少年、獣人の現実を知る②
「これが今日の成果だ」
ダイガンの言葉に、ナツメがフロストクイーンのコア四つとグレイシアレオのコアを目の前の男の前に差し出した。
「そうか」
不機嫌そうな声で言ったのはグズル・フォン・シザリオ辺境伯である。以前にヨミに抗議文を送りつけた相手であり、現在、狂戦士の栄誉を自身の私兵として契約している相手だ。獣人国哿韻との戦争で活躍した英雄の子孫であり、ルクスカーナ王国で最大の領土を持つ大貴族の彼の服装はその名に恥じぬほど豪華だが、容貌はさえない。頭髪は薄く、前歯がやや飛び出ている。背は小柄なゲルと同程度であり、庶民の服を着せればただの中年男にしか見えないだろう。グズルが顎を少し上げると、奴隷の犬の獣人の男がコアを受け取った。彼の屋敷には普通の使用人も大勢いるが、他の貴族の邸宅ではあまり見ない奴隷も少なくない。
「・・・・」
眼の光が完全に消え、正気かどうかも怪しい片腕がない奴隷に、ナツメは嫌悪感を隠し切れない。もちろんそれは奴隷本人ではなく、グズルに向けてである。
「おいおいグズルさんよ、少しは喜んじゃくれねえか?グレイシアレオは城落しの魔物だぜ。国王にも鼻高々で報告できるんじゃねえか」
ナツメのその様子をごまかす意味もあったのだろう、ややおどけた調子のダイガンの声にもグズルのリアクションはない。
「ま、こっちは金さえもらえりゃいいがな。じゃあ今日はこれで帰るぜ」
「まて」
グズルが呼び止めると、ダイガンはめんどくさそうに振り向いた。
「今日、学園の連中に会ったそうだな」
「誰から聞いたんだ?」
「質問に答えよ」
ダイガンはち、と舌打ちをした。
「ちょっとあいさつしたぐらいだがな。それがどうかしたか?」
「今度会ったら少し痛い目に合わせてやれ。奴らこのわしに対し脅しをかけてきおったのだぞ。調子に乗りおってあの魔女が、たかが平民の分際で」
グズルの目に憎しみが宿った。
「おいおいそれはまずいぜ。万が一あのババアが本気になったら、脅しが脅しではなくなるぜ?」
「何のために、お前がいるのだ!」
グズルが金切り声を出す。彼は自身の声の高さをうまく調節することができない。
「人間を狩れ、なんて依頼にゃなかったはずだがな」
「表の話を言っているのではない!わしの大願、知らぬわけではなかろう!そのためにお前たちに大金を渡しておるのだぞ!」
「そう怒鳴るなよ。だいたい、初めに俺が邪魔者はすべてぶっ殺しちまえばいいって言ったら、慎重に事を運びたいって言ったのはあんただろうが」
「そんなことはわかっておるわ!」
分かってねえだろ、とそばに控えてたスタルクは聞こえないようにつぶやいた。隣りのリキッドが肘をつついてたしなめている。
「安心しろよ。あんたの言う通り手柄は立ててやる。今回だって万が一俺がいなかったら、王都の危機だったって王様に伝えてくれよ」
「・・・そうじゃな」
やっとグズルは落ち着きを取り戻したようだ。
「だが、学園、ていうより魔女ヨミを敵にするのはまずい。幸いあのババアは王様にも俺たちにもあまり関心がないみてえだしよ。味方にするのはまず不可能だが、敵にしないことはできる。藪をつついて蛇を出すのはよそうや」
ダイガンの言うことは正論だ。さすがにそれに反対するほどグズルもバカではない。
「忌々しい七星使徒どもが。連中が帰ってこなければ、とっくに目的は達成できていたものを」
またグズルに怒りがわいてきた。ダイガンはめんどくさい顔でため息をついた。
「仕方ねえだろ、帰ってきちまったもんは。だから奴らにも、ほかの国にも文句のつけられないように平和的な方法でって話したじゃねえか」
「ならもっと多くの手柄をたてよ。多少強引でもかまわん。そなたが手柄をたてれば立てるほど、わしの発言力は大きくなる」
「ああ、わかってる。もっともっと強え魔物が現れれば、平和ボケした民衆も危機感を持つだろ。そうすりゃ武力を持つ俺たちを頼るようになる。そして役立たずの王様にはとっとと辞めてもらおうじゃねえか。次の王があんたの甥っ子になれば、あんたが宰相、俺様は騎士団長様だ、そうだろ?」
「ああ、約束する」
忘れないでくれよ、との言葉を残し、ダイガンたちは退出した。
「ふん、粗暴な夷どもが」
グズルはダイガンの去った扉に向かって吐き捨て、寝室へと戻って行った。
「本当のところは、どうするんです?」
グズルの館を離れてしばらくのち、リキッドがつぶやいた。
「なにがだ?」
「学園です。グズルの奴にはああ言いましたが、奴らが邪魔なのは本当です。事を荒立てる必要はありませんが、少しくぎを刺すぐらいはしたほうがいいのでは」
「わたしも賛成だね。ヨミはともかく、ジャリどもにでかい面されんのはいい気がしないからね」
ナツメも賛同する。ゲルも言葉にはしないが頷いている。すると今まで黙っていたスタルクが口を開いた。
「ほっといたほうがいいんじゃねえか。下っ端がからまれただけだろ。悪目立ちは避けたほうがいいしな」
その言葉にダイガンが頷く。
「スタルクの言う通りだ。今はことをあまり大きくしねえほうがいいだろう」
「らしくないねえ。あんたほどの男が」
「あくまで今は、だ。忘れたのか、俺たちの目的を。それが達成されればヨミだろうが何だろうが、俺たちに文句は言わせねえ。それは、もう目の前なんだ。だが、そのときが一番しくじりやすいんだ。今まで何年もかけてきたんだ、失敗は許されねえ。たかが意地やプライドで水泡に帰すようなことあっちゃならねえんだ、分かったな」
ダイガンの言葉に、全員がうなずいた。だがダイガン自身は、いずれ学園の連中が自身の障害になることを予感していた。
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