少年、またまた魔物討伐へ③
「まさかぁ、狂戦士の栄誉のメンバーと会うなんてぇ、思わなかったですよぅ」
クリスティーナが情けない声を出した。
「ああ、これは今後の狩りが難しくなるな。さすがに何度も衝突をすると、ヒショウ先生にも迷惑がかかるしな」
「オイラはもう、いくら美人でもあんな怖いお姉ちゃんと会うのはこりごりだっぺよ」
ゴンゾも怯えたように首をすくませた。
「そう言えば、ライラは狂戦士の栄誉の人たちと面識があったんだにゃ?」
「面識ってほどのものじゃないがな。わたしがまだ駆け出しだったときに一方的に見ただけだ。その時はリキッドとゲルの二人はいなかったが」
そこでいったん言葉を切ると、ライラは少し逡巡したが、意を決して続けた。
「あのとき見た三人の強さは忘れない。特にダイガンはすさまじかった。オーガ達をまるで大根のように次々と切り捨てていた。その中にはロードもいたにもかかわらず、だ」
最下位種でさえ村焼きであるオーガの群れはゴブリン等とは比較にならないほどの脅威だ。オーガの上位種オーガロードは城落しである。グレイシアレオと同等の強大な魔物だった。
「その強さ、そして狂暴さから、“凶獣のダイガン”と呼ばれ恐れられていた。ラルカ、たとえお前でも、ダイガンには近寄らないでくれ」
ライラは心底心配そうな顔でラルカを見つめた。
「で、でも、あのスタルクって人は顔に見合わず、優しそうでしたけどぉ」
クリスティーナの言葉に、ライラは少し考えて、言葉を発した。
「あの人は子供には優しいんだ。わたしも以前に会ったときはまだ小さかったから、後方支援を任されて戦闘に参加しないようにしてくれていた。今回会ったときはわたしだって気付かなかったようだが。ただ、子供以外には決して甘い人じゃない。何しろ二つ名が“処刑人”だからな。実力も、狂戦士の栄誉のNo.2のはずだ」
「ふーん。でも、あの棒持ったリキッドさんって人も同じぐらい強いと思うけど」
ラルカの言葉に、ライラが振り向いた。
「そうなのか?」
「うん、たぶん。後あの小さい人、ゲルさんだっけ?あの人はナツメさんと同等ぐらいかやや下って感じかな?まあ、あの五人で一番強いのは間違いなくダイガンさんだけどね」
「そうか・・・」
ライラは唇をかみしめた。自身が手も足も出なかったフロストクイーンを圧倒したナツメ、それを上回る実力のスタルクとリキッド、ラルカの見立てでは最も弱いと思われるゲルも自身より遥かに上だろう。ダイガンは比較にすらならない。
「ま、まあ、とりあえずぅ、今日の成果を換金しに行きましょうよぅ」
「そうだな。あと、ナツメと出会ったこともギルドに報告したほうがいいな。できればヒショウ先生に直接が望ましいが」
「何でもいいから、早く帰りたいべよ。もうお腹ぺこぺこだべ」
ゴンゾの声にみんなが笑みを浮かべ、空気が少し和らいだ。
「こんにちはー!オーザカさんいますかー?」
商業ギルドの受付にラルカの声が響いた。ラルカの持ってくる素材はどれも超一級品が多いため、オーザカが直接鑑定することになっていた。
「ああ、ラルカくん、こんにちは。オーザカさんならあちらですよ」
受付嬢が指をさした方向を見ると、オーザカとヒショウの二人が立ち話をしている。ラルカたち五人が近づく。
「ああ、ラルカ君たちか」
「お、なんや坊ちゃん。また珍しいもんでも手に入れたんか?」
「ヒショウさんごめんにゃ、話の邪魔だったかにゃ?」
カレンが頭を下げる。
「いや、かまわないよ。ちょうど話も終わったところだ。それでは私は失礼するね」
「あ、ごめんにゃヒショウさん。ヒショウさんにも報告があるにゃ」
「報告?」
オーザカに今日の成果を提出するラルカと付き添いのライラを除いた三人はヒショウに連れられて支部長室に入った。
「そうか、ナツメがいたのか。いや、報告してくれてありがとう」
三人の話を聞き終えたヒショウは何か考えているようだった。そこへノックの音がし、ラルカとライラが入ってきた。
「おまたせー!ね、今回はこれだけのお金になったよ」
ラルカが三人に金貨186枚を見せ、それをヒショウの机に置いた。
「じゃあ、ヒショウ先生、これも寄付するね」
「ありがとう、ラルカ君。でも君からはすでに多額の寄付をもらっている。くれぐれも無理はしないでくれよ」
ヒショウは深く頭を下げた。実はフロストクイーンのコアの売り上げをライラが寄付したときに、ラルカは以前グランドバブーンの素材売却で得た金貨も寄付していた。あまりの大金にヒショウも全額は受け取れないと言ったのだが、ラルカは結局全て寄付してしまった。
「でも、僕特に買いたいものないし。それに、お母さんが、困っている人は助けなさいっていつも言ってたから」
「ありがとう。君のお母さんは素晴らしい人なんだね」
えへへとラルカが笑う。ヒショウはまさかラルカの母が聖女などとは知る由もない。
「そうだ、ヒショウ先生に聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと?ナツメと会った時のことは、カレンたちから聞いたけど、そのことかい?」
「うん、そのことで。あの人、嘘ついてたから」
「!!??」
その言葉にヒショウだけでなく、ライラたちも驚いた。
「お、おいラルカ、それはどういう意味だ!?」
「そうだね、嘘ついてたって言うより、隠し事してるって言ったほうが正しいかな。だけど、何を隠しているかはわからなかった。ヒショウ先生には心当たりある?」
「・・・・」
ヒショウは口元を手で隠し、何か考えていた。じばらくすると何かに思い当たったように顔を上げた。
「・・・本当は言ってはいけないことなんだが、君たちには話しておこうと思う」
ヒショウが一つ咳払いをした。
「正直、彼女が何を隠しているかはわからない。だが、以前から狂戦士の栄誉に怪しい動きがあることは確かだ」
「怪しい動き?」
「ああ、彼らは以前は単独のパーティで活動していた。その内容も魔物討伐がメインの、いわば強さを除けば平凡な義勇士だった。だが、数年前に突如シザリオ辺境伯と専属契約をしたんだ」
全員、黙って話を聞いている。
「それからだ、彼らが傘下のパーティを集めだしたのは。私にも加わりたいパーティがいないか聞いてきた。その時は何も思わなかったから、いくつか紹介したこともあったが」
「それは、シザリオ辺境伯の命なんでしょうか?」
「わからない。だが、シザリオ辺境伯は以前から獣人国への戦争を画策していたとのうわさがある」
カレンの顔に怒りが浮かんだ。
「その兵力ってことだべか」
「今思うと、そうかもしれない。私も気付いていれば、紹介なんかしなかったんだが」
ヒショウが手を強く握りしめている。
「大丈夫だよ。じい・・闘神様がいる限り、獣人国に攻め込むなんて出来っこないよ」
不安そうなカレンや自身を責める様子のヒショウをラルカが励ます。
「ありがとう。しかし、七星使徒が帰還してからも、彼らは勢力を拡大している。さすがにジンブ様のいる獣人国へ攻め込むことはしないと思うが。彼らとシザリオ辺境伯が何を企んでいるのか・・・」
ヒショウが黙り込む。
「そっか、ありがとう、ヒショウ先生」
明るい声を出したラルカは、ライラたちに「行こう」と退出をうながした。
「すまない、今の話は誰にも言わないでくれ。ヨミ学長にもね」
「うん、もちろん」
部屋を出る間際にかけられたヒショウの言葉にラルカはにこにこした笑顔で返答しながらドアを閉じた。ヒショウは先ほどの話を言うべきだったのだろうか、としばらくのあいだ自問自答した。
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