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迷宮攻略にはサポートショップが必要です ~迷宮より古いエルフの店で、今日も新人が欲しかったものとは違うものを買っていく~  作者: 奇木 尋


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プロローグ 井戸の街の、いちばん古い店

迷宮より先に、井戸があった。

ブルンネンの古い住人たちは、そう言う。

まだこの土地に名前もなかった頃、草原の真ん中に、石を積んだ井戸がひとつだけあった。

旅人がそこで水を汲み、羊飼いがそこで羊に水を飲ませた。

やがて、井戸の近くの岩山に、小さな穴が開いた。

穴の奥には、魔物がいた。

魔物を倒すと、魔石が出た。

魔石を求めて、冒険者がやって来た。

冒険者を泊める宿ができ、宿に食べ物を売る店ができ、店で働く人の家ができた。

人々は、井戸のまわりにできたその小さな集落を、ブルンと呼んだ。

迷宮も、同じ名前で呼ばれるようになった。

ブルンの迷宮は、長いあいだ、小さな迷宮だった。

新人が腕を磨き、年寄りが小銭を稼ぐ、のんびりとした穴だった。

それが、十三年前のある年に、急に深くなりはじめた。

階段を下りても下りても、その先に新しい階が見つかった。

今では、百の階層があると言われている。

冒険者たちは国じゅうから押し寄せ、集落は街になり、街はブルンネンと呼ばれるようになった。

井戸のまわりには石畳が敷かれ、冒険者ギルドの大きな建物が建った。

けれど、古い住人たちは、もうひとつ、こんなことも言う。

井戸より先に、あの店があった、と。

ギルドの隣に、少し遠慮したように建っている、小さな店。

軒先には、釣瓶の絵の看板。

看板の文字は「アイマー」だけれど、そう呼ぶ人はほとんどいない。

みんな、ここを「マグダの店」と呼ぶ。

店主は、銀色の髪のエルフだ。

いつからそこにいるのか、誰も知らない。

年はいくつなのか、誰も知らない。

街でいちばん年を取った小人族の爺さんでさえ、「わしが洟垂れの頃から、あの顔だった」と言う。

店では、ポーションと、方眼紙と、丈夫な靴を売っている。

迷宮から出た品の鑑定もする。

困りごとがあれば、たいていのことは聞いてくれる。

値札のない品の値段は、店主が客の顔を見て決める。

店には、三毛の子猫がいる。

それから、一年ほど前から、小さな女の子がいる。

迷宮の中で倒れていたところを、店主が連れて帰ってきたのだという。

女の子は、それより前のことを、何も覚えていない。

迷宮攻略には、サポートショップが必要です。

そう言い出したのが誰なのかも、もう誰も覚えていない。

けれど、この街の冒険者は、最初の日に、たいていこの店の扉をくぐる。

そして、たいてい、欲しかったものとは違うものを買って帰る。

今朝も、井戸の釣瓶が、からから、と鳴った。

ブルンネンの一日が、始まる。


いよいよ始まりです。

執筆の原動力は、みなさまの感想/コメントです。

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