少年、新しい仲間を紹介する②
「これで全員だな。いや、皆なかなかにお強い。その年齢で大したものだ」
ジュリアンが拍手をしている。彼のその行動は嫌味でも嘲りでもなく、本当に感心しているのだが、ライラたちには屈辱以外の何物でもなかった。ジュリアンの影で作られた武器の前に全員全く歯が立たない。仮に四人がかりでも同様の結果になっただろう。みんな言葉にはしないが、悔しさをにじませている。ただ一人、ライラだけは悔しさの中に、強い意志を秘めた目をしていた。
「ラルカ、ジュリアン」
「なあに?」
「何だね」
「わたしの弱点、そしてその解決方法を教えてほしい」
その言葉に、ラルカとジュリアンが顔を見合わせる。
「・・・ライラは入学した時よりずっと強くなってるよ。今の調子で修業を積めば、無理をしなくても強くなれるよ」
ラルカの言葉にライラはふっと笑みを浮かべ、ラルカの頬を撫でた。
「お前は優しいな、ラルカ。だが、それでは遅いんだ。ナツメを見て思った。ナツメが楽に倒したフロストクイーンに、わたしは手も足も出なかった」
その言葉にゴンゾたちが下を向いた。三人それぞれに、あのときの戦いには罪悪感を感じていた。
「今のわたしでは、ラルカの手助けをするどころか、足手まといにしかなっていない」
そんなことはない、とラルカが言おうとしたが、ライラがそれを制した。
「そんな自分が、わたしは許せないんだ。ラルカの隣に立つ資格を持ちたい。ジュリアン、お前のようにな」
ジュリアンは黙っている。表情も変わっていない。
「頼む。どんなに辛い訓練でもいい。どんなに危険でもかまわない。わたしは何をしたらいい?教えてくれ」
全員、ライラの目には強い覚悟が宿っていることを感じた。それに触発されたのか、クリスティーナも立ち上がった。
「わ、私もぅ、お願いしますぅ」
「クリス?」
「わ、私ぃ、フロストクイーンとライラさんが戦ってた時ぃ、何にも役に立てなかったんですぅ。ライラさんが傷ついてもぅ、怖くて足がすくんじゃってぇ」
そのことを思い出したのだろう、僅かに震えている。
「もうあんなこと、いやなんですぅ、私もぅ、強くなりたいんですぅ」
「クリス・・・」
「か、カレンだってそうだにゃ!」
カレンも声を張り上げた。
「あのとき、カレンこそ何も役に立たなかったにゃ。そもそもあんな目にあったのはカレンのせいだにゃ。カレンだって、もう足手まといになるのは嫌なんだにゃ!」
「・・・素晴らしい」
その言葉と同時に拍手を始めたジュリアンは、今度こそ心底感心したようだった。
「素晴らしいぞ、皆々方。それでこそ我が君の側に立つものにふさわしい」
「こんな弱いわたし達でもか」
ジュリアンが首を振る。
「強さなど一つの尺度にすぎぬ。我が評価したのはその気高さだ。気高さこそ魂の輝きだ。貴公らにはそれがある」
「では、教えてくれるのか」
「全力で協力しよう、フロイラン・ライラ」
「ふ、フロっ!?」
「無論、フロイラン・クリスティーナ、フロイラン・カレンにもだ。貴公らの想い、我が受け止める。その気高き心、そしてその器量、我が君の愛妾として十分ふさわしい」
「あっ」
その言葉に三人が絶句し、顔が真っ赤になってしまった。
「あいしょう?」
ラルカは意味が分かっていないようで、ぽかんとしていた。
「フロイラン・クリスティーナ、貴公については簡単だ。結界を覚えればよい。それだけだ」
頬にライラに付けられた手形と、グリメルからもらったたんこぶがあるジュリアンは初めにクリスティーナへの指導をすることにした。この中でクリスティーナが最も弱点が顕著で、かつその克服が明確であるためだ。
「け、結界ですかぁ?」
「左様。貴公、と言うより魔法使いが戦場で戦士などの補助を受けずに戦うのであれば必須だ。我も戦闘時は常時結界を張っている。先ほどもな」
「で、でもぅ、そうは見えませんでしたけどぅ」
クリスティーナはジュリアンとの試合を思い出した。特に結界を張っているようには見えなかった。
「そうだな、貴公は結界は使えるか?」
「た、試したことはないですぅ、術式は知ってますけどぅ」
ジュリアンが試してみよ、と言うので、クリスが結界魔法を唱える。
――大いなるマナよ、彼の者と我を別ち給え
「不可侵の楯ぅ」
クリスティーナの周囲に球状の結界が張られる。
「ふむ、初めてにしては上出来だな。遠距離からの攻撃であれば十分だろう。だが、これではこちらからの魔法攻撃時に解除が必要になる。そもそも、不意の攻撃には耐えられんし、近接戦闘時には役に立たん」
そう言うとジュリアンが同様に結界を張った。
「結界にはその規模によって種類がある。知っておるか」
「は、はいぃ、個人用結界、小規模結界、大規模結界ですぅ」
「左様。今我らが張っているのが個人用結界だな。他には複数人数を守るための小規模結界が実戦で使用される。だが、双方とも遠距離からの攻撃に対する防御や、一時しのぎの時間稼ぎには有効だが、単独での戦闘には向かん」
因みに大規模結界は建物や街全体を守るための結界で、基本的には魔導兵器によって張られる。
「じゃ、じゃあ、どうすればいいんですかぁ」
「こうすればよい」
ジュリアンが個人用結界を解除した。一見すると何もないように見える。
「?」
「よくマナを感じてみよ」
クリスティーナが注視してみる。すると、ジュリアンの肌や衣服にうっすらとマナが張られているのが見えた。
「あ!」
「これが零距離結界、形而上の鎧だ。実力ある魔法使いは常時これを発動している」
「そそそ、そんな高度な魔法、私にできっこないですよぅ」
結界魔法は他の魔法とは独自の系統になっており、初級や上級と言った分類はない。単純に規模が大きくなるにつれ難易度と消費マナは上がる。だが零距離結界は別で、消費マナは少ないものの難易度は大規模結界をも上回る。昨日ラルカとカーミラはもちろん、常時形而上の鎧を発動し戦っていた。無論、カーミラが放った闇の銛を防いだ時のように、それにプラスして別途結界を張ることもある。
「心配いらぬ。貴公のマナの制御は見事だ。我が君も褒めておいでだった。唯一の弱点だったマナの量も、精霊との契約で解決したと聞く。己を信じてみよ」
「・・・」
クリスティーナがラルカを見た。ラルカはコクリと頷いた。
「術式はわかるか」
「は、はい!」
クリスティーナは瞬時に術式の計算を始めた。自身のマナ、詠唱を考慮し、体内で錬精する術式を導き出す。その速さにジュリアンは感心した。
――何人も我が領域を侵すこと能わず。
「形而上の鎧ぇ」
クリスティーナの皮膚、衣服に薄い結界が張られる。だが、それはわずか数瞬で霧散してしまった。
「・・・・」
「はうぅっ」
何もしゃべらないジュリアンに、クリスティーナは怒られると思い首をすくめた。しかし、事実は違った。
(素晴らしい。まさか一度で発動までできるとは。これほどの才、そしてそれを一見で見抜いた我が君の慧眼、素晴らしい以外の言いようがない)
初めてにもかかわらず、僅かな時間ではあるが成功したことに感心していた。正直見くびっていたつもりはなかったが、1か月で発動まではできれば上出来、と思っていた。形而上の鎧はそれほど難しい魔法である。
「いや、問題ない。今後はそれを長時間持続することを心がけよ。詠唱破棄はとりあえず考えなくてよい」
「は、はいぃ」
「後、貴公の結界の属性は水だな。幸い物理攻撃にも強い属性だ。習得できれば、少なくとも防御力は戦士にも引けを取らなくなるだろう」
「あ、ありがとうございますぅ。じゅ、ジュリアンさんの結界はぁ、闇属性ですよねぇ」
「その通り。闇属性は光と雷以外ほぼすべてに強いが、物理攻撃には弱い。まあ、我はヴァンパイアだからな、物理攻撃はほぼ効かぬゆえ、問題にはならんが。知っているとは思うが、水は木と雷に弱い。気をつけられよ」
「は、はいっ!」
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