少年、新たな仲間を勧誘す③
「お、おい、大丈夫なのか!?」
慌ててた様子のライラに、
「大丈夫だよ。なんか誤解があるみたいだけど、ヴァンパイアは魔物とは全く違うから。元は僕たちと同じ人間だしね。邪悪な種族じゃないよ」
「そのとおり。人間の中には我らを低俗なるオーガやゴブリンと同一に考える輩もいるからな。腹立たしい限りだ。このように美しい我があんな醜悪な者たちと同じわけが無かろう」
「だ、だが、人の血を吸うんだろう!?人を殺しているんだろう!?」
「我らが人を襲い血を吸うのではない、人自身が我らに血を提供しているのだ。それにおかしなことを言う、人を殺したものが魔物なら、人間自身が最悪の魔物であろうが」
ライラがラルカに目線を送る。「本当か?」と聞いているようだ。
「少なくとも今のヴァンパイアについてはジュリアン君の言う通りだよ。人を襲っていたヴァンパイアも昔はいたみたいだけど」
ラルカの言葉にジュリアンはわずかに顔をしかめた。
「ね、ところでジュリアン君、なんで学園に通っているの?ジュリアン君、ずいぶん古参のヴァンパイアでしょ。階層は?」
「我は、第一階層だ」
「へー!第一階層!」
ラルカが驚いた声を出した。
「階層?」
「ヴァンパイアは、人間をヴァンパイアにすることができるんだ。そしてさらにそのヴァンパイアも人間をヴァンパイアに・・・っていけばいいんだけど、徐々にヴァンパイアとしての力も特性も薄れてくるんだ。第一階層ってことは、始祖様から直接ヴァンパイアにしてもらったってことだから、全てのヴァンパイアの中でも最高位のヴァンパイアってことだね」
「詳しいな」
ジュリアンが感心する。
「お姉ちゃんに聞いたんだ」
ジュリアンがまたやや顔をしかめた。
「な、な、なぜ、そんな高位のヴァンパイアが、学園に来たんだ?」
「うん、それは僕も気になってた。なんで?」
ジュリアンは少し無言になった。口元を手で覆い、なにか考えている様子だった。
(どうする?正直彼女の協力を得るのはほぼ不可能だ。我の正体にも恐らく気付いている。だが、我が習得するのも、あと数十年はかかるだろう。だが、この少年なら――)
少々時間が経ち、やっとジュリアンが顔を上げた。
「その問いに答える前に、一つ質問したい。よろしいか」
「うんっ!」
「貴公は、時魔法は使用可能か」
「時魔法?」
ラルカではなくライラが疑問の声を上げた。
「うん、できるよ。お姉ちゃんほどじゃないけど」
ラルカの言葉に、ジュリアンの眉がピクリと動いた。
「失礼だが、証拠を見せていただきたい」
「うん、じゃあこれ見てて」
ラルカが取り出したのは何の変哲もないハンカチだった。
「?」
ライラが不思議がって見ていると、ラルカの体内で描かれた術式を通したマナがハンカチに伝わる。瞬間、ハンカチがぼろぼろと崩れだした。
「!!」
「おおっ!?」
初めてジュリアンが表情を大きく崩した。ライラも驚きの声を出した。
「じゃ、今度は」
続いて再びマナを通すと、あっという間に元に戻った。
「おお!!戻った!」
(・・・なんと)
「これで最後ね」
ラルカがさらにマナを通す。が、一見何も変わっていない。
「?」
「ライラ、さわってみて」
恐る恐るライラがハンカチを受け取る。手に取るが、特段変わったところはないように見える。
「開いてみて」
四つ折りにされたハンカチを開こうとする。が、びくともしない。それどころか、ただの布のはずのハンカチが鋼鉄の板のように動かせない。それでいて、手触りは紛れもなくただのハンカチなのだ。
「な、なんだこれ!?」
ラルカが笑って再びハンカチにマナを通すと、ハンカチはその形状を崩し、元の何の変哲もないそれに戻った。
「どう?これでいいかな?」
「・・・・・素晴らしい」
ジュリアンが拍手をする。釣られて思わずライラも拍手をした。
「数知れずの無礼、お許しいただきたい、ラルカ殿」
ジュリアンが頭を下げる。第一階層の彼が頭を下げたのは、始祖以外では二人目だった。
(まさか、時の消失まで使えるとは。しかも無詠唱で。時の贈り物に時の略奪も見事だった)
「ラルカ殿、我が目的すべてお話しする。申し訳ないが、人払いを」
ジュリアンがちらりとライラを見た。ライラは少しムッとしたが、素直に退出しようとした。
「ジュリアン君、ライラは僕の友達だよ」
ライラが立ち止まった。うれしさのあまり視界がにじむ。
「・・・失礼した。ではお話しする。実は、我らヴァンパイアの始祖様のことなのだ」
「太母カーミラ様が?どうかしたの?」
「ご存じだったか。バーバヤーガからお聞きになったのか」
「バーバヤーガ?」
ライラがたずねる。
「お姉ちゃんのこと。あの人色んな異名があるから。あ、でも、ライラもジュリアン君も、お姉ちゃんの前で絶対言わないほうがいいよ。お姉ちゃんその呼び方嫌いだから。本当に殺されちゃうかもしれないよ」
ライラは首をぶんぶんと縦に振った。ジュリアンも咳ばらいを一つした。どうやらジュリアンにとってもヨミは恐怖の対象のようだ。
「我らが偉大なる太母カーミラ様だが、ここだけの話、今寿命を終えようとしている」
「えっ」
その言葉に、ライラだけではなくラルカも驚いた。
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