少年、またまた魔物討伐へ①
「よーし、いっぱい魔物倒すにゃ!腕が鳴るにゃ!」
翌日の自由時間、ラルカたちは野外訓練の行われた森へ来ていた。結局野外訓練は無期延期になってしまった。そこで自由時間を利用し独自に討伐訓練を実施することにしたのだ。当然教師への許可は必要だったが。
「まったく、現金な奴だ。昨日あれだけ大泣きしたって言うのに」
ライラがあきれたようにため息をついた。
「・・・なんでオイラまで。オイラ鍛冶の修行したかったのに」
「まあまあ、いいじゃないですかぁ。みんなで来たほうが楽しいですよぅ」
呑気なクリスティーナの言葉にゴンゾはまたため息をした。
「ふふ、それじゃさっそく探してみるよ」
ラルカが魔眼の視手を展開する。ラルカのそれは半径約500バルティン(980m)を探知可能だ。しかも魔眼の視手は地中も水中も関係なく探知できるため、これを使用できるだけでパーティの生存率が大幅に上がる。因みにヨミの探知魔法の性能はさらにそれを上回る。しかも、大幅に。
「あ、いたよ。北西の方角に数体、あれはウィッチトードだね」
ウィッチトードはカエル型の魔物である。その名の通り魔法が使用できるほど知能が高い。使用するのはほとんど水魔法だが、まれに他の属性の魔法を使用する個体もある。
「ウィッチトードですかぁ!?それ、村焼きの魔物ですよぅ。やっぱり変ですよぅ、そのレベルの魔物が簡単に見つかるなんてぇ」
「素材はどうなんだ?」
「魔法を使えるのでぇ、コアが比較的高額だったはずですぅ。それにぃ、分泌物に薬効があるらしいですぅ。また肉も食用になるのでぇ、丸ごと回収できればいいと思ういますぅ」
「それじゃ、それつまかえにいこうにゃ」
その言葉に全員が賛同し、北西に歩き出した。
「あ、そういえば」
ラルカが思い出したように口を開いた。
「さっき探知したんだけど、このあたりにいくつかパーティがいるみたい。多分僕たちと同じように、魔物探していると思う」
「この森でか?」
「うん、僕が探知した範囲だけでも3つのパーティがいたよ。武器や防具も装備してたし、多分義勇士だと思う」
「だ、大丈夫だべか。因縁付けられたりしないべか」
「普通のパーティだったら、揉めるとギルドから罰則があるから多分大丈夫だ。だが、もし狂戦士の栄誉の傘下の連中だったら厄介だな。奴らはギルドのこと軽視してるからな」
その言葉に、ゴンゾが怖気づいた表情を見せた。
「ま、とりあえず行ってみようよ。ウィッチトードのあたりには誰もいないみたいだから」
ラルカはウィッチトードの死骸を全て童子の宝物庫にしまい込んだ。あの後すぐにウィッチトードのもとに向かい、ラルカは一切手を出さず、ライラたちですべて倒してしまった。
「案外簡単だったな」
「そうですねぇ。もっと強いと思ってましたけどぉ。たまたま弱い個体だったんでしょうかぁ」
明晰な頭脳を持つクリスティーナでさえ気付いていなかった。魔物が弱いのではなく、自分達が遥かに強くなっていることに。
「じゃ、さっさと帰るべよ。オイラもう疲れただよ」
「ゴンゾ、別に戦ってないにゃ」
「そ、それでも疲れたんだよ」
カレンの突っ込みに慌ててゴンゾが反論した。
「ま、あまり深追いすることもないだろう。物足りなくもあるが、今日はもう帰ったほうがいいかもしれないな。ラルカはどう思う?」
「そうだね、僕もライラにさんせ―――」
ラルカが突然無言になった。
「どうした?ラルカ」
「見つかった」
「?何のことにゃ?」
「この近くにいる人が、探知を発動したみたい。それで僕たちを見つけて、なぜかわからないけど、今僕らのところに向かってきてる」
探知は風の上級魔法だ。魔眼の視手ほどではないがかなり高難度の魔法である。使用者は相当な使い手とみていいだろう。
「だだだ、誰なんだべ」
「に、逃げたほうがいいでしょうかぁ」
「いや、すでに相手に知られている以上、逃げるとあとでより厄介なことになる可能性が高い。こっちは何も悪いことはしていないんだ、誰であろうと堂々と話したほうがいい」
ライラの言葉にラルカもうなずいた。
「そうだね。それにこの人、会ったことある人だし。何の用か聞いてみようよ」
「会ったことある人?」
その言葉が終わると同時に、その人物が姿を現した。瞬間、ラルカ以外の全員に緊張が走った。
「まさか今日もここにきているなんてねえ、ジャリどもが」
現れたのは狂戦士の栄誉メンバーの一人、ナツメだった。円月輪を左右の腰にぶら下げ、不機嫌そうに腕組をしている。すると彼女の後ろから、十人以上の義勇士たちが走ってきた。彼女は彼らを率いて討伐依頼の最中だったらしい。ナツメはラルカの目の前に立つと、上からにらみつけた。
「ダイガンに言われたこと忘れたのかい。まだ乳臭いジャリのくせに、大人の真似事なんざすんじゃないよ」
ナツメの迫力におびえたのか、ゴンゾがラルカの後ろに隠れる。クリスティーナやカレンも下を向いて目を合わせないようにしている。ライラでさえ、緊張した面持ちだった。するとナツメの背後にいる男たちがニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら、ライラの大人顔負けの肢体に舐めまわすような視線を向けた。
「へへ、姉さんの言う通りだぜ。あんまり調子こくと、痛い目に合うかもしれねえぜ。なあ嬢ちゃん、大人の世界を知りたきゃ、俺が教えてやろうか?ベッドの上でな」
男の一人がライラに手を伸ばした。するとナツメがその男の顔に思いきり裏拳を打ち込んだ。男は吹き飛ばされ、はるか後方の木にぶつかり、そのまま動かなくなった。
「黙ってな」
男たちが静まり返る。ナツメは心の中で舌打ちした。
(下品な奴らだ。この程度の連中と組まなくてはいけないなんてねえ)
ナツメは気を取り直し、ラルカを再び睨み返した。
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