少年、薬草集めに奔走す②
ジュリアン以外の四人が二次元の隠し部屋に入り、ラルカとジュリアンの二人が空を飛んで死の大地にやってきた。王都からはヴァンパイアの村と反対方向になるが、距離はだいぶ近い。国境を超えると少しの間は荒野だったが、徐々に木々も見えてきた。
「やっぱり。死の大地って言っても生態系がある以上、植物はあると思ったんだ。ジュリアン君のおかげだね、ありがとう」
「もったいないことでございます」
蝙蝠の姿のまま答えた。現在四人は二次元の隠し部屋の中である。今は実質ラルカと二人きりのジュリアンは天にも昇る気持ちだった。
「ね、そろそろ降りてみよっか。緑も多くなってきたし、探してみようよ」
「はっ」
二人が地面に効果すると、二次元の隠し部屋から四人を出した。
「ふう、やっとついただか」
「ごめん、ちょっと狭かったかな」
「大丈夫にゃ。それにしてもあの部屋すごいにゃ。ほんとの宿屋みたいだにゃ」
「あれだったらぁ、どこでも野営できますねぇ」
二次元の隠し部屋初体験の三人は口々に感想を言い合う。
「ここが死の大地か。案外普通だな」
ライラが見渡す。木々が生い茂っており、討伐訓練の森とさほど変わらないようにも見える。
「上空から見た限り、このあたりには強い魔物いないよ。じゃあ、さっそく探してみよう」
「おー!」
五人がこぶしを突き上げた。
「すごいですねぇ、まだ一刻時(2時間)ぐらいなのにぃ、もうこんなに集まりましたよぅ」
全員で手分けして集めたケヒト草は、今日の午前中に集めた量とは比べ物にならない。少なく見積もっても百倍ぐらいはある。
「まさか、こんなにたくさんあるとはな。あんなに苦労していたのが嘘のようだ」
「こんだけありゃ、いっぱい薬作れるべ。よかっただよ」
「魔物も出てこないし、死の大地って言っても全部が危険なわけじゃにゃいんだにゃ」
皆少し浮かれている。無理もない、イーズの森でほとんど見つからなかった薬草が大量に手に入ったのだから。
「いかがいたしましょう我が君、一度王都へ戻りましょうか。そろそろ日が暮れますゆえ」
一人冷静なジュリアンがラルカに進言する。
「うん、そうだね。ヒショウ先生に持っていこう。きっと喜ぶよ」
ラルカが笑顔でケヒト草を仕舞おうとしたとき、ラルカが死の大地に来てから常時展開していた魔眼の視手で探知したものがあった。
「あれ?」
「どういたしました?」
「あの人たちも来てたんだ」
「あの人たち?」
「うん、ダイガンさんたち」
その言葉に、全員緊張が走った。
「だ、だ、だ、ダイガン!?な、なんであいつがこげなとこに?」
「お、落ち着け、ゴンゾ。別に我らは何もしていないだろう、たとえ見つかったとしても、気にすることはない」
「あ、大丈夫。向こうは気付いていないから。でも、一旦話してみようよ」
「な、なんでにゃ」
「ちょっと気になることあるし」
「よう坊や、また会ったな。先日はナツメが世話になったらしいじゃねえか」
ダイガンがすごむと、ラルカとジュリアン以外の四人に緊張が走った。座った態勢でもその迫力は段違いだ。ダイガン以外にもナツメ、スタルク、リキッドにゲルと、狂戦士の栄誉のメンバーが勢ぞろいしている。
「お、おいお前、ライラなんだってな。ナツメに聞いたぞ。すっかり大きくなって、見違えたぜ」
ライラを見つけたスタルクが話しかけると、ライラが頭を下げた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
「はは、子供がそんな気を使うんじゃねえよ。しかしよかった、あんなに悲しい目をした子供がこんなに立派になったんだな、心配してたんだがもう大丈夫そうだな、よかったよかった」
本当に心配だったのだろう、笑いながら目じりに涙を浮かべるスタルクに、ライラは少し笑みを浮かべた。
「てめえは黙ってろ。ところでこんなとこで、何してやがるんだ。子供は帰って寝る時間だぜ」
「ケヒト草を集めてたの」
その言葉にダイガンの眉がピクリと動いた。
「おじさん達は何してたの」
「坊やと同じだ」
ダイガンが顎で示した先に、ケヒト草の束がある。ラルカたちとほぼ同じ量だ。ライラたちは少し意外な目でダイガンを見た。
「何だその目は」
が、ダイガンがにらむとすぐに視線を下げた。
「そっか、そう言えば、ヒショウ先生から聞いたんだけど、おじさんたちケヒト草を集めるのに協力してくれてるんだってね。ありがとう」
ラルカがぺこりと頭を下げる。
「坊やに礼を言われる筋合いはねえ。俺たちゃ義勇士だ、ギルドに協力ぐらいするさ。それに、ガキや貧乏人どもが病気で死なれたら寝つきが悪くなるからな」
ダイガンの言葉に、再びライラたちが意外な目をする。
「ち、余計なこと話しちまったぜ。お前らはとっとと帰れ。もう日が暮れるぜ」
「ダイガンさん、我々もそろそろ拠点に戻りましょう。天気も崩れるかもしれません」
いつの間にか黒い雨雲が空を覆っていた。今にも降ってきそうな気配だ。リキッドの声にダイガンが立ち上がる。
「ああ、だが薬草採取だけじゃ体がなまるからな。あれを倒してからにしようや」
その言葉に狂戦士の栄誉のメンバーが瞬時に戦闘態勢をとる。ナツメが探知を発動した。
「な、何か来るにゃ?」
「あ、大丈夫。確かに魔物がこっちに向かってきてるけど、まだ距離は遠いから時間はあるよ。僕たちは帰ろう」
「待ちな坊や」
「?」
元来た道を引き返そうとしたラルカが振り返る。
「一匹は俺が仕留める。もう一匹はお前が仕留めてみろ。素材はくれてやる」
「いいの?」
「ああ、二言はねえ」
「うん、じゃあお言葉に甘えて。ごめんみんな、ちょっと待っててね」
ラルカがダイガンの隣に立った。それと同時にダイガン以外の狂戦士の栄誉のメンバーが下がり、魔物の到着を待つ。しばらくすると、大きな足音が聞こえてきて、ライラたちにもその姿が確認できた。
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