少年、少女に魔法を伝授する②
その日の自由時間、ラルカとライラは二人きりで無人の荒野に来ていた。ライラがラルカを修行に誘い、ラルカが快諾した。
「わたしに最も足りないのは、魔法の精度だと思うんだ」
ガドンの武器完成を待つ間の十日間、ライラは一人で自身を見つめなおしたい、とラルカの修行の誘いを断っていた。そのため、二人が一緒に修行をするのは今日が初めてである。
「わたしは現時点で、相手が大型かつ動きがあまり早くない魔物相手にしか、魔法を使用していない。正確に言えばできないんだ」
「ライラが使用できる魔法って、どんなのがあるの」
「雷撃と電撃手、それから電牙急襲だな。だが基本雷撃しか使わん。武器で両手がふさがっているからな」
電撃手と電牙急襲はどちらも素手で直接相手に触れて電撃を流し込む魔法である。電牙急襲は中級魔法でありかなりの威力を誇る。が、魔法が持つ利点である遠距離攻撃の恩恵は受けられない。
「独自魔法は?」
「できるわけないだろう」
あきれたように言うが、これはライラが正しい。独自魔法とは本来魔法学の学者が開発するものであり、一般的に普及すれば初級~最上級へと分類されるようになる。が、初級でも一人で独自魔法を開発するのは非常に難しい。ラルカの神気の雷霆、ヨミの永遠の棺、ヒルダの接触禁止の紫衣などであるが、ヒルダは魔法の天才である母と協力して開発に成功しており、一人で開発したラルカとヨミの二人は世界屈指の天才だからこそできた芸当であるといえる。
「できれば遠距離での攻撃手段があればいいんだが。初級魔法である雷撃でさえ、命中精度が上がらないんだ」
悔しそうな表情を見せた。今まで必死に修行しても、どうしても上達しない。ライラの魔法制御の技術は生徒の中でもラルカ、クリスティーナに次ぐほど高いが。それほど雷の遠距離魔法の制御は難しい。
「どうすればいいか、教えてくれないか」
「ふふ、そこで、これの出番なんだ」
じゃじゃーんと言いながらラルカが小箱を取り出した。
「桜襲じゃないか。それが雷魔法と、どう関係があるんだ?」
「ふっふっふ、これがあるんだなー」
ラルカが得意げな顔をする。
「なんだ、もったいぶるなよ」
ライラがラルカのほっぺたを両手で伸ばす。ラルカの頬はゴムのようによく伸びた。
「うにゅにゅっ!?、い、今から説明するよ。まずは持ってみて、全身にマナを循環させてみて」
ライラが言われたとおりにする。
「そうしたら、桜襲にマナを通すの。そして、そのままの状態で、投げてみて」
ライラが桜襲を投げる。少し離れた崖に刺さった。
「では、桜襲にめがけて、雷撃を撃ってみて」
「え!?」
思わずライラが躊躇した。貰ったばかりのものにそんなことをしていいのだろうか、と思ったし、そもそもそこに当てる精度なんて無いと、さっき話したばかりではないか。
「あ、消えちゃった」
「?なにがだ?」
「もう一回、やってみて。今度は投げた後、なるべく早く放つよう心掛けて」
訳が分からなかったが、ライラはラルカの言葉を信じた。桜襲を投げると先ほど当たったところのすぐ近くに命中した。ライラはすぐに詠唱をし、雷撃を放った。すると今投げた桜襲に命中し、崖の一部が崩落した。
「あ、当たった・・・」
思わずライラが自身の手を見つめた。
「い、今、何をしたんだ?」
「ふふ、すごいでしょ。桜襲を投げた時、マナが通った軌道に雷の通り道のようなものができるの。それを通るから、間違いなくそれに命中するんだよ。でも、すぐ消えちゃうけどね」
ラルカが胸を張る。その生意気な顔が少しイラついたライラはまたほっぺたを伸ばした。
「しかし、こんな簡単にできるとは。いや、驚いた。これも桜襲のおかげだな」
「おじいちゃんに頼んで攻撃力より魔力親和性を重視してもらったからね。でも、ライラがマナの操作が元々上手かったから、こんなに簡単に成功したんだよ。僕も初めは、全然魔法が命中しなくて。そこでおじいちゃんに頼んで練習用の短剣を作ってもらったんだ。それはもう壊れちゃったけどね」
「そうか、でもこれで、遠距離の敵にも有効な攻撃手段ができたな」
「うん、この調子だとすぐに上級魔法もできるようになるよ」
そんな簡単に上達できるのはお前だけだろう、とライラは思った。
「桜襲は練習用ってだけじゃなく単純に武器としても強いから、実戦でも十分使っていけるよ。ただ、雷の通り道はすぐに消えるのが難点だけど」
「ああ、注意するよ。ありがとう」
「そうだ、おじいちゃんが、桜襲を収納するのに、これを使えって」
ラルカが取り出したのは、ナイフを収納するためのホルスターだった。
「これ、ベヒーモスって魔物の皮で作られてるから、頑丈で、桜襲を入れておいても大丈夫って言ってたよ」
子供でも知っている国崩しの大魔の名前を、ライラは聞かなかったことにした。
「ありがとう、つけてみる」
ライラはラルカからホルスターを受け取り、腕に装着しようとすると、
「あ、そこだといざって時に取り出しずらいよ。ちょっと貸して」
ラルカはホルスターをライラから奪うと、それをライラの太ももに付けようとした。
「お、おい」
「あ、動かないで」
思わずライラがたじろぐが、ラルカは気にも留めない。ライラの太ももを遠慮なくさわっている。ライラが思わず顔を赤らめた。
「うーん、ライラ足が太いから、なかなか付けられないね」
「なっ!?」
「ちょっと後ろからつけてみるね」
ラルカが後ろに回る。目の前に豊満なライラの臀部があった。
「ふふ、ライラってお尻もおっきいんだね。お母さんみたい」
「・・・」
ラルカからライラの顔は見えない。そのため、自身の失言にまだ気が付いていない。
「はい、終わったよ」
ライラの脚にホルスターを装着し終えたラルカがやっと顔を上げると、ライラがゆっくりと振り返った。
「あ、あれ?」
その顔の異変に、やっとラルカは気付いたが、時すでに遅し。
「人が、気にして、いること、を!!」
荒野に乾いた音が響いた。
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