少年、強者と出会う③
「これで五体だな」
ライラが魔物の首を切り落とし、荷物の中にしまった。これでライラたちは本日の訓練のノルマを達成したことになる。月光竜胆の力はすさまじく、魔物の肉体をバターのように容易に切断する。
(今年の生徒は粒ぞろいと聞いていたが、ここまでとはな。特にこのダークエルフの子はすごい。戦闘のみの実力であれば、五級の俺を悠に超えている)
ポールはひとり感心していた。経験豊富な義勇士として、数年前から学園の野外訓練に協力していたが、彼が今まで見てきた生徒の中でもライラたちは群を抜いている。それに、彼女が持っている大斧がとんでもない代物と言うことは、一見しただけでわかった。一体なぜそんな大業物を、と思ったが、詮索はマナーに反する。
(他の三人の実力もすごいな。ドワーフの子だって本人は自信なさそうだが、この年齢にしては十分な実力だ。それに、あの武具は彼が作ったと聞いたが、そこらの武具屋よりよっぽど高性能じゃないか)
この子が卒業し、武器屋を開業したら買いに行くか、と本気で思った。
「じゃあ、もう帰るべ。お腹ペコペコだよ」
「そうですねぇ。いいでしょうかぁ、ポールさん」
ポールがはっとした。
「あ、ああ、そうだな。みんなの実力は十分わかった。本日は終了でいいだろう」
そんなポールの声にただ一人不服そうだったのが、カレンであった。
「・・・珍しい魔物、いなかったにゃ」
「仕方ないだろう。むしろいないほうがいいんだ。ここは王都からも近いからな。万が一いたら王都の脅威だぞ」
「お前って、案外欲深いんだべな」
ライラとゴンゾがあきれたように言う。
「まあまあ、いいじゃないですかぁ。今度来たときは、もう少し探してみてもいいかもしれないですねぇ」
それでもまだ不満げの様子だったカレンだが、諦めて踵を返した。その時、視界の隅に、何か光るものを見つけた。
「にゃ?」
カレンが気配を消し、その方向に近づく。ライラたちも慌てて続いた。
「おい、急にどうしたんだ」
「しっ」
カレンが視界の方向を指さす。そこには虫型の小さい魔物の姿があった。
(なんだあれ?見たことないやつだな)
小さい種類の虫型の魔物は弱く素材にも価値がないものが多い。しかしその個体は明らかにこのあたりでは見かけない姿をしていた。形はただのカブトムシなのだが、全身が透明で光が反射し、輝いている。
(あ、あれってぇ、クリスタルビートルじゃないですかぁ?)
(クリスタルビートルだって!?)
ポールはもう少しで大声を出すところだった。クリスタルビートルは氷属性の魔物で、その美しさからコレクターから高額で取引される。
(しかし、なぜこんなところに。こいつは寒冷地にしかいないはずだが)
(何でもいいにゃ。あいつ捕まえれば、一攫千金のチャンスにゃ)
(で、でもぅ、おかしいですよぅ。こんなところにいるなんてぇ。一回ヒショウ先生に報告してからのほうがいいんじゃあないですかぁ?)
(わたしもクリスに賛成だな。あいつ、特に強そうには見えないが、存在自体が異常事態だ。他に異変が起きている可能性がある)
「あ、待つにゃ!」
何か気配を察知したのか、クリスタルビートルが飛び立った。カレンが飛び出す。
「おい、何やってる!」
ライラの言葉が聞こえていないのか、カレンはそのまま追いかけて行った。ライラたちも仕方なく後を追った。
「まったく、今日のあいつどうかしてるぞ!」
「す、すいません、ポールさん。普段はまじめな子なんですけどぉ」
「いや、君が謝ることじゃない。一人にするわけにもいかないし、このまま後を追おう。それにクリスタルビートルは災禍規模は骨齧りだ。そこまで心配いらないだろうし」
「・・・だといいんだけんどな」
ゴンゾの言葉に、他の三人もぞっとしない思いだった。
「今のところは異変は見られないようだな」
ヒショウがほっとしたようにつぶやいた。指導員には非常時の場合に笛を鳴らすよう手配しているが、現時点では誰も鳴らしてはいない。
「ラルカ君、すまなかったね。次回からは君も参加できるように次の会議で提案してみるよ」
「ヒショウ先生」
ラルカがヒショウの言葉を遮った。真顔になっている。ラルカは瞬時に魔眼の視手を発動した。
「全員を、ここに退却させて」
「何かあったのか」
それに答える前にラルカは走り出し、あっという間に見えなくなった。
お読みいただきまして、ありがとうございます。
よろしければ評価、リアクションいただきますと幸いです。




