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6話 来《ライ》

「落ち着けよお前ら──」


外ではユータが集まる村人達を少しニヤつきながら諭していた

アイリスは気にせず剣を研いでいる


その横顔は黙々と刃を研ぐ、その手つきは淀みなく、外の騒ぎなど耳に入っていないかのようだった


砥石の上を滑る刀身が朝日を弾き、細い光の筋がフレイヤの家の中を横切った

勇者と共に戦った剣は見た目こそ古びているが、刃に触れた瞬間に空気の質が変わるような鋭さがある


フレイヤは興味深そうに眉を細める


「その剣、見た事ないような形してるね、なんて言うの?」


確かにその刀身は一般的な両方に刃がついてるタイプと違い一方だけが鋭さを持っていた


「ん、あぁこれね…確か、カタナって名前だったかな、何番目の降臨者か忘れたけど技術を持ち込んだ人がいてその人から昔の私は貰ったらしい、で、元仲間から『持ってる武器は全部重要だから大事に使ってね』って言われてね、どうやって使うのかわからないけど定期的にこうやって研いでる」


「ふーん、カタナね、あんた、それ研ぎ終わったらどうすんの、また外ぶらつく?

……それとも、あたしと一緒に川まで行く?橋の修繕がまだ途中なんだけど、人手が足りなくてさ」


何気ない誘いだった、だがフレイヤにしてみれば、それは村の中でアイリスが堂々と歩ける数少ない場所を提供するという意味でもある

川沿いなら人目も少ないから


フレイヤはナイフの柄を削る手を止めず、付け足すように


「別に手伝わなくてもいいよ、座って見てるだけでも

あたし一人でやるよりはマシかなって程度の話」


修繕か、それに外も歩きたいしね


「じゃあ手伝おうかな」


フレイヤは口元だけで笑って


「助かるよ、橋板が三枚イカれててさ、流木が引っかかって折れたっぽいんだけど」


二人がフレイヤの家を出たのは朝露がまだ草の葉に残っている頃合いだった


村の中を通る道は避けて、裏手の獣道から川へ向かったのは、フレイヤなりの配慮かな、嬉しいね


川に着くと、石造りの古い橋が半ばから崩れかけていた

板を繋ぐ縄は腐り、残った橋脚に苔が厚く這っている

かつてアイリスも渡った橋だ

もっとも、その頃はまだ板も新しく、欄干に花を巻きつけた村の娘たちが祭りの度に行き来していたものだが


フレイヤは荷を降ろし、替えの板と釘を並べながら


「あたしが板を仮で渡すから、あんたは向こう側で押さえてくれる?

川の水量は今の時期なら大したことないけど、増水したら一発で流されるような代物でさ

根本から作り直すか迷ってんだけど、材木がねぇ」


川面は朝日を受けて綺麗に光る

たまに魚が跳ねて、水飛沫が小さく散る

対岸には木が一本、枝を川に垂らしている


いくら成長スキルを持っててもやっぱり木くらいのものになると難しいのかな

ここは使った方が早いか〜


「爆破の魔法」


その言葉と同時にアイリスの構えた指から閃光が走り、橋を破壊する


板を抱えたまま凍りつく


「は?」


閃光が川面を走り抜けた瞬間、橋は抵抗する間もなく砕け散った

腐った板も橋桁も区別なく、木片と石塊が水柱を上げながら川底へ沈んでいく

水飛沫がフレイヤとアイリスをを濡らし、仮置きしていた板材が流木と一緒に下流へくるくると回転しながら消えていった


あ……流れちゃったけど……まぁいいか、あとで回収すればいいしね


呑気な顔をしているアイリスとは逆に、フレイヤは髪から水を滴らせたまま、口をぱくぱくと動かしている

怒鳴りたいのに言葉の順番が追いつかないらしい


「ちょ、ちょっと待っ——あんた今、何した?橋!橋壊した!?あたしらの橋!!」


替え板の残骸が流されていくのをフレイヤは見送るしかなかった


「仮の板まで全部持ってかれたんだけど!? あれ一枚作るのにどんだけかかると思って——」


そこまで叫んで、ふと気づいたように声のトーンが落ちる


「……なんで壊したの」


川は何事もなかったかのように流れ続けている


あ、結構戸惑ってる、早く直さないとね……


ライ


その言葉が空を駆けると、アイリスの指からまたしても、でも少し違う優しい閃光が走る


流された木材や石が浮かび、空中でそれぞれが形を変える、表面の見た目や形が変わっていく

そして建材としてちょうどいい、作られた時のような見た目になる


やっぱこれ結構力いるんだよな〜〜よし、よいしょっと


指をすこし動かして浮いた建材を移動させて

若がらせた建材を元の橋の配置に戻す


フレイヤは濡れた前髪の向こうで、目を丸くしたまま瞬きを忘れていた


川底から引き剥がされるように浮き上がった木片が空中で静止し、淡い光に包まれた後、

腐り落ちた縄が編み直され、裂けた板が繊維の一本から再生していく光景は、時間の巻き戻しそのものだった


石が元あった場所に吸い寄せられ、木材が組み合わさり、釘すら打たれる前の姿に戻ってから最後にぴたりと嵌まる

息を吐く間もないほどの短い時間で、川の真ん中には頑丈な石橋が蘇っていた

苔も腐食もなく、まるで昨日完成したばかりのように


しばらくフレイヤは橋とアイリスの間で視線を往復させ、それから両膝に手をついた


「……先にぶっ壊す必要あった?

最初からそれやりゃ済んだ話じゃないの、ねえ?」


確かにそうだね、そう思っても仕方ない


「この魔法使う時は対象を全体とじゃなくて個体として見た方が疲れないんだよね、だから、まぁ……仕方ないって感じ?かな」


フレイヤは呆れと安堵がごちゃ混ぜになった溜息が漏れる

それから、新しく架かった橋を恐る恐る踏んでみた


「頑丈だね、これ前より全然いい。

……でもあたしの板と釘、全部川に流されたんだけど

弁償してよね、世界最強さん」


勇者が発した光は暖かく自然に溶けていった



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