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悪人専門の令嬢弁護士と嘘を嗅ぐ犬 〜冤罪で泣く弱者を拾い、法で悪党を追い詰めます〜  作者: 月神世一


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EP 7

公益通報と、崩れる嘘の城

半グレたちを警察に引き渡した翌日の午後。

桜田法律事務所の応接室には、ひどく落ち着かない様子の初老の男が座っていた。

グロース・フロンティア社、経理部長の木下である。

「……桜田弁護士。私をこんな所に呼び出して、一体何の話ですか? 高橋くんの件なら、すでに警察で話した通りです。彼が私のパスワードを盗み……」

「木下部長。紅茶が冷めますよ」

リベラは優雅にティーカップを傾け、木下の言葉を冷たく遮った。

木下はビクッと肩を震わせ、隣に控えている健太を恨めしそうに睨んだ。健太は緊張で拳を握りしめているが、昨夜のような絶望の表情はもうない。

『……凄まじい腐臭だな。保身と嘘に塗れた、哀れな小悪党の匂いだ』

ソファの足元で伏せていたアモンが、鼻をヒクつかせて低く唸る。

健太の頭の中に響くその声は、木下が今、とてつもない恐怖と罪悪感を必死に隠していることを告げていた。

「単刀直入に聞きます。郷田社長から、いくら貰いましたか?」

「なっ……!? 失礼な! 私は何も……っ」

「あるいは」と、リベラは身を乗り出した。「何を『脅されて』いますか?」

木下の顔から、サッと血の気が引いた。

「ご存知の通り、高橋さんは当事務所が代理人として保護しています。そして昨夜、彼のもとに郷田社長が差し向けた『半グレ』の襲撃がありました」

リベラがデスクの上にICレコーダーを置き、再生ボタンを押す。

『郷田の社長から頼まれてな。お前が余計なことペラペラ喋らないように……』

『指を三、四本砕いて、二度とキーボード叩けなくしてやるだけだ』

録音された生々しい暴力の言葉に、木下はガタガタと震え出した。

「こ、これは……」

「現行犯で警察に引き渡しました。郷田社長への捜査の手が伸びるのも時間の問題です」

リベラは冷酷な事実を突きつける。

「木下部長。郷田社長は、自分の手を汚さずに他人をゴミ箱として使い捨てる天才です。高橋さんというゴミ箱が使えなくなった今、次の身代わりは……『パスワードの管理責任』を問える、あなたではないですか?」

「あ……あぁ……っ」

木下は両手で顔を覆った。

アモンの言う通りだった。彼は悪人になりきれない、ただの弱い人間だ。会社の裏金作りに薄々感づきながらも、クビになることや報復を恐れて、言われるがまま健太に罪をなすりつけたのだ。

「木下さん……」

健太がたまらず声をかける。自分を裏切った憎き上司のはずなのに、その震える背中を見ていると、昨日までの自分と重なって見えたのだ。

「あなたには今、二つの道があります」

リベラは引き出しから、分厚い書類の束を取り出した。

「一つ目。このまま郷田社長を庇い続け、偽証罪と横領の『共犯』として、彼と共に実刑判決を受け、社会的にも完全に破滅する道」

木下がビクッと体を跳ねさせる。

「そして二つ目。今ここで真実を話し、私と結託して郷田社長の不正を告発する道。……もしこちらを選ぶなら、私はあなたを『公益通報者保護法』の盾で徹底的にお守りします」

「こ、公益通報者……?」

「ええ。企業の不正を内部告発した人間を、解雇や減給などの不利益な扱いから守る法律です。もちろん、あなた自身の隠蔽への加担は無傷とはいきませんが……少なくとも、実刑を免れ、家族を路頭に迷わせる最悪の事態は私が法廷で防いでみせます」

札束で頬を叩くのではない。暴力で脅すのでもない。

圧倒的な法的根拠と、退路を断つ理詰め。そして最後に差し伸べられる、唯一の「救済の糸」。

「……っ……う、うぅぅ……!」

木下はついに堪えきれず、テーブルに突っ伏して号泣し始めた。

「すみません……っ、高橋くん、本当にすまなかった……! 全部、社長の指示だったんだ。君のIDを使えと命令された……私が、私の弱さが……っ!」

懺悔の言葉と共に、木下の口からは郷田社長の裏帳簿の存在や、不正な資金操作の具体的な手口が次々とこぼれ落ちた。

リベラはそれを冷徹に、しかし決して彼を貶めることなく、一つ一つ正確に記録していく。

健太は、目の前で展開される光景に鳥肌が立っていた。

暴力を使わずとも、人はここまで丸裸にされ、そして「正しい道」へと引き戻されるのか。

『……ふん。悪臭が消え、涙のしょっぱい匂いだけになったな。どうやら、これで全て真実のようだ』

アモンが満足そうに鼻を鳴らす。

「証言、確かにいただきました」

リベラはペンを置き、冷めきった紅茶を一口飲んだ。

「さあ、これで敵の陣地は内部から崩れました。次は……あの社長の完璧な『アリバイ』と『証拠』を、根本から叩き壊す番ね」

リベラの瞳の奥で、法廷という名の処刑場へ向かう修羅の炎が、静かに、そして激しく燃え上がっていた。

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