少年、少女に魔法を伝授する③
「じゃあ続いて、別の魔法もためしてみようか」
「別の魔法?」
ほほに手形の付いたラルカが元気よく言うと、まだちょっと不機嫌なライラがぶっきらぼうに返事をする。
(こいつ、まだ子供かと思っていたが、意外とスケベなのか?あの時だって―)
ライラは以前ラルカの服を脱がした時を思い出した。父以外の男性の裸を見たのは初めてだった。慌てて頭を振り、記憶を消そうとする。
「うん、ライラ、電牙急襲はできるって言ったよね」
「ああ」
「じゃあ、これもできるはずだよ」
ラルカが臥龍を抜き、マナを刀剣に集中させた。そのあまりの量にライラが思わず後ずさりする。直後臥龍が金色に光り、その刀身に雷をまとっていた。
「な、な、な・・・」
「これ。開闢齎す神杖っていう魔法。これができると物理攻撃と魔法攻撃を同時にできるから便利だよ。できる?」
「で、できるか!」
思わず叫ぶライラ。開闢齎す神杖は雷の最上級魔法である。ライラは中級魔法でさえ一つしか使えない。学園の教師や宮廷魔術師でも上級魔法が関の山だろう。しかも今、ラルカは詠唱破棄で放った。そんなことできるのは七星使徒を除けば、世界中どこにもいないかもしれない。
「そうかな。電牙急襲と原理は変わらないよ。ただ対象が手のひらから武器になって、量が増えただけだよ」
「だけって、お前・・・」
ライラがあきれるのも無理はない。魔法の制御はマナの量が多くなるほど難しくなる。特に雷は元素魔法の中で最も制御が難しい。しかもマナを集中させる対象が自身の肉体ではなく物質になると、さらに難度は跳ね上がる。しかも、電牙急襲は相手に接触した瞬間のみに電撃を放てばいいのだが、開闢齎す神杖は雷をまとうだけではなく、それを持続しなければならない。戦闘をしながら常に魔法を使い続けるようなものである。それが一見単純に思えるこの魔法が最上級に位置づけられる理由となる。
「だいじょうぶ、ライラだったら。それに、月光竜胆もあるし」
「月光竜胆か・・・」
ライラが月光竜胆を握り締める。
「僕の臥龍もそうなんだけど、月光竜胆はオリハルコンとヒヒイロカネが含まれているでしょ。だから普通の武器よりずっと魔力親和性が高いから、楽にできるはずだよ。それに」
ラルカは月光竜胆の刺先を指さした。月光竜胆の中で唯一鉄でできている箇所である。
「ジークさんもヒルダさんも、ライラを見守ってる」
ライラも刺先を見つめた。胸に熱いものがこみ上げる。ライラもただの子供ではない、一瞬で覚悟を決めた。
「わかった。教えてくれ、ラルカ」
「うん、それじゃ初めは、上級魔法の空焦がす雷剣から試してみようか」
空焦がす雷剣と開闢齎す神杖の違いは単純にマナの量だけである。にもかかわらず別の魔法として分類されていることが、この魔法の難易度を物語っていた。
「まずはマナを体内に循環させて、電牙急襲の要領で、手のひらに集中させるように」
ライラが月光竜胆を持ったまま、手にマナを集中させる。
「続いて、月光竜胆にマナを移していくんだ」
だが、なかなかマナが月光竜胆に移って行かない。
「焦らないで。月光竜胆を自分の体の一部と思って。月光竜胆を信じて」
ライラが頷く。目をつぶる。月光竜胆の感触が手に伝わる。両親の顔が浮かぶと、手に月光竜胆が吸い付くような感覚がする。徐々に、マナが月光竜胆に集まってきた。
「いいよ。あとは詠唱と同時に、マナを雷へ返還する術式を描くんだ。あとは発動するだけ。さ、やって」
ライラの額に汗がにじんだ。
――――万物滅ぼす残酷なる光よ、降臨せよ
「空焦がす雷剣 !」
瞬間、月光竜胆が光り輝いた。だが、強烈な雷の力は周囲へ発散しようと暴れまわる。
「くっ」
ライラも必死でマナをとどめようとするが、抑えきれない。
「だ、だめだ、ああっ!!」
当たりに強烈な光が放たれた。思わず目を瞑るライラ。だが、マナの暴発によるダメージが自身の体にないことに気が付き、目を開けた。
「ふう」
ラルカの右手から煙が出ていた。ライラの電撃の暴発を、ラルカが避雷針のように受け止めたため、ライラにダメージはなかった。だが、ラルカの掌には火傷の跡があった。己の手を避雷針にするため、結界を張らず、雷が直撃したのだった。
「ら、ラルカ、大丈夫か!?」
「うん、平気だよ」
「平気なわけないだろう!!」
ライラが泣きそうな声で叫んだ。ラルカの右手を握り締め、自身の胸に抱いた。
「すまない、わたしのせいで、こんな目に・・・」
ライラの目に涙が浮かぶ。
「ほんとに平気だよ。思ったより痛くないよ」
(じゃあ、やっぱり痛いってことじゃないか、バカ野郎)
ライラはラルカの手を放そうとしない。
「大丈夫だから。さ、練習続けよう」
「嫌だ。やりたくない」
「?」
「お前が痛いのは嫌だ、お前が痛いのならやりたくない。お前が苦しいならやりたくない」
駄々っ子のようにライラが拒絶する。ラルカはライラの頬を左手で優しくなでた。
「ライラ、僕が、ライラのお父さんとお母さんに約束したこと覚えてる?」
もちろん、忘れるわけがない。あの日のことは、生涯忘れないだろう。
「僕、ライラのこと助けたい。幸せにしたい。友達だから。僕がしたいの」
ライラは黙っている。
「ね、一緒に頑張ろう?僕、ライラの力になりたい。ライラのこと、大好きだから」
ライラが歯を食いしばる。ジークとヒルダの二人の顔が浮かぶ。二人の墓にラルカが誓いをたてた光景が浮かぶと、涙がにじんだ。ラルカに対し、お前はすでに二人への約束は果たしている、と思った。
「ラルカ、もう一度やってみる。見守ってくれ」
「うん!」
ライラは再びマナを月光竜胆に集める。
(とうさん、かあさん、力を貸して。わたしのために。そしてラルカのために。お願い)
――――万物滅ぼす残酷なる光よ、降臨せよ
「空焦がす雷剣 !」
再び月光竜胆が光を放つ。先ほどと同じように、雷の力が暴れまわる。
(たえろ、たえるんだ。また、ラルカを痛い目に合わせる気か!)
ライラが必死に抑える。
「いいよ、その調子、頑張れライラ!」
ラルカの声に、ライラの目が大きく開かれた。
「おおおっ!」
そしてついに、雷は月光竜胆にその力を宿した。
「やった、ライラ、成功だよ!」
「し、信じられない。わたしが、上級魔法を」
ライラは月光竜胆の光を見つめる。一瞬笑顔の両親の顔が見えた気がした。
「ふふ、これで遠近ともに雷魔法で戦えるようになったね」
そう言うとラルカが臥龍と鳳雛を抜き、二刀流の構えを見せた。
「ライラ、このまま手合わせしよう」
ライラは一瞬はっとしたが、にやりと笑い、月光竜胆を構えた。
「ああ!いくぞ!」
ライラはラルカへの感謝の気持ちを、空焦がす雷剣 を宿した月光竜胆に込め、思いきり振りかぶった。
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