少年、獣人の現実を知る①
ラルカたちは、ヒショウとカレンの案内で、王都の郊外にあるスラム街に来ていた。西門を抜け、外壁のさらに外側にそれはあった。
「・・・・・。」
ラルカも、クリスティーナやゴンゾも黙って歩いている。今まで王都の壁の中しか見ていなかった彼らにとってスラムは初めて目にするものばかりだった。建物はほぼ木造であり、レンガや石の建築物はほとんどない。ぼろぼろで屋根と壁があればまだましなほうだった。中にはぼろ布を藁で覆っただけのとても建物とは思えないものもあり、路上に寝ているものも多かった。その瞳はうつろで、生きるために必要な希望の光が見えない。そして住人のほとんどが獣人だった。
「ここだにゃ」
カレンが止まったのは、粗末な小屋だった。ぼろぼろになったドアを開ける。鍵はついてなかった。
「おーいお前ら、げんきにしてたかー」
カレンが声をかけると、獣人の子供が三人、トテトテと走ってきた。
「お、カレンじゃねーか。また来たのかよ」
生意気そうな犬の獣人の男の子がやってきた。乱暴な言葉遣いだが、顔は嬉しそうだ。尻尾をぶんぶんと振り回し、喜びを表現している。
「カレンおねーちゃん、お帰り!」
リスの獣人の女の子が、カレンに抱きついた。カレンも彼女の頭をよしよしと撫でている。
「お、お帰りなさい、カレンさん」
最後に現れたのは羊のような角の生えた獣人の子だった。大人しそうなその子は、ラルカたちを見ると、犬の獣人の男の子の背中に隠れた。
「ユン、リリ、フウ、今日もごちそうもってきたにゃ。ほら、いっぱい食べるにゃ」
カレンが三人に出したのは、寮母のグリメルにもらったパンだった。カレンは以前から食事に出たパンを残して自室に持ち帰り、ひそかにそれを子供たちに渡していた。だが、毎回パンを持って帰るのに痩せているのを不審に思ったグリメルに問い詰められ、仕方なく理由を話すと、それ以降はグリメルが余ったパンをカレンに定期的に渡してくれるようになった。余ったにしてはずいぶん量が多いような気がするが。
「じゃ、いい子にしてるんだにゃ。ユン、ちゃんとリリとフウを守ってやるんだにゃ」
「当たり前だ、カレンもヒショウさんに迷惑かけるんじゃないぞ」
生意気言うにゃ、と言ってカレンは小屋を出た。歩き出すと、ラルカたちも続く。
「あの子たちは、みんな親がいないにゃ」
カレンが下を向きながらつぶやいた。
「両親が死んだり、捨てられたり、迷子になったりと事象は様々だけどにゃ。こんな子が、スラムにはいっぱいいるにゃ」
ラルカたちは黙ってカレンの話を聞いていた。
「カレンもそうだったにゃ。カレンのお父さんとお母さんが死んじゃって、カレンは一人でこの町で生きてたにゃ。でも、ヒショウさんが助けてくれたんだにゃ。ヒショウさんのおかげで、カレンは泥棒にならなくて済んだにゃ。生きてこれたにゃ。だからカレンもいつか大きくなって、ヒショウさんのように、この子たちを守っていきたいんだにゃ」
「それでお金が?」
ラルカの言葉に、カレンがこくんと頷く。
「スラムにいる子供たちは満足な食事も、住処もないにゃ。本当はカレン、学校に行かないでギルドで働きたいって言ったんだにゃ。でも、ヒショウさんが、カレンには才能があるから、学校に行ってほしいって。学校に行けたからラルカたちに会えたにゃ。だけど、お金は手に入らないにゃ。だから、魔物の討伐報酬がもらえると聞いて・・・」
そう言うとカレンはラルカたちに振り返り、頭を下げた。
「ごめんにゃ、みんなには迷惑かけたにゃ」
「みんな、私からも謝罪する。カレンにこんなふうに重荷を背をわせたのは、私の責任だ。申し訳なかった」
カレンはそんなことないにゃ、とヒショウの左腕を掴む。ヒショウは悲しそうな顔でカレンの頭を撫でる。ラルカたちは皆何を言っていいかわからなかった。しばらくして、ラルカがやっと口を開いた。
「そういえば、さっき換金したフロストクイーンのコアだけど」
スラムに来る前に、全員でギルドに寄り、フロストクイーンのコアを売却してきた。商業ギルドのオーザカが「いやーこれまた大変な代物でんなー」と大騒ぎするものだから、ギルド中の注目を浴びてしまった。
「これ結局、どうすればいいの?」
150枚の金貨を取り出し、ヒショウに聞いた。
「うむ、話を聞くと功績が最も大きかったのはラルカ君だ。7割をラルカ君が、残りをパーティメンバーで分ける、と言ったところか」
「ポールさんは?」
「ああ、彼は指導員だったからな。今回の件ではギルドから別途報奨金が渡されているから、考えなくていいよ」
「それを言うなら、僕も指導員のポールさんと同じ立場だったから、演習での報酬を貰う権利はないはずだよ」
そう言うとラルカは金貨をすべてライラに手渡した。
「ライラ、貰ってくれる?」
「ああ、わかった」
ライラはあっさりそれを受け取った。カレンたちは少し驚いた顔をした。
「じゃあこれを、この場にいるメンバーで分けよう。意見のある者はいるか」
「か、カレンは受け取れないにゃ。フロストクイーンに襲われたのはカレンのせいにゃ。迷惑をかけただけで、何にも功績上げてないにゃ」
カレンが慌てて受け取りを拒否した。
「わ、わたしだってぇ、何もしていませんよぅ。むしろライラさんの足手まといにしかなっていないですしぃ」
クリスティーナも続いた。
「オイラもあの体たらくで報酬が欲しい、何て言えるほど厚かましくねえべ。ま、だいたいオイラは鍛冶職人になって自分の武具を売って稼ぐほうがいいもんな」
ゴンゾの言葉に、周りが少し感心した表情を浮かべた。
「じゃ、これはすべてわたしの物ということでいいな」
そう言うとライラは金貨の入った袋を、一旦懐に入れると、すぐに取り出しそっくりそのままヒショウに手渡した。
「ライラ君?」
「ヒショウ先生、このお金は、スラムのために寄付します。よろしくお願いします」
ヒショウとカレンが驚いてライラの顔を見た。ライラはラルカの顔を見て、一つウインクをした。ラルカは笑顔でそれに応じた。二人とも事前にそれを決めたわけではないが、お互いがそうするとわかっていたようだ。
「そ、それはダメにゃ。そのお金はライラのものにゃ。カレンが受け取るわけにいかにゃいにゃ」
「だれがお前にやると言った。わたしはスラムに寄付すると言ったんだ」
「し、しかしライラ君、これだけの大金、全額受け取るわけにはいかないよ。少なくとも君は金貨100枚は受け取ってくれないと困る」
さすがのヒショウもたじろいだ。もちろん寄付はうれしい。正直本日ここに連れてきたのも少しだけそれを期待しなかったと言えばうそになる。だがまさか全額とは思わなかった。ライラもそこまで裕福ではないことはわかっている。
「そうだにゃ、今回一番頑張ったのはライラにゃ。ライラの報酬がゼロってのはだめだにゃ!」
「おい」
ライラがカレンをにらみつける。遥かに長身のライラに見下ろされたカレンは思わず一歩後ずさった。
「あれはわたしの金だ。そうだな」
「は、はいにゃ」
「じゃあ、それをわたしが何に使おうがわたしの勝手だ。お前の知ったことじゃない。お前は口を出すな」
ライラがプイっと顔をそらす。頬が少し赤くなっていた。
「ら、ライラ・・・」
カレンの目に涙が浮かび、直後ライラに抱きついた。
「ありがとうにゃ、ありがとうにゃ、ライラは優しいにゃ。ありがとうにゃ」
「またこれか、何度やれば気が済むんだ!うっとおしいから離れろ!!」
みんなに笑いが広がった。
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