を待っていたのは、鬼の形相をした縁であった。


終は縁によってその場に正座させられていた。


「・・・」

縁のその言葉に言い返せる訳がなく終は黙っていることしか出来なかった。


「私に心配するなと言っておきながら

夕日が沈んだ頃に帰って来るとは・・・

貴様は本当に私を安心して出させる気があるのか?」


「・・申し訳ありませんでした」

終は俯くと静かに謝った。


「・・・本当に申し訳ないと思うんだったら、

もう少しその他人を心配させる行動をする癖を直せ。」

縁は呆れて果てた顔でそう言った。


「はぁ、もういい。

説教の続きは飯を食ってからだ。速く立て。」


「・・・はい」

終は、縁に言われて立ち上がった。


そして黙って縁の後ろについて行った。



縁の後ろに着き、

食堂が近くなって来る度に終はだんだんと暗い表情になっていった。


終は今、食後の罰のことを考えており

料理を食べられると言う嬉しい気分が薄れてきてしまっているのである。


(・・・)

縁は心中でため息を吐くと

食堂まで後少しと言うところで立ち止った。


「・・どうしたんですか、母上。」

終は自分に背を向けている縁に問いかけた。


コツン


すると彼女は振り返って彼の頭を軽く小突いた。


「えっ」

終は突然の縁の行動に困惑した。


彼は自分の頭を小突いた自分の母の顔を見ようと顔を上げた。


「・・お前に与える罰はこれだけだ。

後は本当に説教するだけだよ。」

縁は、彼を安心させるように優しく話すと笑顔になった。


「・・珍しいですね。

時間に厳しい母上がこんな軽い罰で済ますなんて。」


「今日はあまりお前に大きなことは言えないと思ったからな・・それに」

縁は再び終に背を向けると顔だけ彼に向けて笑った。


「辛気臭い空気出して隣で飯を食われたんじゃ、私の飯が不味くなるからな。」

そう言うとカラカラと笑って縁は食堂の中へと入って行った。


「・・・たく、本当にあの人は・・」

終は、やれやれと言った様に既に暗くなった空を見上げた。


空には、大小様々な星がそれぞれの光を放っていた。


「・・まあ、良いか。」


ああいう母上だから


俺より『強い』母上だから


俺は母上を尊敬することが出来るのだから


「・・もっとも、それが負ける理由にはならないけどな。」

終はそう言うと両手で頭を組んだ。


「さて、行くか。

飯が俺を待っている。」

そして食堂へと入って行った。




ちょっとだけ心を開いたけど

やっぱり後ひと押しが足りない・・・


と言う訳で次は、彼?、彼女?、

自分が性別どっちか分からないあの子が出る・・・と思います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ