4 季節がめぐり、芽が出る
今日も会社帰りに保育園に迎えに行って、スーパーによって帰る。いつもと同じことだったけど⋯。
「あ!」
買い物を終えて帰ろうかと思っていたら、出入り口付近でカートを整理していた店員さんがびっくりした声をだしている。
「ん?なんだ?」
「おとーさん??」
この店員は明らかにこっちを見ているよな?何かやらかしたか?会計をしてないものをもってきたりは⋯してないよな?自分と陽茉もおかしなところはないはず。⋯となるとなんだ?⋯あ、保育園関係の人か?誰かのお母さんかな?
「あの、なにか⋯」
「⋯⋯あ!!泣いてたおねーちゃんだ!!」
「え??泣いてた⋯?」
「うん!ひまわりのとこ!!」
陽茉が言うひまわりのとこはあそこしかない。前に行った時の記憶を思い出してみると⋯⋯。
「あ!」
確かに泣いていた人だ。確か、なんとなく気まずい思いをしたんだよね。え、また気まずくなるじゃん。なんなの。
「あはは⋯。そうだね。その泣いてたのは私だね。今日はお買い物かな?」
「うん!ひまのうちはカレーなの!おねーちゃんはおみせのひとなの??」
「そう、お店の人だよ。あ、いつぞやは失礼しました」
「⋯いえいえ。あれ?こちらにはずっと?」
「今月から異動してきたんです。⋯と、戻らないと。すみません、失礼しますね。またね、ひまちゃん」
「またね!おねーちゃん!!」
店の中に戻って行くのを見て、店の外に出ると陽茉が興奮していた。
「あのおねーちゃん、きれいだったね!」
「えぇ?まぁ、そうだねぇ」
「またあえるかな?!」
「買い物に来たら会えるかもしれないね」
「じゃあ、おかいものにこないと!またあいたい!」
⋯んん?なんだ?この感じは。もともと親しい人ってわけじゃないのに。保育園のママさん方ならまだしも。
「⋯さ、早く帰ってカレー作らないとね」
「カレー!!」
考えても分からないし、多分陽茉に聞いても分からない。明日もあるんだし、とっとと帰ってやることやらないと。
ー☆ー☆ー☆ー
「ゆりちゃん!またね!」
「またね、ひまちゃん」
スーパーで再会した、あの泣いていた女性は百合さんというらしい。最寄りのスーパーである以上、何度も行っているから名前を覚えたし、挨拶をするようになった。
陽茉は百合さんの事を随分と気にしているようだ。スーパーに行くたびに一喜一憂している。接し方も、保育園の先生やママさん方とは違うように見える。具体的にどう、とは言葉にはしづらいのだが。
百合さんもなんとなく、陽茉との距離が近いようにも見える。ただのお客さんのはずだけど、子供相手だからだろうか?
「おとーさん」
「どした?」
「ひまね、ゆりちゃんとあそびたいな⋯」
「⋯⋯え??」
「おみせだと、すこししかおはなしできないんだもん⋯。もっとおはなししたいの」
え?え?え?百合さんと?
「ほ、保育園のお友達じゃなくて?」
「うん⋯」
日頃から、陽茉の希望にはできるだけ応えてあげたいと思っている。⋯思っているけど、これはどうだろう。
「⋯⋯だめ?」
そんな今にも泣きそうな顔をしながらそんな事を言われたら、ダメだなんて言えない。
「⋯お父さんはいいけど、百合さんがどうかな?今度会ったら聞いてみないとね。陽茉、ちゃんと聞けるかな?」
「きけるっ!!」
「お、おぉぅ⋯。そ、そっか⋯。でも、どうして百合さんとなの?」
「どうして?⋯⋯わかんない」
「ん、そっか。わかんないなら仕方ないね」
「しかたない!」
さっきまでの泣きそうな表情はすっかりなくなり、百合さんと話してた時みたいに楽しそうな表情に戻っていた。
⋯普通はお客さんだし、子供だし、断るよな⋯?断られたら諦めてくれるかな?でも泣いちゃうかな?⋯その時はその時だな。⋯⋯⋯そもそも、なんで遊びたいんだろ??⋯⋯⋯ま、わかんないか。
家までの帰り道、浮かんだ疑問はとりあえずあとに回す事に決めた。
ー☆ー☆ー☆ー
「え?私とですか⋯?」
いきなり陽茉からではなくて、先に話をしておこうと一人でスーパーに来ている。そして、陽茉の希望を百合さんに伝えてみたら、きょとんとした顔をされてしまった。
⋯⋯いや、そんな反応になるのはわかる。お客さんにそんな事を言われたら普通そうなるよね。子供をだしに使ってデートに誘ってきたよ、こいつ。みたいに思われないかな?
「えーと、奥様はなんて⋯?」
「あー、妻には先立たれてまして⋯」
「あ、それは失礼しました」
「いえいえ⋯」
そもそも、こういうのって会社的にアウトなんじゃないだろうか。
「⋯それなら、いいですよ」
「あー、ダメですよねぇ⋯って、いいんですか?!」
え?!いいの?!なんで?!
「あ、はい」
「こちらからのお願いですが、本当に大丈夫ですか?会社とか、お客さんですし⋯」
「んー、まぁ本当はそうなんですけどね。でも、別に報告するわけじゃないですし、もし何か言われたら前からの知り合いって言っておけば大丈夫かなと」
「はぁ⋯」
「全くの嘘ではないでしょう?」
「⋯そうと言えばそうですね」
泣いていた姿が思い出される。
「⋯それに、私もひまちゃんと遊びたいなって思ってたんです。でも、それこそお客さんですし、無理かなって思ってたのでちょうど良かったです」
「え?陽茉と?」
「はい。⋯と、そろそろ戻らないと」
「じゃあ、今度陽茉連れてきます。その時に連絡先交換できれば」
「はい。それでは」
そう言うと、百合さんは仕事に戻っていった。
「⋯とりあえず、これなら陽茉の泣き顔は見ないですむかな」
それはありがたい。
スーパーをあとにして、陽茉が待っている保育園へ向かった。




