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書籍化:門番の俺、スキル【見送る】でいつの間にか国を救っていた件  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第二部 第五章

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剣士カインと託されし命の鎖 - 3

 冷たい雨が、夜の闇をより一層濃くしていた。


 マルコは防壁の上に立ち、重い槍を杖代わりにして、なんとか体を支えていた。

 ずぶ濡れの革鎧が、氷のように冷たい。

 本来なら三交代の夜番だが、度重なる補強工事で人手が足りず、マルコの班は昨晩から一睡もしていなかった。


(隊長は、少し焦りすぎている)


 マルコは、雨の向こうの暗闇を見つめながらぼんやりと考えた。

 隊長であるカイン。

 数年前、雪山で魔物に追われていたマルコたちを、オークと共に命懸けで守り抜いてくれた恩人だ。

 マルコにとって、カインは誰よりも強くて、信頼できる兄のような存在だった。


 だからこそ、最近のカインの強張った横顔を見るのが辛かった。

 マルコたちを守ろうとするあまり、カイン自身が少しずつ削り取られていくのが分かった。


 (俺たちがもっと強ければ、隊長を……)


 ふと、視界がぐらりと揺れた。

 足の感覚が消え、頭に重い鉛が入ったように首が垂れ下がる。

 限界だった。


 メキィッ!


 凄まじい木材の破砕音が、雨音を切り裂いた。

 マルコが弾かれたように顔を上げる。


「て、敵襲! 防壁が――っ」


 足元の防壁が、下から爆発したように吹き飛んだ。



 (今のは、マルコの声か?!)


 詰め所にいたカインは、図面を弾き飛ばして立ち上がった。

 音の方向は西。

 昨日、雨の中で土嚢を積ませた防壁だ。


 外へ飛び出すと、冷たい雨が顔を打った。

 西の防壁が、無残に崩落している。


 過剰な土嚢の重みと雨水が地盤を砕き、自重で壁を破壊したのだ。


 (くそ! 俺のせいだ!)


 崩落した泥の山から、巨大な影が這い上がってきた。

 四本の太い腕を持つ、上位の魔獣。


「迎え撃て! 中に入れるな!」


 カインは剣を抜き、泥を蹴って走った。


「おい! 立ち止まるな! 防御態勢を取れ!」


 だが、周囲の団員たちの反応が遅い。

 無理な徹夜作業で体力を奪われ、足が動いていないのだ。

 

 崩落のすぐそばで、マルコが泥に足を取られて転倒していた。

 魔獣が、丸太のような腕を振り上げる。


「マルコ! 避けろ!」


 カインは叫んだ。

 が、マルコは動けない。


 カイン自身も、疲労と寒さで足がひどく縺れた。

 万全を期したはずの警戒が、すべての動きを致命的に鈍らせていた。


 魔獣の腕が振り下ろされる直前。

 白銀の閃光が、雨を切り裂いてカインの横を通り抜けた。


 ガァンッ!


 重い金属音が響く。

 リアムだった。

 マルコとカインを背後で庇うように立ち、剣の腹で魔獣の凶腕を受け止めている。

 だが、二人を庇うための不完全な体勢。

 魔獣の規格外の質量がリアムの剣を押し込み、剛腕の爪がリアムの左肩から胸にかけてを深く抉った。


 鮮血が、雨に混じって飛び散る。


 リアムは表情を変えなかった。

 血を流したまま剣を滑らせ、魔獣の腕を斬り飛ばす。

 返す刀で巨体を駆け上がり、太い首を深々と薙ぎ払った。

 言葉なき絶叫を上げ、巨大な魔獣が泥の中に沈む。


 その直後、リアムが片膝を突いた。


「リアム!」


 カインは泥を這うようにして駆け寄った。

 リアムの体を支える。

 傷口からは、雨で薄められないほどの血が流れ出ていた。


 リアムは荒い息を吐きながら、血に染まった手でカインの腕を掴んだ。


「……私のことはいい、皆を」


 声は、ひどく掠れていた。


「穴を、塞いで下さい……被害が広がる前に、早く……」


そう言い残し、リアムは静かに目を閉じた。

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