9 なにかが光っている
あれよあれよという間に、ルームシェアをする方向で話が進んでいった。そりゃそうだ。陽茉が一緒にいたいと希望して、それに対して百合さんが提案したのだから。あとは自分次第だったけど陽茉がそうしたいならやるだけだ。
まず、住まいは。
お互いの家のどちらかに引っ越すのか。
部屋の数や広さからそういうわけにはいかず、新しい家を探さなければいけない。せめて3DKくらいは欲しい。陽茉も一人部屋が欲しくなるだろうし、各々のプライベートは大事だから。あとは場所。陽茉が転校しないようにしたい。そうすると自然に二人の通勤にも影響が少ないだろう。⋯値段は応相談で。
次に、家電とか生活用品は。
今使っているものでどうにかすればいい。必要なものどころか、不要なものが出てきそうだ。
あと、周りへの説明は。
ルームシェアというよりは同棲、最終的には結婚する予定。
という形をとる事になった。実際のところは違うにしても、そうしておいた方がいいとお義母さんが強く勧めてきた。むしろそうなればいい、とも。百合さんも説明が楽になるからそれでいいそうだ。陽茉は「ゆりちゃんがお母さんに?!」とか騒いでいたが「それはまだわからない」と言っておいた。
しっかし、こういう形で誰かと一緒に生活する事になるなんてなぁ⋯。
菫と一緒の生活がああいう形で終わってしまい、陽茉との生活が始まった。少なくとも、自分から菫以外の誰かと暮らすなんて全然考えてなかったのに。⋯⋯菫が最後に残してくれた陽茉経由なんだから、こうなった原因は菫か?
そんなわけないでしょ!
そんな事を言われそうだ。⋯いや、言ってほしい。
ひとまずこれで、今回の陽茉の希望は叶えてあげられる。ただ、もし将来何かあった時に陽茉のせいで⋯とならないように気をつけないといけないな。
ー☆ー☆ー☆ー
「ふんふーん♪」
もう少しで大好きな二人と一緒に住める。そう思うと毎日が楽しくてたまらない。すごく待ち遠しい。
「陽茉ちゃん、なんか楽しそうだね?」
「うん!引越しするからね!」
「え、引越し⋯?陽茉ちゃんも?」
少し前の冬休み明け、クラスメイトが転校していった。それを思い出したのか友達の表情が少し暗くなってしまった。慌てて情報を追加する。
「私は転校しないから!」
「あ、そうなんだ。陽茉ちゃんも居なくなるのかって思ったよ」
「私だって転校は嫌だもん」
「じゃあ、どうして引っ越すの?」
「大好きな人、皆が一緒に住めるように広い家に引っ越すんだ」
「そっかぁ。おじいちゃんとおばあちゃんとか?」
「違うよ。お友達⋯かな?」
「えぇ?お友達?」
「⋯違うのかな⋯?でも、大好きな人!」
「ふーん?いつ引っ越すの?」
「わかんない。でも、お父さんはもう少しだって」
早くその日がこないかなぁ。すっごく待ち遠しい!!
ー☆ー☆ー☆ー
いろんな問題が片付くまで、一年近くかかったけどようやくその日を迎えられた。
引越し業者が朝早くからやってきて、うちの荷物を運び出していく。荷物がなくなってがらんとなった家に少しだけ寂しさを覚えたけど、新居への荷物の搬入が待っている。浸ってはいられない。
「さ、陽茉。行こうか」
「うん!」
新居では、事前に決めておいた部屋割りにしたがって荷物を運んでもらう。それが終わったあとは荷ほどきをして片付けていく。
「お父さん!百合ちゃんまだかな?!」
「そのうちくるでしょ。今日からここが百合さんの家でもあるんだから。だから陽茉も片付け手伝って。百合さんがきたら手伝ってあげられるようにね」
「あ、そうだね!」
「ふんふーん♪」
ずいぶんと楽しそうだ。もちろん、そうなるのはわかる。今までずっと待ち望んできたんだろうから。
この子にとって、皆にとっても、きっといい生活になるはず。そうであってほしい。
「⋯そろそろかな?」
時計を確認すると、事前に聞いていた時間は過ぎていた。
ピンポーン⋯
「百合ちゃん、きた?!」
陽茉の期待は空振りに終わり、百合さんの荷物だけが来たようだ。
「あれ?本人さんはまだでしたか?」
「そうですね。でも、荷物を入れるとこは決まっているので入れちゃってください」
「それでは⋯」
荷物を搬入している間にやってくるかと思いきや、終わっても百合さんが来ない。
「百合ちゃん、来ないね⋯」
「そうだね。電話してみようか」
メッセージを送信していたけど返信はきていない。気づいていないのか。
⋯⋯プップップッ⋯⋯おかけになった電話は電源が入っていないか⋯
「あれ?かからないな」
「えー??」
え、充電切れ??圏外なんてこのあたりでは⋯?
「⋯スーパーにも行きたいし、元の百合さん家に行ってみようか?」
「そうする!!」
外に出てみると救急車の音が聞こえてきた。
⋯⋯ピーポーピーポーピー⋯⋯
どこかに走り去っていったようで、徐々に音が小さくなっていく。
「なんだろうね?」
「急病とか?」
少しだけ不安を覚えたけど、自分達には関係ないはずだ。それより今は百合さんだ。
「とりあえず行こっか」
歩き始めて十数分。途中で百合さんとすれ違うこともなく、百合さん家があるマンションに到着した。相変わらずスマホには何も連絡がきていない。
ピンポーン⋯
インターホンを鳴らしてみたが応答はない。
「⋯いないのかな?」
「そうかも。もしかしたら急な仕事かもしれないし、スーパーよって帰ろうか」
「⋯⋯うん」
これまでの事を考えると、ここまで連絡がつかないのはおかしい。何かあったのかもしれない。⋯でも、その何かがなんなのか全然わからない。
もし、仕事ならスーパーによればわかると思っていたけど⋯
「え、今日は休みですよ?」
「そうですよね、失礼しました」
スーパーにもいなかった。急な仕事ではないようだ。
「ひとまず⋯帰ろうか」
「⋯⋯うん」
百合さんに会う事はなく帰宅した。新居にはやはり来ていない。
「⋯⋯どうしたのかな。⋯一緒に住むの嫌になったのかな⋯」
そう言う陽茉の顔は今にも泣き出しそうになっている。
「そんな事はないよ。百合さんも楽しそうにしていたんだから」
「⋯じゃあ、どうして?」
「⋯⋯それはわからない⋯。もう少し待ってみよう?」
「⋯⋯⋯⋯」
何か音が欲しくてつけたテレビには、見た事があるところが映っていた。
「⋯⋯⋯え?」
「⋯お父さん、これって⋯⋯」
夕方に流れる地域のニュースで、交通事故があったことを知らせていた。




