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書籍化:門番の俺、スキル【見送る】でいつの間にか国を救っていた件  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第二部 第五章

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『老冒険者バルドと泥だらけの盾』 - 4

 王都の東門(ひがしもん)

 秋の深まりと共に、吹き抜ける風は一段と冷たさを増していた。

 魔王軍の侵攻は続いているが、辺境の村々を束ねる『遊撃隊(ゆうげきたい)』の活躍により、東門へ押し寄せる避難民(ひなんみん)の波は一時的な落ち着きを見せていた。


 ヨハンはいつものように門の脇に立ち、吐く息の白さに季節の移ろいを感じながら、行き交う人々を静かに見守っている。


 一台の古びた荷馬車が、王都の内側から門へと近づいてきた。

 御者台で手綱(たづな)を握っているのは、白髪交じりの初老の男だ。

 荷台には、家具や生活用品が所狭しと積まれており、その隙間に、質素な服を着た若い女性と、小さな女の子が身を寄せ合って座っている。


 男が馬車を止め、通行証を差し出した。

 ヨハンはそれを受け取り、男の顔を見た。


 顔や腕には、ひどくえぐられたような、まだ新しい無数の傷跡(きずあと)がある。

 だが、その表情は憑き物が落ちたように穏やかだった。

 数週間前、過剰な金細工(きんざいく)装飾鎧(そうしょくよろい)を着込み、悲壮な虚勢(きょせい)を張ってこの門を出ていった老冒険者、バルドだった。


「……ずいぶんと、身軽になったな」


 ヨハンが通行証に刻印を打ちながら言うと、バルドは照れくさそうに鼻の頭を掻いた。

 今の彼は、分厚い綿の平服を着ているだけだ。腰に帯びていた派手な魔法剣(まほうけん)もない。


「ああ。あの金ピカの鎧は、川の底に置いてきた。剣も、へし折れちまってな」


 バルドは、荷台に乗る娘と孫娘を振り返り、優しく目を細めた。

 娘のマリアもまた、かつて父親に向けていたであろう氷のような瞳ではなく、ただの不器用な父親を見る、温かい視線を彼に返していた。


「王都の家を引き払って、娘たちの村に引っ越すことにしたんだ。家が焼けちまったから、俺が新しいのを建て直さなきゃならねえ」

「そうか」

「俺はもう、『双牙のバルド』なんて大層な冒険者じゃない。ただの、娘と孫を持つ一人の爺さんだ」


 バルドはヨハンに向き直り、深く頭を下げた。


「あの時、あんたがかけてくれた祈りのおかげで、俺は一番大事なもんに気づけた。……あんたには、感謝してもしきれねえよ」

「俺は、何もしていない」


 ヨハンは木札を返し、微かに微笑んだ。


「いい顔になったな。……気をつけて行け」

「ああ。世話になったな、門番の旦那」


 バルドは手綱を振るい、荷馬車がゆっくりと動き出す。

 その瞬間だった。


《ピーン! スキル【見送る者】のレベルが64に上がりました》

《新たな能力『見送った者が誰かを庇う時、その姿勢がほんの少しだけ崩れにくくなる』を【獲得】しました》


 澄んだ鈴の音のようなシステム音が、ヨハンの脳裏に響いた。

 ヨハンは、小さく瞬きをした。

 彼が獲得し、昇華した新たな『理』は、目の前を通り過ぎていく男が、己の醜い見栄を脱ぎ捨てて手に入れた、魂の真実そのものだった。


 ヨハンは、荷馬車が土煙を上げて遠ざかっていくのを見送った。

 かつての栄光も名声もない。だが、あの曲がった背中は、もう見栄や虚勢で押し潰されることはないだろう。

 ただの不器用な父親としての、新しく、静かな旅立ちだった。


 風が吹き抜け、ヨハンの白髪を揺らした。

 今日もまた、何人もの人間がこの門を通り、それぞれの場所へ向かっていく。

 いつもと変わらない、門番としての日常が続いていく。

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― 新着の感想 ―
お久しぶりです。さて老人は家族と絆を取り戻すことができたそうですね。心温まる物語をありがとうございます。
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