少年、強者と出会う②
(いよいよ出番だな。頼むぞ、相棒)
野外訓練の当日、ライラは月光竜胆を愛おしげに見つめていた。だが、黄金色に輝くそれは周囲の視線も否応もなく集めている。当然だろう、武器に詳しくない者でも、それが凡百の武器とは比較にならないほどの代物と言うことは理解できるはずである。特にゴンゾの食いつきはすさまじかった。
「お、おいライラ。一体それ、どこで手に入れたんだ!?」
「秘密だ」
「ひ、秘密って、それ、どう考えてもお前が手に入れられる代物じゃないだろう!」
「まあまあゴンちゃん、細かいことは良いじゃない」
「よくねえよ!その武器、オイラの目が確かなら、国宝・ガド・・・」
ゴンゾの口を慌ててラルカがふさぐ。今この時だけ、ラルカはゴンゾの鑑識眼の鋭さを憎く思った。
(ご、ゴンちゃん、今は黙っててよ。他の人にバレたらややこしいことになるから)
「むぐぐぐぐ・・・」
息ができなくなり、やっとゴンゾはコクコクと頷いた。
「カレンとクリスも、今は聞かないで。お願い」
カレンとクリスティーナも聞きたいのはやまやまだったが頷いた。
「みんな、今から今日の訓練について説明する。ちゃんと聞くように」
ヒショウの声にみんなが静かになった。
「今日の訓練だが、魔物の討伐だけではなく、素材の回収も意識するようにしてくれ。回収するのは、討伐の依頼を証明するための部位だ。魔物によって討伐証明の部位も異なる。その知識も問われるし、回収した素材を持ち運ぶのも訓練だ。場合によっては素材を破棄せざるを得ないときもある。その見極めも大切だ」
ヒショウが一息ついて続けた。
「また、魔物によっては高額で取引される素材を持っているものもいる。コアや角、皮などだな。肉が美味の魔物もいる。そういう素材を持つ魔物がいれば、依頼を受けていなくとも討伐する価値はあるだろう。もちろん、無理をしないようにしなくてはいけないがな」
「あ、あの」
カレンが手を上げた。
「なんだい、カレン」
「今回持ち帰った素材は、どうなるんですにゃ」
「討伐証明部位は、我々で回収する。それ以外の素材についてはパーティで好きにしていい。売却したいのであれば、商業ギルドに相談すればいいだろう」
「ほ、ほんとうですにゃ!?」
カレンが目を輝かせた。
「ああ、だが、あくまで今日の目的は討伐証明部位の回収だ。無理をして怪我などしないようにな」
ヒショウの言葉も、カレンの耳には入っていないようだ。
「ふん、卑しい獣人が。金に目がくらむとは、しょせんは奴隷だな」
アウグスト王子がつぶやいた。最近めっきり存在感がなくなり、他の生徒たちからも軽視されていることに気付いており、不満を募らせていた。
「それでは、皆、出発!」
ヒショウの声がすると、カレンが真っ先に飛び出した。慌ててライラたちも付いて行った。その後ろ姿を、ヒショウが心配そうな顔でずっと見つめていた。
「さ、みんな張り切って行こうにゃ。きっとどこかに珍しい魔物がいるにゃ!」
カレンが先頭になって張り切っている。
「ちょ、ちょっと落ち着くべ。オイラ重装備だから、そんな急に動けねえだ」
全身鎧に身を包んだゴンゾがひいひい言いながら必死についてくる。
「ゴンゾの言うとおりだ。焦りは油断を生むぞ。森は死角が多い、慎重に進むべきだ」
ライラも注意をする。
「なんにゃみんな、やる気あるのかにゃ?もっと頑張っていかないとダメにゃ」
「でもぅ、このあたりってぇ、珍しい素材が取れる魔物って、あんまりいないと思いますよぅ、今日はラルカさんもいないしぃ、無理をしないほうがいいですよぅ」
本日から、パーティの人数が五人になった。組むメンバーも生徒たちの任意になったので、当然ラルカ含めた五人で組んだのだが、ラルカはヒショウと同様に待機組になった。
「ふふ、俺もいるんだがな。ま、あの子に比べて俺が強いなんて自惚れちゃいないが」
ライラたちの指導役には、ポールと言う義勇士が付いていた。五級の義勇士で、魔物討伐の実績が豊富なベテランだった。
「す、すみません、そんなつもりじゃないんですけどぅ」
「はは、冗談だ。だが、俺も焦るなって言うのは賛成だ。金より命が大事なのは当たり前だしな」
ポールの言葉に、カレンはまだ不服そうだったが、歩く速度を少し緩めた。
「だがポールさん、前回はここにラクシャーサや、ラーヴァナまで出現したんだ。何か異変が起きているのは間違いじゃないんじゃないか」
「ああ、俺たちも支部長から言われて調査してみた。だがあれ以降村焼き以上の魔物は見つからなかったんだ。若干猛者切りの魔物が多い気はしたが、そこまで極端じゃなかったからな。あのラーヴァナがたまたまなわばりを移動させただけなんじゃないかって結論になったんだ。ま、油断は禁物だがな」
ポールの言葉に、ライラはまだ納得がいっていない表情を浮かべたものの、言葉にはしなかった。
「ラルカ君、今日は大人しいね」
ヒショウは待機組のラルカに話しかけた。
「ヒショウ先生、あんなこと言ってよかったの」
「ん?何がだい?」
「素材を自分たちのものにしていいって。欲は力を引き出す代わりに人を浅慮にさせるから」
(この子は・・・)
ヒショウは声には出さなかったが、ラルカの言葉に驚いていた。普段の授業の様子から、戦闘力は高くとも心はまだ子供だと思っていたが、ここまでシビアに物事を考えることができるとは。それともよほど戦闘経験が豊富なのだろうか。
(本当に、一体何者だ)
ヨミからは自分の秘蔵っ子と言われていたが、詳細は教えてくれなかった。だいたいこの子の年齢を考えると、生まれた時ヨミは冥府に行っていたはずだ。いつ知り合ったのだ?学長の子孫と言う噂は本当なのか?尋ねたい気持ちをぐっとこらえた。
「素材は取得した者の持ち物、と言うのはギルドとしての原則だからね。いくら生徒とは言えど、我々が奪うわけにもいかないだろう?大丈夫、このあたりの魔物であれば指導役の義勇士や先生たちであれば問題なく対処できるよ」
ラルカは答えなかった。ヒショウの言葉に納得していないわけではない。だが、ラルカはこの場に来てからずっと感じていた。それは臭気、と言うよりはあいまいで、だが予感、と言うよりははっきりとした、ラルカにしかわからない、強者の気配だった。
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