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悪人専門の令嬢弁護士と嘘を嗅ぐ犬 〜冤罪で泣く弱者を拾い、法で悪党を追い詰めます〜  作者: 月神世一


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EP 6

修羅の寸止めと、完璧なる証拠

雨上がりの冷たい風が、深夜の銀座の裏路地を吹き抜けていた。

『鬼龍』で温かい粥を腹に入れた健太は、リベラの後ろを歩きながら、久しぶりに「明日も生きてみよう」という微かな希望を感じていた。

事務所の入るレトロな洋館が見えてきた、その時だった。

「おーおー。随分と余裕じゃねえか、5000万の横領犯さんよぉ」

暗がりから、下品な嘲笑が響いた。

路地の前後から、黒いパーカーやスカジャンを着た屈強な男たちが数人、ゆっくりと姿を現した。彼らの手には、鈍く光る鉄パイプやメリケンサックが握られている。

いわゆる、半グレと呼ばれる裏社会のゴロツキたちだった。

「ひっ……!」

健太は顔面を蒼白にして後ずさった。

男の一人が、ニヤニヤと笑いながら健太を指差す。

「郷田の社長から頼まれてな。お前が余計なことペラペラ喋らないように、ちょっとばかり『教育』してやれってよ。安心しろ、殺しはしねえ。指を三、四本砕いて、二度とキーボード叩けなくしてやるだけだ」

「ご、郷田社長が……?」

(俺を犯人に仕立て上げただけじゃなく、暴力で口封じまで……!)

健太が絶望で足の震えを止められずにいた、その瞬間だった。

――カチッ……。

背後の暗闇から、金属製のライターを弾く、澄んだ音が響いた。

「……子供を脅すだけの安仕事を請け負うとはな。最近の不良は随分と志が低い」

「あぁん? 誰だてめえ!」

闇の中から現れたのは、先ほどまで小料理屋のカウンターにいた大男――鬼神龍魔呂だった。彼はマルボロを咥え、静かに紫煙を吐き出している。

その眼は、完全に「殺し」のスイッチが入っていた。

「龍魔呂さん……どうして……?」

健太が驚くのも無理はない。龍魔呂は、健太たちを見送った後、わざわざ裏道を通って先回りし、護衛についていたのだ。彼の修羅の嗅覚が、この事態を正確に予見していた。

「三秒だ。三秒で全員の首の骨をへし折ってやる」

龍魔呂が、恐るべき殺気を放ちながら一歩踏み出そうとした。半グレたちはその異様な空気に呑まれ、本能的な恐怖で顔を引き攣らせる。

だが。

「待ちなさい、龍魔呂」

凛とした冷たい声が、その場を制圧した。

桜田リベラだ。彼女はハンドバッグを小脇に抱え、ヒールを鳴らして龍魔呂の前にスッと立ち塞がった。

「リベラ、退け。こいつらはカタギじゃねえ。生かしておけば必ずこのガキを……」

「退くのはあなたよ。私の大事な『証拠品』を、壊さないで頂戴」

リベラは冷たく言い放つと、ハンドバッグの中から黒い棒状のものを取り出した。特殊警棒だ。そしてもう片方の手には、すでに赤いランプが点滅している小型のボイスレコーダーが握られていた。

「な、なんだこのアマ……弁護士のくせに舐めやがって!」

半グレの一人が激昂し、鉄パイプを振り上げてリベラに襲いかかった。

「危ないっ!」

健太が叫ぶ。だが、リベラは表情一つ変えなかった。

振り下ろされた鉄パイプの軌道を、淑女の嗜みとして極めた合気道の滑らかな体捌きでふわりと躱す。そして、がら空きになった男の脇腹に、特殊警棒の先端を躊躇なく押し当てた。

バチバチバチッ!!

「ぎゃああああっ!!」

高圧電流を放つスタンガン内蔵の特殊警棒。男は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

「なっ……!?」

「て、てめえ……逃がさねえぞ!!」

残りの男たちがパニックに陥り、一人は逃げようと背を向け、一人はナイフを取り出して突進しようとした。

だが、逃走経路の先には、いつの間にか巨大な影が立ちはだかっていた。

『グルゥゥゥゥ……』

黄金の瞳を光らせ、鋭い牙を剥き出しにしたアモンだ。

男は「ヒッ!」と悲鳴を上げ、腰から砕け落ちた。

一方、ナイフを持ってリベラに突進しようとした男。

彼が刃を突き出そうとした瞬間――龍魔呂が神速で横に立ち、その手首をふわりと掴んだ。

「……っ!?」

「動くな。骨が粉々になるぞ」

龍魔呂は全く力を入れているように見えないが、男は手首を万力で締め上げられたかのような激痛に、ナイフをポロリと落とした。

「殺すか、リベラ?」

「ダメよ。現行犯で警察に突き出すの」

リベラはレコーダーを高々と掲げ、冷ややかな笑みを浮かべた。

「今の会話、バッチリ録音させてもらったわ。郷田社長から依頼された口封じ。脅迫および強要未遂。凶器準備集合罪。……素晴らしいわ。これで、あのクソ社長が裏社会と繋がっているという、動かぬ証拠が手に入った」

半グレたちは、もはや反撃の意志すら失い、地面で呻いているか、アモンに睨まれて震えているしかなかった。

「暴力で解決するのは簡単よ、龍魔呂。でも、それじゃあこの子の無実は証明されない。本当の絶望ってのはね、法廷という白日の下に引きずり出して、逃げ道をすべて塞いでから社会的に息の根を止めることよ」

リベラは金煙管を取り出し、ふうっと息を吐いた。

その姿は、夜の闇の中で誰よりも恐ろしく、そして誰よりも頼もしく見えた。

健太は、目の前で起きた一方的な制圧劇に呆然としながらも、ようやく理解した。

この令嬢弁護士は、ただの法律家ではない。

悪党を裁くためなら、暴力のプロすらもコントロールし、自ら修羅場に立ってでも証拠を毟り取る、正真正銘の「怪物」なのだと。

「さあ、警察を呼ぶわよ。明日からはもっと忙しくなるわ」

リベラの号令のもと、反逆の狼煙がはっきりと上がった夜だった。

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