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悪人専門の令嬢弁護士と嘘を嗅ぐ犬 〜冤罪で泣く弱者を拾い、法で悪党を追い詰めます〜  作者: 月神世一


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EP 8

国家のノイズと、揺るがぬ物証

『有機農業(笑)の大嘘! 大貫農園、カドミウム基準値40倍の恐怖』

『村八分は妥当。自分の土地を高く売るために周囲を汚染したサイコパス爺』

『痴呆症のふりをして逃げる気か? 即刻逮捕しろ』

スマートフォンの画面をスクロールするたびに、おぞましい悪意のテキストが滝のように流れていく。

桜田法律事務所の大型モニターには、大貫源三に対する凄まじいネットバッシングのデータが可視化されて映し出されていた。

「……えげつねえな。開始からわずか数時間で、トレンド1位から3位までを大貫の爺さんのバッシングで独占か」

義正が口の中で飴玉を転がしながら、渋い顔でキーボードを叩く。

「これはただの炎上じゃねえ。複数の海外サーバーを経由した数万のアカウントが、秒間数百件のペースで自動生成のデマ記事を拡散させてる。……完全に軍事レベルの世論操作サイオプだ」

「内閣情報調査室……狗飼潤の仕業ですね」

輝夜が、痛ましそうに目を伏せた。

「赤山天人にとって、大帝国建設の不正が暴かれることは、自分のリゾート利権が潰れることを意味します。だから、国家の防衛機関を使ってまで、一人の無力な農夫を社会的に抹殺しにきた」

プルルルルル……!

その時、事務所の電話がけたたましく鳴った。

スピーカーフォンに切り替えると、電話の向こうから、泣き崩れるような大貫のしゃがれ声が響いた。

『さ、桜田先生……っ! テレビでも、ネットでも、俺が嘘つきの悪人だって……! 村の連中も家に石を投げてきて……もう、もう俺は……っ!』

「大貫さん。落ち着いて深呼吸しなさい」

リベラは、かつてないほど優しく、しかし確固たる声で応じた。

「今すぐテレビのコンセントを抜きなさい。スマホの電源も切るの。それは全て、あなたを絶望させて訴えを取り下げさせるための『作られた幻覚』よ。真に受ける必要は一ミリもないわ」

『でも……日本中が、俺を犯罪者だと……っ』

「日本中が敵に回ろうと関係ない。私が、あなたの無実を証明するわ。……あなたはただ、ご家族と身を寄せ合って、温かいお茶でも飲んでいなさい」

電話を切ると、リベラの纏う空気が、一瞬にして絶対零度の修羅のものへと変貌した。

「……随分と舐められたものね。世論という砂上の楼閣で、法廷の真実を押しつぶせると思っているなんて」

『フン。見えない敵に怯えるなど馬鹿げている。俺の鼻には、奴らの焦りと恐怖の悪臭が手に取るように分かるぞ』

アモンが立ち上がり、バシッと前足で床を叩いた。

「ええ。どれだけ外でノイズを撒き散らそうと、法廷で叩きつける『物証』の前では何の価値もないわ。……義正、例の『ホテル・グランシャリオ』の裏付けは取れた?」

リベラの問いに、義正はニヤリと悪魔的な笑みを浮かべた。

「当然だ。霞が関の姫様からお墨付き(権限)をもらってるからな。ホテルのメインサーバーにバックドアを仕掛けて、事件当夜の『地下VIP専用口』と『スイートルーム707号室』前の防犯カメラ映像を引っこ抜いたぜ」

モニターの画面が切り替わり、粗いモノクロの映像が再生される。

そこに映っていたのは、作業着姿で怯えきった大貫源三が、大帝国建設の鮫島常務ら数名の男に両脇を抱えられ、無理やり部屋に引きずり込まれる姿だった。

そして一時間後、絶望した表情でフラフラと部屋から出てくる大貫の姿も、バッチリと記録されていた。

「完璧ね。……アモンが同意書から嗅ぎ取った『バニラとベルガモットの匂い』と、このスイートの利用記録。義正がハッキングした裏金での決済履歴。そしてこの映像」

リベラは金煙管を手に取り、ふうっ、と息を吐き出した。

「これだけ揃えば、同意書が強迫によって書かれたものであることは100パーセント立証できる。……問題は、奴らが法廷でどう出てくるかよ」

輝夜が、静かな声で推測を口にする。

「今の異常なメディア工作を見る限り、大帝国建設側は『大貫さんが認知症を発症しており、自分のついた嘘と現実の区別がついていない』という主張で来るはずです。彼らは、あの同意書も『大貫さんが自発的に書いたものだ』と言い張るでしょう」

「上等じゃない。奴らが大貫さんを『ボケた嘘つき』に仕立て上げれば上げるほど……真実を突きつけられた時の落差ダメージは大きくなるわ」

リベラはデスクの引き出しから、新しい真っ白な手袋を取り出し、ゆっくりとはめた。

「明日が第1回口頭弁論よ。……国家権力とゼネコンが束になって作り上げた嘘の城を、正面からぶち壊して差し上げますわ」

リベラと算盤(義正)、嗅覚アモンと光(輝夜)。

最強の布陣が整った。

泥だらけの真実を取り戻すため、修羅の令嬢は再び、決戦の法廷へと足を踏み入れる。

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