少年、強者と出会う⑦
ダイガンが大剣を背中に納刀し、一歩前へと歩を進める。教師、義勇士たちに緊張が走った。その中でロベスピエールが代表し、ダイガンの前に進み出た。脚が恐怖で震えている。が、眼だけはダイガンをまっすぐ見据えていた。
「ダイガンか」
瞬間、ダイガンの左足がロベスピエールのみぞおちへとめり込んだ。
「ぐはっ」
「ダイガン様、だろうが」
ロベスピエールが膝をつく。スタルクがゲラゲラと笑いながら崩れ落ちたロベスピエールを蹴り飛ばした。すると今度はヒショウがダイガンの前に立ちふさがった。
「ダイガン、助けてくれたことには礼を言う。だが、乱暴なまねはよしてくれるか」
ダイガンはふん、と鼻で笑った。
「ヒショウさんよ。それはこっちのセリフだ。うちのもんが何人か世話になったらしいじゃねえか。聞いてるんだぜ」
ダイガンがヒショウをにらみつける。だがヒショウも負けてはおらず、一切視線をそらさない。
「何のことを言っているのか、わからないな」
「しらばっくれるなよ。この学園の奴らに、仕事を邪魔されたって聞いてんだ。それも一人や二人じゃねえ」
ヒショウの顔がこわばる。ロベスピエールら教師陣にも緊張が走る。
「ま、その話はあとだ。今はあんたに用はねえ、消えな。用があるのは、そこの嬢ちゃんだ」
ダイガンがヒショウの右下に視線を向けた。
「僕は男の子だよー!」
いつの間にかヒショウの隣に来たラルカが、両手を伸ばしほほを膨らませ、ダイガンに抗議する。
「ば、ば、バカ野郎、何やってんだ!戻ってこい!」
あわてたライラがラルカに向かって手招きする。
「そうか、済まねえな坊や。おいダークエルフの嬢ちゃん、俺はこいつに少し話がある。お前は黙ってな」
ライラの動きがピタリと止まった。顔に汗が流れる。一声かけられただけで、首筋に剣を突きつけられた気分だった。視線を合わせるとその瞬間に首を飛ばされる気がした。
「おいダイガン、やめろよそんな子供に。ごめんな坊や。このおじさん怖いだろ?安心しな、おじちゃんが乱暴なまねさせねえからな」
スタルクがラルカの頭をなでる。ラルカはえへへとはにかんだ。
「てめえは黙ってろ。坊や、お前の名前は」
「僕、ラルカです。初めまして」
ぺこりと頭を下げる。スタルクは笑顔を見せているが、ダイガンはにこりともしない。
「おじさんの名前は、ダイガンさん?」
「ああ、そうだ。ところでお前だな。俺たちの獲物に手を出したのは」
「?」
(まずい)
ライラが心の中で舌打ちをする。何か言い訳をしたいが、声が出ない。
「それは本当ですか、ダイガンさん」
リキッドが三節棍を折りたたみながら近づいてきた。
「こいつから匂うんだよ。俺たちの獲物のコアの匂いがな」
「おいおいダイガン、いい加減にしろよ。別にいいじゃねえか一体くらい分けてやっても。まだ小さい子供だぜ?そんなに問い詰めたらかわいそうじゃねえか」
「お前、相変わらずガキに弱いな」
なぜかラルカをかばうスタルクに、あきれたようにダイガンが鼻を鳴らす。
「おい坊や、お前だろ、フロストクイーンをやったのは」
「うん」
あっさりラルカが認める。
「そうか、やっぱりな。実は俺たちはな、フロストクイーンの群れを狩ってたんだ。だがその中の一体が逃げやがってな」
「それで?」
「その獲物は、俺たちの獲物ってことだ。それをお前が横取りしたってわけだ。さ、コアを出しな」
「嫌です」
「なに?」
ダイガンの眉がピクリと動いた。ライラの顔が青ざめる。
「これは、僕たちが必死で仕留めた魔物だよ。おじさんたちが追っていたかもしれないけど、それは取り逃がしたおじさんたちの責任でしょ」
ダイガンの顔がこわばる。すると紅一点のナツメが口を開いた。
「生意気なジャリだね。少し怖い目に合わないとわからないのかい?」
「やめろナツメ、大人げないぞ。ダイガンさん、残念だがどうやら理は我らにはない、ここはあきらめましょう」
「ちっ」
リキッドの言葉に一つ舌打ちをすると、ダイガンが後ろを向いた。ライラがほっと息をつく。
「怖い目に合わせてごめんな、坊や。ほら、おわびにプレゼントだ」
スタルクが袋から飴を取り出し、ラルカの手に握らせた。飴は比較的安価ではあるが、それでも菓子と言うだけで貴重なものだった。
「ありがとう、お兄さん」
「ははは、かわいい坊やだな。おい聞いたかダイガン。おまえはおじさんで、俺はお兄さんだとよ!」
ラルカの頭をなでながらゲラゲラ笑うスタルクの軽口にダイガンは答えず、不機嫌な様子で歩き出した。それにほかのメンバーも続く。が、しばらく歩くと立ち止まった。
「坊や」
「なあに、おじさん」
瞬間、その巨体からは想像できない速さでダイガンが間合いを詰め、背中の大剣を横薙ぎした。大剣はラルカの首筋でピタリと止まった。
「おい!何をしてる!」
ヒショウが怒りの声を上げた。だがダイガンはヒショウに目もくれず、ラルカをにらんでいる。
「なぜ、よけない」
「だって、当てるつもりなかったでしょ」
平然とラルカが答えた。ふん、と鼻息を鳴らし、ダイガンは大剣を背に納め、踵を返し歩き出した。が、すぐに立ち止まった。
「おい坊や、ガキはガキらしくごっこ遊びでもしてな。大人の世界に入ってくんじゃねえ。入ってきた奴は、ガキ扱いはしねえ。いいな」
その言葉を残し、ほかのメンバーと共に去って行った。
「ラルカ、大丈夫か!?」
ライラが駆け寄り、ラルカの首をなでる。無事を確認すると、ラルカの頭を胸に抱いた。
「ふわわ」
「バカ野郎!あいつには逆らうなって言っただろう!もう無茶なことはしないでくれ!」
ライラがその豊満な胸にラルカの頭を埋める。周囲の生徒は少しうらやましそうに見ていた。
「だ、大丈夫だよ。何もされてないから」
呼吸困難で苦しくなったラルカがライラの胸の間から顔を出した。
「すまないラルカ君。奴には私から注意しておく。だが、ライラ君の言うとおり、なるべく奴にはかかわらないようにしてくれ」
ヒショウが頭を下げた。ラルカはどうしていいかわからず戸惑っている。
「まあ、今後しばらくの間、野外訓練は保留になるだろう。そうすれば奴と会う機会もないだろうし、その間に私が話をつけるよ」
「え!?野外訓練、やらにゃいの!?」
カレンが悲鳴に近い声を出した。
「ああ、残念だが、さすがにあそこまで強力な魔物が出現するようでは続けるのは不可能だ。仕方がないだろう」
「で、でも、カレンお金稼ぎたいにゃ。もうライラたちに迷惑はかけにゃいから、カレンだけでもやりたいにゃ。お願いにゃ」
カレンがヒショウに引き下がる。ヒショウは悲しそうな顔で、ゆっくり首を振るだけだ。
「あ、あのぅ、カレンさんって、なんでそんなにお金が必要なんですかぁ?」
クリスティーナが遠慮がちに聞いてきた。
「それはわたしも思っていた。初めはただ欲張りなだけと思っていたが、あまりにも必死過ぎる。何かわけがあるんだろ。話してみろ、何か協力できるかもしれん」
「そ、それは・・・」
カレンが口ごもる。するとヒショウが、少し考えるようなそぶりをした後、
「ラルカ君たち、もし良ければ、今日このあと少し付き合ってくれないか」
「え?」
「ひ、ヒショウさん、まさか、連れてくつもりにゃの?」
「カレン、もうすでに我々はラルカ君達に多大な迷惑をかけてしまったんだ。隠しておくのは失礼にあたるし、彼らにはそれを知る権利がある」
カレンは俯き、黙ってしまった。
「付き合うって、どごさ行くんだ?」
「そこにいけばぁ、理由がわかるんですかぁ?」
ヒショウは答えず、カレンの背中を軽く押した。
「・・・わかったにゃ。みんな、ごめんにゃけど、ちょっとだけ付き合ってほしいにゃ」
カレンは覚悟を決め、みんなの目を見た。
「カレンたちの生まれた、スラム街へ」
「それにしてもあの桃色の髪の子、大した坊やだったな。ひょっとしてお前より強ぇんじゃねえか?」
ダイガンがラルカ達と別れてからしばらくたった後、それまで無言だったスタルクが突然話しかけた。
「まさか」
ゲルが首を振る。
「クク、かもしれねえな」
ダイガンはにやりと笑みを浮かべた。
「それほどかい?確かにジャリにしちゃなかなかだと思ったが。あんたの見立て違いじゃないのかい?」
「いや」
ナツメの疑問に答えたのはリキッドだった。
「あれは相当な手練だ。一見隙だらけだし、闘気も一般人並に見えた。だが、あまりにも普通過ぎる。不自然なくらいにな。それに、ダイガンさんの威圧に対して、ほんの僅かだが闘気に揺れが見られたが、その揺れから逆算できる闘気の量を探ってみた」
「それで?」
「底が見えなかった。少なくとも私は彼に勝てる気はしない。ダイガンさんは別だろうが」
その言葉にナツメとゲルが黙った。
「俺も同感だな。ま、だが別にどうだって良いことだ。あの子と戦う理由なんざねえだろう?」
「どうかな」
ダイガンの一言は誰に言ったわけでもなく、本人も確証があるわけでもない。だが、ダイガン自身はラルカが、近いうちに自身の前に立ちはだかるという予感があった。
「ま、とりあえず今日の成果をグズルの奴に報告しておくか」
「あいつの辛気臭い顔は見たか無いねえ」
ナツメが吐き捨てた。
「ま、今は大切な契約者様だ。辛気臭い顔を見るのも仕事と割り切ろうや」
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