少年、真なるヴァンパイアと謁見す②
三人はメイドに先導され、城主の寝室前にやってきた。
「ラルカ殿、ライラ殿、太母様には、くれぐれも失礼の無いようにしていただきたい。よろしいか」
「うん、安心してよ!」
ラルカが元気いっぱいに返事をする。ジュリアンとライラは少し不安になったが、後には引けない。
「太母様、ジュリアン様をお連れしました」
「入れ」
若い娘にも老婆にも聞こえるような不思議な声がドアから聞こえた。メイドが扉を開くと、ジュリアンが先に入った。部屋の中の奥に天蓋付きの豪華なベッドがあり、そこに人影が見えた。
「ただいま戻りました、太母様。ジュリアンにございます」
ジュリアンがその前に跪き、恭しくあいさつをした。ラルカとライラもそれに続いた。
「面を上げよ」
三人が顔を上げる。そこには雪のごとき白い肌と髪を持った、男を知らぬ生娘のような儚げな美少女がいた。頬は瘦せこけ、深紅の目に生気が見られない。動かなければ死体と言われても信じただろう。だが、内面から漏れる威圧感は、彼女が人間ではないことを雄弁に語っている。内包するマナも想像すらできない。見た目は美しい少女でも、その内実は底すらない闇を思わせた。
(この方が、唯一の真なるヴァンパイア、カーミラ様か)
ライラがカーミラの顔を見る。すると、カーミラもライラを見て、少し微笑んだ。ライラは慌てて顔を下げる。カーミラは少し残念そうな表情を見せた。
「苦労を掛けるのう、ジュリアン。わがままを言ってすまなんだな」
「もったいないお言葉にございます」
ジュリアンが頭を下げる。
「その子が、お前が連れてきたという協力者か」
カーミラがラルカに視線を向ける。
「お初にお目にかかります、偉大なる深淵の太母様。ラルカ・エルメルと申します。御目にかかれて恐悦至極に存じます」
ライラ、ジュリアンが驚く。まさかラルカがこのような物言いができるとは思っていなかったのだ。
「ほほ、そのようにかしこまらずともよい。この老いぼれに遠慮はいらぬ。カーミラと呼ぶがよい」
「諱をお呼びしても、よろしいので?」
「古き友、と言うより腐れ縁の縁故のものであろう?久しぶりに愉快な気分じゃ」
カーミラがからからと笑う。
「バーバヤーガは息災か」
「はい、いつぞやは我が姉が大変な失礼をいたしました」
「かまわぬ。今にして思えば、あれは我らの落ち度もあった。気にしておらぬ」
ジュリアンがここまで機嫌がいいカーミラを見たのは久しぶりだった。これだけでもラルカを連れてきたことは成功だと思った。
「ジュリアンよ、よき客人を連れてきてくれた。大義である」
「はっ」
カーミラがベッドから降りた。思わずライラはあっと声を上げそうになった。身に付けているものはほぼ透明で、衣服としての役割があるかもわからぬネグリジェだけ。彼女の人形のような完璧な均整の取れた裸がほとんど見えてしまっている。思わずラルカを見たが、特に反応はしていない。
「太母様、お加減はよろしいのですか」
「はは、もはや我が身が滅びることに恐怖などない。ただ、やり残したことがあるだけじゃ」
カーミラは不自然なようにカーテンで隠されている、部屋の一角を見つめる。そこにあるのはカーミラにとって自身の命より大切なものだった。ゆっくりとそこ近づき、愛おしいものを見つめるような、亡くなった大切な人を慈しむような表情を浮かべ、カーテンに手を伸ばす。
「が、その前に」
カーミラがそのカーテンに手をかけようとした直前、いたずらっ子のように微笑み、振り向いた。
「一つ、手合わせ願おうか」
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