なんでも屋の2人
俺は自転車で息を切らしてマップの目的地に着いた。雑居ビルの最上階にポップな字体で『なんでも屋』と書かれている。もう一度息を大きく吸い込み4階まで駆け上がると、該当するドアを細かく叩いた。
「すみません!依頼があります!!」
けれども一向に返事は返ってこない。そういえば営業時間なども書いていないし、日曜日だし、もしかして定休日だったり…。考えなしである俺はここまでの労力を無駄にしたくなかったためか、さらに声を張り上げて、拳でドアをたたき続けた。
「すみません!!ごめんください!!すみません!!」
ここまで来たらもう一心不乱だ。そんなふうにドアと対戦していると、ゆっくりとドアが開いた。
「お前…ドア壊れるだろ、少しは加減しろ。」
ゆらーりとドアから顔を出したのは銀髪の男だ。声がガラガラで寝癖がところどころ付いていた。
「すみません!朝早く!定休日でしたら誠に、誠に申し訳ないのですが、ぜひとも俺の家を見てほしいんです。自分たちでリフォームしたんですけれど、多分ちょっと間違えてて、今すぐに窓をかえなきゃで、あ、あと電球も変えてほしくて、、いやすみません、こちらの事情ではあるんですけど、彼女が家から出ていってしまって、今すぐにやらないと彼女が戻って来てくれるか怪しいんで、あ、でも安心してください。賃貸ではありますが、前の時にいつでもリフォームはしてくれていいと大家さんには確認を取ってますから…」
「……うるさいな、長ったらしい。まったくよく分からない。」
男はまとまりのない俺の話を途中で遮った。マシンガントークに肩で息をしている俺を横目に見た彼は、
「…一度上がれ、俺は接客担当じゃない。」
といって背を向けた。
「はい!ありがとうございます!すみません!失礼します!」
俺は玄関に素早く入り込んで靴を脱ぎ、ピタリと男の後ろについた。
「…すみませんって、絶対思ってないだろ。」
男は何かぼやいたが、健多の耳には届かなかった。
案内されたのは探偵事務所のような部屋だった。加湿器と天井のプロペラの音が響く落ち着いた空間だ。初めての場に周りを見渡していると、コーヒーの匂いと共にもう一人男が向かいの扉から出てきた。
「やあやあ、おはよう!今回は俺らに依頼ってことでいいのかな?」
男は爽やかでどこかチャラい茶髪だった。銀髪の男とは真逆の、フレンドリーな笑顔で場の空気がやわらかくなる。
「はい!出来れば今すぐ…えっと、窓のリフォームと、電球の交換など…。」
「はいはいオーケー!そうすると今すぐにでも君の家に出向きたいんだけどいいかな?」
「あ!はい!ありがとうございます!」
これは速く終わりそうなのでは!?俺がチャラ男に期待と希望を気持ちを向けているとチャラ男はケラケラと笑いながら俺の腹あたりを指さした。
「君も急いできたんだね。そんなパツパツのレギンスの下に腹巻きを着てくるんだからさ(笑)」
ギョッとして腹あたりを触ると、俺の愛用腹巻きの膨らみがあった…。道理でへそ下が温かいと思った。
「は、恥ずかしい…。」
「あはは!そんなの気にしないよ〜!ほら、玄人ちゃんなんて見て、寝癖も何も直さないんだからさぁ〜」
チャラ男は銀髪の男を指さして大笑いだ。部屋の端に背もたれていた彼から、覇気が出ているに気にもせず…。
「さあさあ、時間は有限だよ!早く出発しちゃいましょう!!よー!!」
軽快なノリで玄関を出て、俺はなんでも屋の車に乗ることになる。なかなか高そうな車でちょっと乗るのに躊躇したが、
「奥の席、前ジュースこぼしちゃってるから手前でよろしく〜」
とチャラ男から言われて、迷いの気持ちなく座れた。
「え、君の家隣の町じゃん!自転車で30分!ひゃー、大変だったね!」
助手席に乗ったチャラ男がこちらを向いて眉を下げた。
「全然混んでないルート知ってたのでもっと短くなるんですよ」
「通な感じか!すげぇー!」
チャラ男はやはりノリが軽い。運転席の銀髪男とは相対的なキャラである。
「いちおう仕事相手にはじこしょーかいを!俺は明石優維、25歳でーす☆」
俺は驚愕した。お、俺よりも4つも年上なのか…。
「ほら玄人ちゃんも!」
チャラ男…明石さんが運転席の銀髪男をひじでつつく。
「……青柳玄人。19。」
俺はさらに驚いた。コイツは年下なのかよっ。
「玄人ちゃん相変わらず態度悪ーい!!良ければ、おにーさんのお名前教えてほしいな〜。」
「俺は日比野健多です。あっ、年齢は21です。」
「あらっ!おにいさんもっと若いかと思った!高校出たばっかに見えるよ〜」
童顔〜とキャッキャしてる明石さんは俺と同い年かそれより下の年齢に見えてしまう。…本当にびっくりだ。すると、明石さんが思い出したように「あっ」っと声を出し手を合わせた。
「そうそう、今回リフォームにどうしてなんでも屋を選んでくれたのかな?値段もそこそこなわけだけど〜」
「そうですね、うーんと…。普通のリフォーム屋だと融通というか、要望が通りにくいかな〜みたいな……」
寝起きの頭で近くの漫画から思いついたなんて言えないっすよ…。
「あっはは!そっかそっか〜、まあ俺ら専門知識はないからさ、ネットとか見ながらやらせてもらいますよ〜」
「窓周りやってもらえれば全然大丈夫です!ありがとうございます!」
俺は緊張が解けてか、ふぅ…とため息をついた。それに気づいたのか明石さんは俺をバックミラー越しに見る
「ほんとに、すごい急いだよね〜。そんなに急いでどうしたの??」
「いやぁ、家の設備?的なものが原因だと思うんですけど俺の彼女が幽霊が出るからここには居られない!って怒って出てっちゃったんですよ〜。幽霊とかはあり得ないと思うんですけどね〜〜〜」
すると数秒沈黙が続いた。あれ…なんかまずいこと言ったかな。明石さんがなにかしらリアクション取ってくれるかなって思ったんだけどな、、、
「…まあ、とりあえず家に行ってみないとね!法定速度で急ごう玄人!!」




