少年、ポーション作りに腐心す①
「ありがとうございます、このご恩は一生忘れません」
「いや、気にしないで欲しい。お役に立てて何よりだ」
ぺこぺこと頭を下げる中年女性に、自分たちで作ったポーションを手渡したライラは照れくさそうに足早に彼女の家を後にした。家の中から子供の笑い声と、先ほどの女性の泣く声が聞こえる。
「ふう、これで貰った分はすべて配ったな。一旦ポーションを取りに戻るか」
ライラは汗を拭った。疲れは感じるが、心は晴れやかだ。
大聖堂から帰った翌日、学園内にある一室に集まったのはラルカ、ライラ、ゴンゾ、クリスティーナである。
「じゃあまずはぁ、ケヒト草から葉っぱだけを取りますぅ、茎や根っこは入れないようにしてくださいぃ」
クリスティーナの指示の下、全員で作業に取り掛かる。しばらく作業を続け、全てのケヒト草から葉とそれ以外を分離した。
「じゃあ、洗いますねぇ」
水の精霊ウンディーネを顕現させ、空中に巨大な水球を作り上げる。その中に葉を放り込むと、水球の中で水が流動し、綺麗に洗浄された葉が出てきた。水球が消えると、汚れだけが床へと落ちた。
「次にぃ、葉を三日天日干しするんですがぁ」
「ここは僕に任せて」
ケヒト草の葉を持ってラルカが窓から外に出ると、葉を板の上に広げ、時の略奪で時間を早送りにした。あっという間に葉が乾燥する。
「これぐらいでいい?」
「じゅ、十分ですぅ。では続いてぇ、乾燥した葉を粉砕しますぅ。なるべく細かくしてくださいねぇ」
全員で手分けして乳鉢で葉を擦る。すべて終えるのには時間がかかりそうだ。
「それにしても厄介な病気だな。治癒魔法がほぼ効かねえなんて」
死眼病は治癒魔法への耐性が非常に強く、かなり高位の聖魔法使いでも効果が薄い。ラルカの母エリステルなら話は別だが。
「ラルカ、お前でも無理なのか?」
「できなくなないけど、たぶん僕のすべてのマナを使っても、三人が限度だと思う」
「そんなにか。じゃあ治癒魔法で治すのは現実的じゃないな」
「いったいぃ、なんででしょうねぇ」
ラルカは黙っていたが、答えはわかっていた。死眼病は通常の疫病とは違い、疫神ゼアがもたらした病だからである。冥府の神官であるゼアは時折現世へと顕現し、疫病をもたらす。五神官と同等の力を持つ神官ではあるが、意志のようなものを持っているかも、実体があるかも不明である。ラルカは冥府にて他の神官からゼアについて聞いたことがあった。彼(性別があるかは不明だが)がもたらす疫病は魔法ではほぼ効果がないことも。ただそれを言ったところで対処法が変わるわけではなく、話す意味が無いため、ラルカはこのことを誰にも言っていなかった。
「それにしてもいいんだべか、勝手にポーションなんか作って。教会ににらまれたら厄介だべ」
「昨日確認しただろ、少なくとも法律上は問題ないって。文句言われる筋合いなんかないさ」
「だといいけんどな」
ゴンゾのつぶやきに、ラルカが顔を下げた。
「・・・みんな、もし教会の人になんか言われたら、僕にやらされたって言ってね」
その言葉に全員が手を止め、ラルカを見た。
「だ、だめですよぅ、そんなこと。みんなでやろうって昨日きめたんですからぁ」
「そうだ、お前が全責任を負う必要はない。やる以上一蓮托生だ」
「まあな。お前だけにいいかっこさせねえだよ」
ラルカの顔が曇ったことを察知したゴンゾが、わざと明るい声を出した。
「みんな・・・」
「それにぃ、私うれしいんですよぅ。昔からポーションを作るのが夢だったんですからぁ、感謝したいくらいですよぅ」
「うん、ありがとう」
笑いが広がった。話しているうちに、葉はすべて粉末状になっていた。
「さて、後はカレンとジュリアン君が帰ってくるのを待つだけだね」
ちょうどその時、ドアが開く音がした。
「ただいまにゃ!!」
「遅くなりました、我が君」
「お、ちょうどいいところに。どう、どのくらいあった?」
「今はこれだけだにゃ」
カレンとジュリアンが薬瓶の入った箱を机の上に置いた。カレンは王都から、ジュリアンは他の都市から買ってきたものだった。
「お、これだけあれば十分だね。お金は間に合った?」
「店にある在庫全部買ったけど、全然余ってるにゃ。あの鎌結構いい金額になったにゃ」
カレンとジュリアンはラルカから預かったカイザーマンティスの鎌とコアを売却し、その金で薬瓶を購入したが、まだ余裕がかなりありそうだ。
「じゃあ後は、クリスとウンディーネに任せよう」
「は、はいっ!」
クリスティーナが再びウンディーネを顕現する。先ほどと同様空中に巨大な水球を出し、ラルカたちはその中に薬瓶を放り込んだ。しばらく水球の中でもまれた薬瓶は、机の上に吐き出され、汚れがきれいに落ちていた。薬瓶からとれた汚れはすべて分離され、床に落ちた。
「おお!」
「じゃあ次は、粉末を入れるよ」
続いて水球の中に粉末状にしたケヒト草を入れる。
「本当はここで沸騰させて、半刻したらろ過する必要があるんだけど、ウンディーネならそんな時間かからないよ」
「は、はいぃ、ウンディーネちゃん、おねがいしますぅ」
ウンディーネがほほ笑む。水球にマナが込められると、粉末が水の中で攪拌され、粉末が溶解されていき、しばらくすると溶け切らない不純物が排出された。そして残った水溶液が勝手に薬瓶の中に入っていく。
「おお、これで完成か?」
「本当はこれで終わりだけど、より効果的にするために、最後は僕とクリスで聖魔法をかけるよ。僕は左からやるから、クリスは右からお願い」
「はいっ!」
クリスティーナらしからぬはっきりとした返事をした。
――――聖杯よ、灼熱へ輝き、救済者足らぬ者にも救済をあたえよ
「聖杯に注がれし万能薬ぁ」
ラルカとクリスティーナは手分けして、それぞれ聖魔法をかける。他の四人は完成した薬瓶にふたを閉めていった。
「すげえな、中級魔法の薬効付与でも十分だってのに、上級魔法とはな。これ、ただのキュアポーションじゃねえんじゃねえべか」
「ゴンゾ殿の言う通りだ。込められているマナの質も量も通常のポーションとは比べ物にならない。さらに水質にいたっては言葉通り別物だ。キュアポーションを超え、ハイキュアポーションと言っても過言ではないな。いや、さらに回復魔法も込められているのだ。ハイキュアホーリーポーションとでもいうべきか」
「すごいのか?」
「我が思うに、この薬瓶一つで、仮に販売するなら少なくとも20ユリウス(二百万円ぐらい)はするのではないか」
「にっ」
思わずゴンゾが薬瓶を落としそうになる。ライラも持つ手が思わず震えた。
「しかし、崇高なる我が君は海よりも深き慈悲で、愚かな民衆に無償で与えるというのだ。ああ、なんとすばらしいことか!我はこの偉業を、叙事詩としてまとめ上げ・・・」
「ジュリアン君、手が止まってるよ」
ラルカの注意に慌てて作業に戻るジュリアンに、みんな笑った。
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