7 見たかったものを見失う
陽茉が小学生になったからといって、まだ一人で留守番はさせられない。仕事終わりに迎えに行っていたのが保育園から学童保育に変わったけど、あまり時間は変わらない。もう少し残業したり、付き合いで飲みに行ったりしたいけど、まだ当分は無理だろう。それを受け入れてくれている会社、周りの人間には感謝している。おかげで陽茉と向き合う時間が確保できている。片親だから世間一般の家庭よりは少ないだろうけど、やれることはやってあげるつもりでいる。
そう思っているのだけど、これはその範囲なんだろうか?
「気になってる人とか、誰かいい人いないの?」
菫の母親、陽茉にとっての祖母がこんなことを言い出した。ちなみに陽茉と祖父は外で遊んでいて、近くにはいない。
「ふぇっ?!⋯いい人⋯?」
どうして貴女がそんなことを?と思ってしまった。
「ほら、陽茉に母親が必要なんじゃないか⋯って思うのよ」
「いや、それは⋯⋯」
もちろん、それはわかってる。⋯ただ、それはすぐにどうこうできることではないと思っている。
「⋯菫がああなってから結構経っているわ」
「それはそうですが、まだそうでもないような気もします⋯」
「ううん。陽茉が小学生になっている。現実として、それくらいの年月は経っているのよ?」
「はい⋯」
それもわかっている。わかっているけど⋯。
「⋯日々の育児で精いっぱいでしたからね。そうだったからこそ、確かに母親は必要だと思いますよ。でも、実際に誰かってなると⋯やっぱり菫がいいわけで⋯」
「⋯そう思ってくれているのは嬉しいけど、これから生きていくのは貴方と陽茉なんだから。⋯菫はもういないのよ?」
「⋯⋯⋯⋯」
それでも⋯⋯。
「⋯⋯じゃあ、陽茉が懐いている『ゆりちゃん』って人はどうなの?」
え?百合さん?!
「⋯どうして百合さんを?」
「陽茉が嬉しそうに教えてくれたもの。『あそんだよ!』って。で、どうなの?」
「どうって言われても⋯たまたま知り合っただけで、二人は仲いいけど、俺はそこまででは⋯」
嘘ではない。特になんとも思っていないんだから。
「ふーん。でも、陽茉が懐いてはいる、と。そして多少は任せられる、と」
「それは⋯そうですね」
⋯⋯陽茉を任せられるってのは⋯⋯あれ?なんとも思ってないわけではない⋯のか⋯?
「今の環境で陽茉が懐ける大人って貴重だと思うわよ?もちろん、相手の方がどう思っているかはわからないけど⋯」
部屋の外から、トコトコと足音が聞こえてくる。陽茉だろうか。
「おばーちゃん!のどかわいたよー!」
「陽茉は元気だなぁ」
陽茉が少し疲れた様子の祖父と一緒に部屋に戻ってきた。
「はいはい。麦茶でいいかな?」
「うん!」
「おじいちゃんと何してたの?」
「かけっこ!」
「それはたいへ⋯じゃない、楽しそうだね」
「うん!いただきます!」
だされた麦茶をゴクゴクッと一気に飲み干すと、
「おじいちゃん!もういっかいいくよ!」
「えぇ?!もうかい?!」
「いーくーよっ!!」
「陽茉、もう少し休んだら?」
「だってあんまりおじいちゃんとあそべないんだもん!」
「⋯それを言われるとなぁ。わかったよ、いこうか」
「お義父さん、ありがとうございます」
陽茉と祖父がまた外に出ていった。
「元気ねぇ⋯。小さい頃の菫にそっくりだわ」
そう呟くお義母さんは、単に楽しそうだけではなく、懐かしそうな、悲しそうな、そんななんともいえない表情をしていた。
「⋯なるべく頑固にならないように気をつけますよ」
「ふふっ⋯そうね⋯」
どう育てたら頑固にならないかなんて検討もつかないけれど。
「⋯急がせるわけではないけど、これからのこと考えてみてね。私は二人が幸せになってくれればいいの。⋯あの子もそれを願っているだろうから」
「それは⋯そうですね。じゃないと、何を言われるかわかったもんじゃない⋯」
「そういうこと。⋯それに私のせいでって思わせないであげて」
「はい」
陽茉の為にやってあげられること。
そのなかには、やっぱりそういうのもあるんだろう。
そしてそれは自分にも、ひいては菫の為にもなるのかもしれない。
「おじーちゃーん!!」
外から楽しそうな陽茉の声が聞こえてくる。これを今後も維持していいかないとな。




