少年、薬草集めに奔走す⑤
王都の内壁の中央に、大広場がある。まっすぐ北に行くと王城へとつながっている。その大広場の北東側にあるのが大聖堂だ。ルクスカーナ王国の聖輪教の総本山にあたる。大聖堂はすべて真っ白な大理石でできており、その豪華さは王城にも引けを取らない。
「お、おい、本当に行くのか」
「うん、話を聞いてみようと思って」
「話し、聞いてくれるかにゃ」
「どうせ無理だべ。教会の連中はオイラたち亜人のこと見下してるからな」
「ま、聞くだけならただだよ」
ラルカが大聖堂の扉に手をかける。きしむような音がして開く。中は外観よりさらに豪華な作りだった。窓はすべてステンドグラスになっており、天井には聖人サミエと思われる絵が描かれている。ライラたちが驚いていると、奥から一人の若いシスターがやってきた。
「このようなお時間に、どのような御用ですか」
シスターはラルカたちを見渡す。カレンたちを見ても特に変わった反応はしなかった。
「大司教様とお話がしたいです」
ラルカの言葉に、シスターだけでなくライラたちも驚いた。
「お、おい、いきなり何を言い出すんだ!」
「そ、そうですよぅ、大司教様はこの国で一番偉い聖職者様ですよぅ。簡単に会えるわけないですぅ」
「なんで?聖職者に偉いも偉くないもないよ。それに聖職者の役割は、人々の話を聞いて、悩みを解決してあげることだよ。人々が相談をしたら、誰でも聞いてあげなきゃだめなはずだよ」
シスターは困ったような笑みを浮かべた。
「ねえ、お嬢ちゃん、わたしじゃあだめかな?」
「僕は男の子ー!」
ラルカがぷんすかする。
「ご、ごめんなさい、ボク、おねえちゃんがお話を聞いてあげるけど、それでいいかな?」
「うんとね、聞きたいのは流行り病に対する教会の対策方針についてなの。だから大司教様か、もしくは司祭様にお話を聞きたいな」
その言葉にシスターの顔が陰った。彼女自身も何か思うことがあったのだろう、だが自身でもどうすることもできないもどかしさが見えた。
「ねえ、だめ?」
「何を騒いでいるのだ」
奥からしわがれた老人の声が聞こえた。
「あ、神父様」
「どうしたのだ、このような時間に」
神父と呼ばれた老人はラルカたちを見渡すと、露骨に顔をしかめた。特にカレンに対しては憎しみさえ込めているような視線を送っている。
「なぜ獣人を入れたのだ。汚らわしい」
「も、申し訳ありません」
シスターは謝罪したが、顔には納得できない表情を浮かべている。
「あなたが司祭様?」
「いかにも」
偉そうに答える。
「そうなんだ。司祭様、今日は寄付を持ってきました。お納めください」
ラルカはケヒト草が入った袋を司祭の前で広げてみせた。
「おお、これは!」
「す、すごい・・・」
司祭もシスターも驚いた。先ほどまでと目の色が変わっている。司祭とシスターではその色に違いはあるが。
「これはこれは、殊勝な心掛けですな。それではありがたく頂戴するとしよう」
司祭が手を伸ばすと、ラルカはさっと袋をひっこめた。
「?」
「その前に、聞きたいことがあります。キュアポーションを販売するつもりって言うのは、本当ですか」
司祭の顔から笑みが消えた。
「それでは貧民は救われません。なぜでしょうか」
「子供が、余計なことを考えるでない」
「ケヒト草を寄付するものとして聞く権利があると思います」
「全ては神の思し召しだ」
「神託があったとのことですか。神託をお聞きになったのは誰でしょう」
「ぬぐぐ・・・」
「いま、民は疫病の恐怖と戦っています。死眼病は病の進行こそ遅いものの、放っておくと死に至る恐ろしい病気です。この時こそ、慈悲を見せるべきではないですか」
(子供のくせに)
司祭は怒りから顔を真っ赤にしている。が、ふうと息を吐くと、軽薄な笑みを浮かべた。
「よいか、神は善行を行う者には慈悲を与え、悪しき者には罰を与えるのだ。富があるものは、善行を行ったからこそ富を得たのだ。貧しきものは悪行を積んだから貧しいのだ。だからこそ、薬も善人が救われるようにしているまでのことよ」
その言葉を聞いてシスターは恥じるように目を伏せた。ライラたちは憎しみの視線を神父へ向けている。と、ラルカは大きく息を吐いた。
「ダメだこの人。全然聖輪教を理解してないや。何言っても無駄だから帰ろう」
ケヒト草の入った袋をもって帰ろうとする。
「ま、まて、それは寄付するのではないのか?」
「やっぱりやめるよ。寄付は強制じゃないでしょ?」
「そ、それほどのケヒト草を持っておきながら寄付しないとは、ば、罰が当たるぞ」
「あれ、さっきおじさん、善行を行うものが富を得るって言ってなかったっけ。じゃあ僕たちが善行を行ったってことじゃないの?」
「へ、へらず口を・・・」
ラルカはすたすたと扉へ歩き出した。慌ててライラたちも続く。
「このような悪行を重ねて、冥府へ落ちるぞ」
「とっくに冥府には行ってきたよ」
扉が閉じる前に聞こえた捨て台詞に返答したラルカは、ケヒト草を童子の宝物庫へ放り込んだ。
「お、おい、それどうするんだ。あいつらが腹が立つのはその通りだが、キュアポーションを作ってもらわないと困るだろ」
「そうですねぇ。悔しいですけどぉ、わたし達がお金を稼いで、皆さんの分まで買うしかないのではぁ?」
「いや、フロイラン・クリスティーナ。恐らくその方法だと足元を見られ、相当高額へ吊り上げられる。結果正当に買おうとする民衆も買えなくなる可能性が高い」
「じゃ、じゃあ、どうするにゃ?」
ラルカは無言のまま、腕を組んで考えている。
「ねえ、この国の法律って、ポーションの卸しと販売は教会が行うってことだよね」
「?それがどうかしたのか?」
「じゃあ、ポーションの製造は?それも教会の独占?」
「え、ええと、どうだったかな」
「製造に関しては規定はございません。ただ、販売にあたり教会の検分と許可が必要なはずです」
「そっか、じゃあ売らなきゃいいんだね」
ラルカが何か思いついたようだ。クリスティーナにくるりと振り返る。
「お願いクリス、協力してくれない?」
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