07. 勝利の祝賀会
後から確認に入った兵によると、魔物の巣窟は相当悲惨な戦闘があったことが確かめられたという。
いちおう兵から防御壁を張る魔道具を持たされていたのだが、魔物の攻撃にあっけなく割られたらしい。
骨を折られ体中を貫かれ、のたうちまわりながらアニが攻撃を続けていた痕跡があった。
最後は浄化魔法を爆発させて魔物もアニの体も文字通り吹き飛び、周囲は炎上して、巣窟の外まで耐えがたいほどの熱気と臭気が広がっていたという。
魔物もアニも焼死体になっていて、触れればポロポロ崩れ落ちる有様だった。
アニはかろうじて頭蓋骨のかけらだけ戻ってきた。
ほとんど真っ黒な灰になっていたという。
商店の裏には、私が手塩にかけている小さな庭がある。
服飾デザイナーたちからアドバイスをもらいながら作った庭なので、「天国にいるようだ」とお客様からも非常に好評だ。
朝露に濡れた色とりどりの花を、私は植木ばさみで刈り取っていった。
折しも春で、庭は花ざかりだ。
アニが好きなピンクを中心に選んで、可愛らしい花束を作る。
素人が育てた素朴な花だが、その分両手に抱えなければならないほど大きくした。
私の庭は天国の花壇だから、この花を供えればアニは間違いなく天国に行く。
私は裏口から商店の自室に戻り、花束をたらいの水につけると、作業着を喪服に着替え、黒いベールを装着した。
今日の昼に行われる祝賀会に、何の因果か私も招待されている。
アニが頑張ったお祝いなので、行ってみることにした。
歴史的にも、功績を残して自ら戦死した者は、聖人として王都の神殿に祀られる伝統がある。祝賀会では遺骨がどの神殿に送られるか発表されるだろうから、私は祝賀会に行った足でそのまま神殿に向かうつもりだ。
喪服と供物を持った姿は勝利の宴で浮くだろうが、私は取り巻きだったのだから自然だろう。
***
祝賀会の会場は、窓から差し込む眩しい昼光で輝いて見えた。
人々は春らしい明るい色の衣装を着て、安心しきったように談笑する。
中央には美しい王太子殿下と、麗しい公爵令嬢が立っている。
衣装から直感したが、この祝賀会は結婚式の日取りを発表する場を兼ねているらしい。
さざめいていた笑い声が急に止んだ。
兵士が小さな箱を捧げるように持ってきた。
王太子殿下は、手渡された白い箱を無遠慮に開いた。
豪奢な手袋で、黒く煤けた塊を取り出す。
公爵令嬢は眉を下げた。
「死なせるしかなかったのかしら。かわいそうだわ」
そのたおやかな声は、やたらと会場に響いた。
王太子殿下はいかめしい顔をして公爵令嬢に向き直る。
「君の優しいところは美点だが、彼女は君を貶めて、国家を乗っ取ろうとした。この混乱した時勢において、貴族は清廉な存在であらねばならない。犯罪者は毅然とした態度で処するべきだ」
王太子殿下は黒い骨を床に落とすと、靴のかかとで踏みつけた。
さくさくとやたら軽やかで気持ち悪い音が鳴る。
私はもう耳をふさいでしまいたかった。
「ここにいる皆も、覚えておくように。決して犯罪者に慈悲を施してはならない。真似をする者が現れては、また世間が危険にさらされる」
王太子殿下は大仰に手を払ってみせる。
「アニは墓地には入れない。骨は広場で晒しものにする。彼女を聖人扱いした者は処罰するから、その旨を覚えておくように」
私が中央に歩みを進めるごとに、聴衆は波が引くように道を開けた。
色とりどりの集団が足音も立てずに脇にそれていく様子は、いっそ壮観である。
私が前に立つと、公爵令嬢が一歩退いた。
王太子殿下が庇うように前に出る。
「あんたは知っているはずよ。アニにとってあんたがどれだけ支えだったか、あんたのことがどれだけ好きだったか」
知っているのに、見ないふりをしている。
見ないふりさえしていれば、自分たちが清らかでいられるとでも思っているのだ。
そのお綺麗な顔が、豪華な衣服が、今はどれだけ汚らしく見えることか。
王太子殿下は側にいた従者にささやいた。
「誰だ?」
「聖女の取り巻きです」
ああ、憶えていないんだ。
私は少し驚いた。
そりゃあそうか。
あの時教室に入ったのは、アニに関わっていたのは、アニに恥をかかせるためだけだったんだから。
「無礼だぞ。こちらは話せとは一言も言ってない」
「私が無礼? あんたたちが傲慢なんでしょう?」
私は乾いた笑いを上げた。
震える声が会場中に響き渡る。
響け、響け、もっと響け。
誰も見ないふりなんてできないくらいに響け。
「当然みたいに殺して、お墓にも入れないで、徹底的に貶めさせて。あんたたちはアニがもう永遠に救われないって思っているんでしょう」
きらびやかな祝賀会の中央で、花束を持った喪服の女が王太子に食って掛かる。
聴衆が見る私の姿を想像すると、派手すぎて面白い。
私は声を張り上げる。
「お生憎様。あんたたちが何をしたって、アニの尊厳は決して失われたりなんかしないわ。そして尊厳が残る限り、救済は起こるの。あんたたちはそんなことも知らないのよ」
王太子殿下は柳眉をひそめた。
一幅の絵画のように見えた。
「君はアニの味方をするのか?」
「するわけないでしょう!?」
私はほとんど絶叫した。
「私だってアニのことなんか嫌いよ。我儘で色ボケで、自分勝手で、頭の悪い夢みがちな女。嫌いよ、大嫌いよ!」
私は天国の花束を床に叩きつけた。
「それで、あんたたちのことは一生軽蔑しているのよ!」




