3 落ちた種は転がっていき
見渡す限り、たくさんのひまわりが咲いている。
今日はいつかと同じように、とても暑くなりそうだ。まだ少ししか歩いてないのに、もう汗がでてきている。
「おとーさーん!はやくはやくー!」
「走ると危ないぞー」
とは言いつつも子供の走るスピードだ。すぐに追いつける。それより今日は熱中症に気をつけないといけない。
「ここ!たくさんのひまわりだね!こんなのはじめて!!」
「そうだね。たくさん咲いてるねぇ」
「せがたかいのもいっぱい!すごーい!」
普段見ることのない景色にとても興奮しているようだ。まぁ、そうなってしまうのもわかる。自分だって、ここ以外にこんなところは見たことがないんだから。
「⋯ここのひまわりがね、お母さんは大好きだったんだよ」
「⋯おかーさん?」
「うん。陽茉のお母さん。お友達はママって言ってるかな」
「おかーさん⋯⋯まま⋯⋯。あ、しゃしんのひとでしょ!おばーちゃんにきいたよ!」
「そっか⋯。ここのひまわりが陽茉の名前にもなっているんだよ」
「なまえ??」
「ひまわりのひまだよ」
「あー!ひま、ひまわり!じゃあ、ひまはあれくらいおおきくなるんだね!」
陽茉は近くの背の高いひまわりを指差している。
「そうだね。あれくらい大きくなったら、お母さんも喜ぶんじゃないかなぁ」
「おとーさんは?」
「もちろんお父さんも嬉しいよ。でも、お父さん抜かれちゃうかな」
「おとーさんよりおっきくなる!!」
そう言うやいなや、また走っていってしまった。
「あ、こらまた⋯」
⋯まぁ、いいか。
後ろを確認してこちらを急かしてくるし、勝手に見えないところに行ってしまうことはなさそうだ。
「⋯思ってたよりは大丈夫だな」
菫と何度かきた思い出の場所。来てみたらもう少し悲しくなるかと思ってたけどそこまでではなかった。もちろん悲しくないわけじゃないけど、今は⋯。
「おとーさーん!!」
「はーい、待っててよー」
「はーやーくー!!」
そう思う時間もないくらい、陽茉に集中しているからなんだろうな。
追いついたと思ったら、また走っていく。何度か繰り返したところで休憩できそうな東屋を見つけた。
「よし、陽茉。あそこまで競争しようか?」
「うん!ひま、まけないよ!」
もちろん本気で競争するつもりはない。だから、先に着いてもらって少しは休んでほしいところだ。
陽茉はこれまでと同様の走りで東屋まで走っていく。
んん、こんな暑いのに元気だなぁ。
「やった!ひまのかち!!⋯⋯あ、こんにちは!!」
おっと先客がいたようだ。ちゃんと挨拶できたのは偉いぞ。⋯って、あー、これは⋯。
「⋯⋯こんにちは」
「あれ??おねーちゃん、ないてるの?」
「⋯え?⋯あ⋯⋯」
陽茉は普通に聞いちゃったけど、初対面の大人だとこうはいかないよね。少なくとも自分なら見て見ぬふりをしていたと思う。
「ちょっと、陽茉⋯」
「おとーさん!おねーちゃんないてるよ。どうしたのかな??」
どうしたと言われても、そんなのは本人に聞かないとわからない。ただ、こんなとこで一人で泣いているなんて簡単に聞いていい内容ではないのでは⋯。
「うーん⋯陽茉ならどんな時に泣いちゃうかな?」
「どんなとき??⋯⋯うーんと⋯」
陽茉が悩んでいると、女性は少し明るい声で話しかけてきた。
「ごめんね。お姉ちゃんはね、少しだけ嫌な事があって泣いちゃったんだよ」
「いやなこと?」
「そうなんだ。でももう大丈夫だよ」
「ほんと?」
「うん。ひまわりを見てたら元気になったんだ」
「そうなの?!それならだいじょうぶだね!じゃ、おとーさん!いくよー!」
「え、ちょっと水飲んで⋯。あー、なんかすみません」
「いえいえ、こちらこそ失礼しました。⋯元気なお子さんですね」
「そうですね。あの通りです。⋯って、すみません。失礼しますね」
もう少し休んでいたかったけど、なんとなく気まずいし、ちょうどいいか。
東屋を出るとすぐに元気な声が聞こえてきた。
「おとーさーん!!はやくはやくー!!」
「はいはい。ほんと元気だなぁ。⋯⋯ここにいる陽茉を菫にも見せたかったなぁ⋯」
どうにもならない事だとわかってるけど、この場所にいる陽茉を見てるとそう思わずにいられない。
「おとーさーん??まーだー??」
「はーい、今いくよ!あ、お水飲んでまっててー!」
「わかった!」
菫、見ていてくれてるよね⋯。




