置いてけぼりな俺
俺の家までのドライブ中はほとんど明石さんが話を回し続けていた。途中、急に途切れてからも変わりなく話し続けていたので、幽霊系の返答に困ったんだということにして車を降りる。
「……わぁ!すごいね!一軒家じゃん!!」
「そうなんですよ!しかも、めっちゃ安くて!中心部なのに月2万で借りれたんですよ!管理費も大家さん負担で…!」
そう、この家はとてつもなく安い!大家さんも優しい人で、毎週野菜やら色々くれるし…本当に最高の物件だ。
明石さんは変わらずにこやかにいるが、なぜか青柳玄人は表情を険しくしていた。そしてさっきからちらちら目が合う。い、いや、やましいことは決してないけれども、目がとても怖いから俺からすぐにそらす。
「そ、それじゃあどうぞ上がってください」
ちょっとした気まずさを紛らわすように俺は案内する。
「おじゃましまーす!」
明石は見かけのチャラさによらず律儀に靴を揃え、持参していたスリッパを履いた。明石は青柳にもスリッパを渡した後に
「ここは築何年の家なのかな?」
と聞いてきた。
「えーっと、新しかったと思いますよ。10年くらいじゃないかな。」
「へぇー、10年ねぇ〜」
明石は青柳と一瞬目を合わすと、
「じゃあ2階から行くね〜」
と言い、階段を上がっていく。青柳も後ろをついていくが、急に後ろを振り返り、俺に話しかけた。
「お前、この家に何年住んでる?」
「えっ?まだ、半年くらいですけど…」
「この家で何か起こらなかったか?」
「つい先刻彼女が家からいなくなったこと以外は何も…」
「そういうことじゃない、もっとこう…不可解なものだ。」
「ええ??」
青柳は絶えず質問をしてくる。な、なんなのだろうか…安全面に問題があったのか??
そんなことをしていると突然、家全体が揺れだした。
「な、なんだ!?地震か!?」
俺と青柳はあまりの揺れに体勢を崩す。
「チッ、先走りすぎだっ」
青柳は意味の分からないことを言い残し、2階へ向かった。
「ちょ、ちょっと!危ないって!!」
俺は自分の家で人が怪我するのとかは嫌なので、渋々階段を上がった。
2階につき、右手を向くと衝撃的なものが目に飛び込んだ。明石がうつぶせになって倒れていたのだ。
「え!?明石さん!?大丈夫ですか?!」
俺は明石に声をかけ、駆け寄ろうとするが、
「だめだ!近づくんじゃない!!」
青柳が大声を出し、俺は足を止めた。
「どうしてですか?!明石さんが危ないじゃないです?!」
「アイツは大丈夫だ!だからお前は下に…」
青柳が何か言おうとしたその時、ダンッと大きな音がして、目の前にいたはずの青柳は左の俺の部屋の壁に叩きつけられていた。
…一体、何が起こっているんだ?!
青柳はなんで飛んでいった?揺れのせいか??でも今さっきは揺れてなかったよな??俺の中ではてなが増産されていく…。いや、まず先にするべきことは…
「大丈夫ですか?!明石さん!意識があるなら返事してください!」
俺は明石を上向きにして体を揺すった。すると明石がゆっくりと目を開けた。
「……へぇ、すごい。本当に効果を受けてないや…、まだ仮説だったけど…」
明石さんはぽつぽつと意味不明なことを言い出した。
「何言ってるんですか!?あなたは倒れていたんですよ!!」
「ああ…、そりゃあ喧嘩をふっかけたからねぇ…怒られて当然…、あ。そう…、お願いがあるんだけど…」
明石さん…頭を打ったか?会話が妙にかみ合わない…。見かけ以上にまずい状況なのかも…。てか、お願いって、遺言とか言いませんよね??
「ちょっとなら聞けます…、ただ明石さん、本当に本当に大丈夫ですか??」
「だいじょうぶだよ〜、じゃあ、玄人をここまで連れてきてほしいんだ。その時に、君が玄人に覆いかぶさる…みたいなのでお願いしたいんだ…」
お、覆いかぶさる??よくわからないが、とりあえず青柳くんをここまで連れてくるだけでいいってことですね!?
「わかりました、明石さん!安静に、横たわっててください!」
俺は15歩ほど走りあっという間に壁にもたれかかっている青柳の前に到着。
「玄人くん、玄人くん!」
とりあえず揺さぶってみたが目は開かない……。
「もうっ…、運べばいいんでしょう?!運べば!!」
もうてんやわんやな俺は青柳を両手で胸に引き寄せるようなへんてこな担ぎ方をして明石のいるところまで向かう。
「ぐっ、結構重い…、変な筋肉使ってる感じ…」
けれども、大学でスポーツサークルに入った俺は、日々ちゃんと鍛えている。
あまり苦労はせずに運び出すことが出来た。
明石は俺の到着に気づくと、
「玄人ちゃん…!0と−4だよっ…!」
苦しげによくわからないことを伝えた。すると、今の今まで気を失っていただろう青柳が目を覚まし、ブツブツと何かを言いながら何もない空間に全力で走り込む。
「…ッ!消却!!」
そして突然声を張り上げ、手を突き伸ばした。
その直後、黒板を引っ掻くような音が響き渡る。窓ガラスは割れていき、壁に飾っていたタペストリー達も無残に散っていく。
「うるさっ…!」
俺は一人耳を塞ぐ、けれども2人はなにかやり遂げたような顔をして、グータッチなんかもしていた。もう…ほんとに、なんなんだよっ…。
しばらくすると、音が鳴り止み、家がシンと静まり返った。俺はゆっくりと耳から手を離す。
「やー!!ほんとにすごかったよ!!名前健多くんだったよね!マジですごい!!」
いつの間にか元気いっぱいになっている明石は俺の背中をバンバンと叩きながら飛び跳ねている。玄人もなぜか先ほどの状態から回復して、壁に寄りかかって腕を組みながらこちらの様子を見ている。
「明石さん…あのね……」
「??どしたの?健多くん」
……俺は髪の毛が逆立つほど怒っていた。意味もわからずこの数十分、しかも何の説明もない……!!だが、俺が一番怒っているのは…!!
「ッこのタペストリー!!抽選販売のレア物だったんですよ!!どうしてくれるんですかこんな……ッ!」
なぜかビリビリと引き裂かれ、切手サイズまで小さくなったタペストリーだったものを震える手でかき集める…。俺は、これにバイトの初給料を使っていて、思い出の品でもあったのだ。
「あああごめんねほんとにっ!しょうがなかったとはいえ大切なものがビリビリになっちゃったもんね…。俺、同じ商品探して弁償するから!!」
いや、もう無理だろ、限定50個、しかも今は定価の何十倍にも価格がはね上がっている。俺は拳を握りしめた…。
気まずそうにオロオロする明石はゆっくりと1度目を閉じ、やがて場を仕切るように声を出した。
「まあ、今見てわかったように、俺らは目に見えないものと戦える力をもってる…霊能力者なんだよね。」
「………どういうことですか…」
「まあ、その話は…この事件が終わってからにしよう!」
俺はあからさまにムッとした顔をした。後回しにすることがあるか、俺の家がこんな悲惨であるのに…。明石は困った笑いをしながら、ちゃんと説明するからと俺をなだめ、
「じゃあ、健多くん。大家さんをここに呼んで。」




